61
「ある日 あなたと 歩いてた
いつか 今より 良い日をと
歌を 歌って 嬉しいな
笑顔 描いて 永遠に
想い 想われ 想い合い
愛の歌を歌いましょう」
「何の歌なんだ?」
「んー、今、考えたの」
「え?」
本当に今考えたのか?
だとしたら…。
光の並外れた才能を見た気がする…。
「か行以降もあるのか?」
「今、考えてる」
「また出来たら歌ってくれるか?」
「うん!」
未来の歌姫は、小さな翼を嬉しそうにはためかせて、ニッコリ笑顔を見せてくれた。
「ん~んん~」
「それにしても、ご機嫌さんだな」
「えへへ」
何があったかは分からないけど、光はすごく機嫌が良かった。
いや、いつも機嫌は良いんだけど、今日は殊更機嫌が良かった。
「家族 関わり 風の音
希望 聞いたよ キミの声
来る日 挫けず 苦しいときも
決して 消されぬ 結束は
超えて こうして 心まで
帰ろうキミと腕を組み」
「ほぅ。もう出来たのか」
「うん!」
「何してるの?」
「響もやってみるか?五十音を頭に並べて、歌を作るんだ」
「……?」
「響には、難しいかな」
「そ、そんなことないよ!」
「じゃあ、やってみて」
「………。どうやったらいいのか分かんない…」
「ふふふ」
「むぅ…。何がおかしいのよ…」
「ちゃんと、教えてあげるから。響も、一緒に、考えよ?」
「え?あ…うん!」
光は一から丁寧に歌の作り方を教えて。
響は説明を熱心に聞いて、早速考えているみたいだった。
「さ…さ…五月雨?」
「五月雨なんて、どうやって繋げるんだ」
「さ…桜」
「桜か。次は?」
「さ…裁縫…」
「それは"桜"だろ」
「むぅ…。難しい…」
「ゆっくり、考えよ。時間が掛かってもいいから、納得のいく、歌を作ろ」
「…そうだね」
「うん。じゃあ、桜に続く、言葉だけど…」
ひとつずつ、それでも確実に。
何回も何回も吟味して、二人だけの歌を紡いでいった。
窓から、セトが大きな欠伸をしているのが見えた。
明日香もセトのたてがみに潜り込んで。
「そろそろ寝る時間だ。また明日考えよう」
「もうちょっと!」
「ダメだ。子供が寝ないで誰が寝るんだ」
「響、寝よ。歌は、逃げないから」
「うぅ…。せっかく波に乗ってきたのに…」
「明日はもっと大きな波が来るかもしれないだろ?」
「来ないかもしれない…」
「…響。悪い方に考えてたら、悪い結果しか招かない。分かるか?」
「………」
「明日はきっと、今日よりもっと良い日になる。…どうせ考えるなら、そう考えた方が得だとは思わないか?」
「…思う」
「じゃあ、どうする?」
「明日も良い日となりますように。大きな波が来ることを祈って」
「今日は、おやすみ。また明日。きっと、明日は、今日より良い日」
「そうだな。よし、部屋に戻ろうか」
「「うん!」」
二人に手を引かれ、部屋に戻る。
響は、なんとか寝るまででもと、必死に考えているようだったけど。
部屋に着いて中に入ると、風華と葛葉だけがいた。
葛葉はすでに静かな寝息を立てていて。
風華の服をギュッと握り締めているのが可愛かった。
「望は?」
「香具夜のところだと思うよ。すごく熱心に話を聞いてたじゃない」
「熱心なのも良いけどね。あんまり気を張られても困るって言っておいてよ」
「ん?香具夜?」
「はい、望。途中で寝ちゃった。昼もいっぱい遊んでたし、疲れてたんでしょ」
「ご苦労さま。確かに最近、意識も少し変わってきたみたいだしな」
「あ、私も思った。なんとなくお姉ちゃんになったというか」
「望お姉ちゃんは、望お姉ちゃんだよ?」
「うん。そうだけど、違うんだ」
「……?」
「まあとにかく、ありがとう」
「可愛い妹のため。礼には及ばないよ」
「ふふ、そうかもな」
「じゃあね。お休み」
「お休み」「お休みなさい」「おやすみ~」
香具夜は軽く手を振って帰っていった。
それを見届け、望を布団まで運んでいく。
「さあ、寝た寝た。寝ないと明日は来ないぞ」
「うん。おやすみ。お母さん、お姉ちゃん」
「おやすみ~」
「お休み」「お休みなさい」
布団は並んでいるだけで、誰がどこで寝るなんて区別は、もうなかった。
響も光も自由な布団に潜り込んで。
私は残った布団に寝転ぶ。
響はうつ伏せ、光は横向きで寝ている。
「お母さん…」
「ん?どうした?」
「えへへ…なんでもないよ…」
「そうか」
光の方に近寄って頭を撫でてやると、一瞬ニッコリ笑って、眠りに落ちていった。
「…姉ちゃん」
「風華も撫でてほしいのか?」
「うん。でも、そうじゃなくて」
「どうした」
「…おめでとう。兄ちゃんから聞いたよ」
「そうか」
「契りの証人、見せてくれない?」
「ああ」
引き出しにしまっていた刀を取り出して、風華に渡す。
風華はいろんな方向からそれを見たあと、柄を持って目を瞑る。
「二人の旅路が良きものとなりますように。出来れば、甥か姪の顔も早く見たいな」
「ふ、風華…!」
「ふふふ。でも、兄ちゃんが嫌になったら、早く見切り、付けなよ。姉ちゃんは、兄ちゃんには勿体無いくらいなんだから」
「ふふ、ありがとう」
「どういたしまして。それにしても、これでやっと姉ちゃんの妹になれるね」
「風華は私の可愛い妹だ。今までも、これからも」
「…うん」
それは変わらない。
ずっと、ずっと。