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「料理大会、まだかなぁ」

「お前としては、来ない方が当番が回ってこないからいいんじゃないのか?」

「なるほど、一理ある」

「まったく…」

「ねぇ、そんなことより、伝通って面白いの?」

「どうかなぁ。今はまだ伝通放送も広まってへんみたいやし、受信機単体では、そんなおもろないんちゃうかな」

「でも、海の向こうの放送も聞こえたりするんだから、面白そうじゃない」

「えぇー。聞こえるかどうかも分からない放送を待つのはねぇ」

「そんなだから、灯はせっかちだとか、辛抱出来ないとか言われるんだよ」

「別に言われてもいいよ。だいたい、言葉も分からない放送を聞いてどうするのよ」

「言葉は分からなくても、音楽は分かるでしょ」

「外国の人と私たちでは、感受性が違うかもしれないしねぇ」

「柏葉が綺麗な曲だって思ったんだから、私たちも同じでしょ」

「柏葉の感性が特殊なのかも」

「灯がひねくれてるだけでしょ」

「なんでそうなるのよ」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ。なんで、柏葉の方がおかしいってことになるの?」

「おかしいなんて言ってないでしょ」

「ここで喧嘩をするな。せっかくのごはんが不味くなる」

「うっ…」

「喧嘩じゃないよ!」

「それなら、何なんだ」

「意見の食い違い」

「じゃあ、意見の食い違いを論じるのは、別の場所でしてくれ」

「お姉ちゃんは、どう思ってるのよ」

「どうとも思ってない。でも、自分の体験をみんなに聞いてほしいとか、誰かが体験したことを共有したいとか、そう思う気持ちは理解出来る。風華の肩を持つわけではないが、お前には確かにひねくれた部分があるし、それはお前の悪いところでもある」

「風華の肩持ってんじゃん…」

「昼ごはんの邪魔をされてる者の立場、それから、お前の姉としての立場からの意見が、たまたま風華の言うところと一致したというだけだ」

「むぅ…」

「ほら。裏付けされたじゃない」

「風華。何度も言うが、オレは、お前たちに昼の時間を邪魔されてる者の立場から意見を言ってるんだ。お前も、伝通放送が楽しみだからといって、他のやつらにそれを押し付けようとするのも、いただけない態度だ」

「押し付けようとなんて…」

「お前は、そういうつもりはないかもしれないけど、言われた側からすれば、そう受け止められることもあるということだ」

「うっ…」

「まったく…。静かに食べることだな。少なくとも、オレがいる前では」

「はぁい…」


なんで、私がこんなことを言わないといけないんだ。

こいつらも子供じゃないんだから、喧嘩にせよ言い争いにせよ、そういうのは自制してもらいたいものだな。



昼ごはんも終わり、風華とは別れて部屋に戻る。

昼寝を始めている子供たちを避けながら、また屋根縁に行く。

屋根縁では、りるとサンの二人が何かしていて。

…あれは、飛行機械か?


「お前ら、何してるんだ」

「これー」

「あっ、綾華」

「お前ら、勝手に触ってたのか」

「うっ…」

「ええやん、お母ちゃん。ちょっとやそっとで壊れるもんでもないし、そんな危ないもんでもないし。あんま怒ったらんとって」

「危ない危なくないというのもあるけど、オレが言ってるのはそういう問題じゃない。他人の持ち物に、勝手に触ってること自体が問題なんだ。だいたい、触って危ないものを、お前が無造作に置いてるわけがないだろ。三十八式はちゃんと仕舞ってあるし」

「うちの持ち物くらい、触られても構わんよ。それに、他人は酷いんちゃうかな」

「はぁ…。まあ、今日は、柏葉に免じてやめておいてやる。もう勝手に触るなよ、お前ら」

「はぁい…」

「でも、これ、りるがさっき履いたとき、ブイーンって言ってたよ」

「履いたのか」

「あっ!内緒だって言ったのに!」

「サンは、ダメだって言ったもん!」

「騒ぐな、お前ら。まったく…。もうさっき言ったから、今日は大目に見てやるけど、勝手にそういうことをするな」

「むぅ…」

「せやけど、これを起動出来たってだけで、うちはすごい思うで。結構気合い入れたらな動かんし。りるは、術式使えるん?」

「……?」

「いや、たぶん無意識だろうな」

「へぇ。せやったら、余計にすごいなぁ」

「ねぇ、りるが褒められてるの?」

「いちおうな」

「えへへ」

「ズルい、りるばっかり!」

「でも、勝手にこれを触って、履いたわけだから、本当なら、物凄く怒られてるんだぞ」

「じゃあ、ズルくない」

「そうだな」

「んー!」

「文句を言うやつには、さっきのは取り消して、みっちり怒っておかないといけないな」

「うぅ…」

「まあ、豪火で反応するようになってるから、りるは豪火が使えるんやね」

「何それー」

「術式ゆう不思議な力で、火属性の術の中でも、特に威力も爆発力もある術やで」

「カッコいい?」

「えっ?まあ、格好いいゆうたら格好いいかなぁ。普段使う分には、かなり使い勝手悪いけど…。薪かて一瞬で灰になるし…」

「ふぅん」

「なかなか制御が難しい術やね、強力な代わりに」

「ねぇ、これ履いたら、月まで行ける?」

「えっ?唐突やね…。まあ、月は無理かもしれんなぁ」

「りるね、月のウサギに、お餅を貰うんだ!」

「へぇ、ええね」

「月には全然空気がないって、前に読んだ本に書いてあったよ。ウサギに見えるのも、月のデコボコだって」

「いるもん!月に行ったら、ウサギがいるもん!」

「まあ、月にウサギがいるかどうかの議論は、今は横に置いておけ。とりあえず、その綾華では、月には行けない」

「むぅ…。じゃあ、お餅は?」

「また調理班のやつらにでも頼め」

「んー…」

「大丈夫やて。空を飛べるようになる機械が発明されたんやから、月まで行ける機械も発明されると思うよ」

「ホント?」

「いつになるかは分からんけどな。きっと、そういう日ぃは来る」

「じゃあ、楽しみ!」

「せやね」

「サンは、望遠鏡が欲しい」

「望遠鏡か。まあ、天体観測に興味を持つにはちょうどいいか」

「そういうのは、最初にめっちゃええやつ買っとくに限るで。安物ではあかん」

「ああ、分かってる」

「買ってくれるの?」

「お前が、ちゃんといい子にしてたらな」

「えへへ、やった!お母さん、ありがと!」

「まだ決まったわけじゃないだろ」

「サン、いい子にしてるもん!」

「まったく…」


まあ、すぐにとは行かないまでも、次に街に出たときに見てこようかな。

望遠鏡なんて、どこに売ってるのか知らないけど。

…秋華あたりが知ってるだろうか。

弟子頼みの師匠というのも、なんだか格好が付かないけど…。

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