59
利家が政務に戻り、私は暇を持て余していた。
…まさか、こんな日が来ようとは思わなかった。
儀のあと、貰い受けた小さな刀を取り出す。
…この刀が、契りの証人。
さっきのことを思い出すと、胸のところが温かくなった。
「利家…」
「うわっ!灯!?」
「もう…。お姉ちゃんったら、つれないなぁ。それ、契りの証人でしょ?」
唐突に現れた灯。
そして、刀をジッと見詰める。
「うん。やっぱりそうだ。名前が彫ってある」
「あ、灯…」
「おめでとう、お姉ちゃん。さあて、今日は盛大に祝わないとね!」
「あ…いや…」
「…分かってるよ。私も、お姉ちゃんとお兄ちゃんが言うまで黙ってる」
「うん…」
「でも、私に何の相談もしてくれなかった罰」
そう言って、私を抱き締めて、額を合わせてくる。
「二人の未来が明るいものとなりますように。順風満帆、家庭円満。夫婦喧嘩はほどほどに」
「…うん。ありがとう」
「嫌になったら、お兄ちゃんを張り倒して、私のところに来なよ」
「ふふ、分かってる」
しっかり灯を抱き締めて。
…ありがとう、灯。
暇をしてるならと、灯に部屋に来るよう誘われた。
「ただいま~」
「お帰り」
「何をしてるんだ?」
「ん?ちょっとな」
美希は、灯の覚書を横に置いて、丁寧にそれを書簡に写していた。
「ほぅ。左利きか」
「羨ましいか?」
「いや、別に」
「えへへ。お姉ちゃんは両利きだから」
「へぇ~」
「羨ましいか?」
「うん。羨ましい」
「ふふ、良いだろう」
「うん。良いな。私にも分けてくれ」
「また考えておくよ。それで、何をしてるんだ?」
「私の覚書の整理と、美希の勉強を兼ねて」
「勉強?」
「うん。料理のね。実際に作るのが一番良いんだけど…」
「食材を出来るだけ無駄にしないように…だな」
「ああ。実験の真似事をするのは、もっと腕を磨いてからだ」
「ということは、美希は調理班に入るのか?」
「うーん…そうだな…」
美希は筆を止めて、しばらく考える。
「他にどんな班があるんだ?」
「戦闘班、医務班、伝令班。それぞれにいろんな仕事が割り当てられてるから、班名通りにはいかないんだけどね」
「ふぅん…」
「戦闘班にはお姉ちゃん、医務班には風華、伝令班には望、調理班には私がいるよ」
「ほぅ…」
「あと、今ならどこに入っても暇だよ」
「余計なことを言うな」
「葛葉は?」
「葛葉?葛葉はまだどこにも入ってない」
「そうか…そうだよな…」
葛葉が気になるんだろうか。
「よし…。やっぱり私は調理班に入るよ」
「やった!」
「そうか。じゃあ、暇なときで良いから、登録書を政務室に出しておいてくれ」
「分かった」
「登録書は灯が取ってきてくれるから」
「えぇっ!?私!?」
「何か問題でもあるのか?新人の世話は先輩が見るものだ」
「せ、先輩…。むぅ…。分かったよ…」
「よろしくな。先輩」
「うん」
先輩と言われて、悪い気はしないようだった。
照れくさそうに頬を掻き、少しうつ向いて。
「さて、先輩。ちょっと喉が渇いたから、飲み物を持ってきてくれないか?」
「うん…って、何かおかしくない?」
「おかしいか?」
「おかしくないだろ」
「もう!二人して!」
灯の反応がまた面白くて。
…結局、みんなで厨房へ水を貰いにいった。