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「まあ、こんなものかな」

「もうええん?」

「兄ちゃんから追加の質問はあるかもしれないけど…こんなものだよ。長靴履かされたりすると思うけど、治療もゆっくり時間を掛けていこうよ」

「うん、分かった」

「でもさ、こんな機械で空を飛べるなんて、やっぱりすごい未来だよ」

「うーん…。うちとしては、そう言われるんは複雑な気分やけど」

「戦が始まった結果として、だもんね」

「うん」

「それは確かに複雑だね…」

「でも、これが発明されたから、うちは空を飛べる。なんや、自分の中でもよう分からんねん。戦は嫌やけど、空を飛べるのは嬉しい」

「そっか」

「…また飛びたいねん。だから、風華お姉ちゃん。お願い、うちをまた飛ばせて」

「分かってる。大丈夫だって。柏葉なら飛べるよ」

「うん…。ありがとう」

「お礼なんていいよ。頑張るのは、柏葉自身なんだし」

「…せやね。うん、頑張る」

「ふふふ。でも、なんか他人ってかんじがしないんだよなぁ、柏葉って」

「そう?」

「やっぱり、姉ちゃんの血を引いてるからかなぁ。ほら、本当にそっくりだし」

「似てるか?オレと?」

「まあ、目付きと胸回りは別としてさ」

「………」

「親子だよ、やっぱり」


風華はそう言ってニッコリと笑う。

まあ、それは分かってるんだけどな。

…未来から時間旅行をしてきたとかいう話は、それでも信じられない部分もある。

だけど、柏葉が私の娘だというのは確かだ。

他は信じられなくても、それだけは信じられる。

不思議なかんじだけど。


「よう、お前たち。こんなところにいたのか」

「テスカトル。何か用か」

「用がなければ、会いにきてはいけないのか?」

「そういうわけじゃないけど…」

「さっき、草平と大和と話してきてな。なかなか面白い話が聞けたよ」

「ふぅん…。それがどうしたんだよ」

「どうもしないが。ところで、セカムはどこに行ったか知っているか?」

「草平と大和との話は、本当にどうでもいい話だったのかよ…」

「どうでもよくはないが、よく考えてみれば、お前たちには関係ない話だったと思ってな」

「最初から、よく考えて話してくれ…」

「ははは。考えるより口が動くのが早いからな、おれは」

「まったく…」

「それで、セカムを知らないか?」

「オレは知らないけど」

「さっき、厨房でエスカと一緒に朝ごはん食べてたよ」

「何だと?エスカとの仲を応援しないわけではないが、主人であるおれを差し置いて、先に朝ごはんを食べるとは…」

「お前、主人と思われてないんじゃないのか」

「そんなことはないはずだ。あいつはおれのことを尊敬しているはずだ」

「その自信がどこから出てくるのか、不思議でならないよ。毎度のことながら」

「なんだ、毎度のことながらというのは」

「そのままの意味だ」

「なんだ、そのままの意味というのは」

「お前な…。分からないなら説明してやるが」

「いや、いい。分かってる」

「………」

「しかし、セカムには再教育が必要だな」

「ふん。出来るものならな」

「セカムは、もはやお前の従者というかんじではないな…。いや、昔からそうだったが…」

「昔は、おれの言うことをよく聞く従順なやつだったのだがなぁ」

「私が見ていた限りでは、まったくそんなことはなかったような気がするのだが…」

「気のせいだ」

「まったく…。お前は昔から、自分の都合の悪いことは見ないからな」

「気のせいだ」

「あかんよ。見たくないもんから、目ぇ逸らしたら」

「む…。新参のお前に言われるとは…」

「いや、お前も充分新参だろう…。ついこの間に来たばかりではないか」

「ふむ。確かに」

「納得したか」


まったく、こいつは…。

すっかり大御所顔だな…。

いや…こいつの場合は、最初からこんなかんじだったな。

タチの悪いことに。


「テスカトルさま。リュナムクさまに、またご迷惑をお掛けしているのではないですか」

「おっ、セカム」

「リュナムクさま、お待たせしました」

「エスカ。どうだ、調子は」

「はい、大丈夫ですよ。でも、ありがとうございます。自由に動けるようにと、新しい術を掛けてくださって」

「いや、お前のためだからな。またあとで、街にも出てみるといい」

「はい!」

「そら見ろ。お前も、おれに何か感謝することはないのか?」

「何か感謝出来るようなことをしてから、そういうことを言ってください」

「可愛げがないな、お前も」

「ご自身の言動を振り返り、少しでも改善していただきたいものですが」

「お前は、おれに対する敬意というものが欠けている」

「私がテスカトルさまを尊敬するのは、言葉に対する懸命さと純粋さを評価するときのみです。いちおう主従の関係ということにはなっていますが、私は決して、テスカトルさまを尊敬しているから従っているというわけではありません」

「セカムってさ、意外と毒吐きだよね…」

「よく言われますが、私は思っていることをそのまま言ってるだけです」

「でも、そこまでずけずけと言えるのは、やっぱり信頼関係があるからじゃないかな」

「確かに、私はテスカトルさまを尊敬はしていませんが、信頼はしています」

「なんだと!」

「そこは喰って掛かるところではないぞ、テスカトル…」

「そうか」

「まあ、テスカトルが、そうやって有りのままでいられるのも、もしかしたらセカムのお陰なのかもしれないよ」

「そうか?まあ、風華が言うのなら、そうなのかもしれないな」

「いや、そこをあっさり信じるのは、ちょっとわけが分からないけど…」

「どうしてだ。風華は薬師だろう?薬師の言うことは正しい」

「その因果関係も、全然意味分からないからね…」

「……?」


まあ、テスカトルが多少ひねくれ者なのは確かだろうな。

自覚はないんだろうけど。

…しかし、テスカトルとセカムの関係も、なかなか面白いものだな。

毎回、この漫才じみたやり取りを見てて思うけど。

まったく、いい二人だな。

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