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柏葉と一緒に、ぼんやりと空を見る。

いつも通りのなんでもない空だけど、柏葉が飛行機械を履いて飛び回っていたら、また違った風に見えるんだろうか。

…戦が始まると、違う空になってしまうんだろうか。


「ただいま戻りました」

「…エスカ」

「む?なんだ、もう帰ってきたのか」

「えっ?あの、どういうことでしょうか…」

「ん?いや、もっとゆっくり楽しんできてもよかったのだぞ、ということをだな」

「いえ。リュナムクさまを放って、私だけ楽しむなんて出来ません」

「それでは、新しい術を掛けた意味がないではないのだがな」

「す、すみません…。でも…」

「…エスカ。私は、もうそろそろ、お前は一人の女として生きるのがいいんじゃないかと思っている。私の従者ではなく」

「リュナムクさま…。それは、エスカがリュナムクさまのお役に立てていないということなのでしょうか…」

「そうではない。ただ、お前にも好きな者が出来たのだから、私になど構わず、そういう幸せを掴んでほしいのだ」

「そんなこと…出来ません…」

「ただいま戻りました」

「む、セカムか」

「………」

「どうされました?」


エスカと、私の後ろ…リュナムクを見比べながら、狼の姿のセカムは首を傾げる。

まあ、いろいろと考えないといけない問題なのは、確かだろうな。


「セカム。お前は、エスカのことをどう思っているのだ」

「テスカトルさまのようなことを仰いますね。…私は、エスカのことは好きですが、何分そういう経験がありませんので、それが異性としてなのか、友人としてなのかは、自分でも分かりません。ただ、エスカと一緒にいれば楽しいですし、ずっと一緒にいたいとも思います」

「そうか…」

「本人の前で、えらいこと聞きよんね。答える方も答える方やけど」

「どういうことだ?」

「分からんねやったらええけど。でも、エスカ本人の前で、そういう話をすんのは、あんまり好ましくないと思うよ」

「………」

「む、そうなのか…。しかし、私は本当に、エスカには幸せになってほしいのだ。ここに留まるか、私の故郷に帰るかも、まだ決まっていないのだし。ちょうどいいときだと思って…」

「留まるか帰るかって?」

「もともとこいつらは、長らく暮らしてた場所を追われて、リューナが昔に住んでいた北の住処に帰る旅路に就いていたんだ。その途中でいろいろとあって、今ここにいる」

「いろいろって?」

「まずエスカとリューナがはぐれたんだけど、そのあと、リューナは力が弱ってオレに憑依しなければならない状態になって、エスカはリューナの術の範囲外に出て全身大火傷だ」

「えっ?大火傷?」

「エスカは、もとは普通の人間だ。それを、私の術で半不老不死の状態にしている。ただ、その術は闇の属性が強く、太陽の光を浴びると焼かれてしまうのだ」

「へぇ…。大変やってんねぇ…。ほしたら、何年くらい、ここにおんの?」

「何年もいない。何週間か、といったところだ」

「えっ。でも、完璧に治ってるやん」

「リュナムクさまの術のお陰で、治癒力も何倍にもなってるから、治りが早いんだ」

「へぇ、すごいなぁ…。あ、もしかして、その刺青が?」

「そうだよ。ここから、リュナムクさまの力を受け取って、溜め込んでるんだ。だから、しばらくはリュナムクさまから離れても問題ないんだけど、光を遮る術は、今日のとは違う術で、どうにもならなかったから…」

「ふぅん…」

「そういえば、柏葉は、この刺青見ても、あんまり何も言わなかったよね」

「まあ、身体に模様描いてる人は見慣れてるからねぇ」

「そうなんだ」

「教官の一人が、民族の伝統として、身体にいろんな模様描いてんねん。まあ、刺青とは違うけど、似たようなかんじやったから」

「ふぅん。そんな人がいるんだ」

「うん。…まあ、とにかく、それはええとして、や。話聞いてもうたからしゃーないけど、うちの考えとしては、セカムがもうちょいはっきりした態度取れたら、エスカも今後のこと決めやすい思うねん」

「はっきりとした態度とは、具体的にどういった態度でしょうか」

「エスカのことが好きやねんやったら好き、好きやないんやったら好きやないって、はっきりしたらどないやってゆうてんねん」

「私は、異性との恋愛関係はもちろんですが、誰かとの交友関係というのも、ほとんど経験したことがありません。ですので、今は手探りの状態です。こんな状態で、とりあえずで決めてしまうと、後々エスカを傷付けてしまう可能性もあります。好きであるからこそ、今は慎重になり、心が決まったと思えたときに、また伝えようと考えているのですが」

「そうやって長い時間取る方が、実は傷が深くなるゆうこともあるけどね。どっちがええとは言えんけど…エスカは、セカムの返事を待てるん?」

「えっ?えっと…わ、私も、まだ考えが纏まってないから…」

「ふぅん?」

「………」

「まあ、待てるってことやな」

「うん…」

「ほんなら、そういうことで、ここに留まるんか、リューナのもとの住処に帰るんかの選択も、そのときまで保留ってことでええ?」

「私は構わない。急ぐ必要もないからな」

「決まりやね。セカムが、エスカを嫁候補として好きなんか、友達として好きなんか決める。その結果を聞いて、エスカはここに留まるんか、リューナのもとの住処に帰るんかを決める。これでええな」

「ああ」

「うん。…はよ決めや、セカム」

「焦ると、いい結果は出ません」

「せやゆうたかて、いつまでも先延ばしにしたらあかんねんで」

「はい。充分、分かっているつもりです」

「そんならええ」


まあ、いちおう、この問題の解決法を定めるということで、決着したと言えるかな。

何を言ってるのか、自分でも分かりにくいけど。

…しかし、ある問題に対して、それぞれの言い分を整理し纏めて、最善、あるいは、最大公約数的な解決を試みるという、集団の先導者としての能力は、やはり戦時下という状況で得たものなんだろうか。

娘がそういう能力を持っているというのは嬉しいことだけど、そう考えると複雑でもある。

戦という一文字を通すだけで、純粋な喜びも、全てくすんでしまう気がして。

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