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「ねぇ、未来の私ってどうなってるの?やっぱり、大料理人になってるのかな」

「えぇ?灯お姉ちゃん?せやねぇ。どうやろかなぁ」

「いいじゃん、教えてくれても。ほら、料理大会に優勝したりして、有名になったりしてさ」

「あんまり、そういうのは聞くものじゃない。料理大会で優勝したと聞けば、お前は努力を怠るだろ?それで、優勝した未来も変わってしまうかもしれない」

「大丈夫大丈夫。未来が分かってても、ちゃんとやるし」

「やらないな、お前は」

「むぅ…。美希はケチだなぁ。ね、柏葉」

「うち?うちも、美希さんと同じ意見かなぁ。灯お姉ちゃんも、今とあんまり変わらんし」

「あんまり?あんまりって言った?じゃあ、どこが違うの?」

「もうちょい落ち着いたかんじになってるかな。まあ、料理は相変わらず美味しいし、康太にぃも春華も、灯お姉ちゃんの料理、大好きやで」

「コウタ?ハルカって、あの遙?」

「どのハルカか知らんけど、旅団天照の遙さんやないで」

「じゃあ、どのハルカ?」

「ふふふ。そのうち分かるんちゃう?」

「えぇー。気になるなぁ…」

「まあ、お前はそう簡単に未来を知らない方がいい人間だということだな」

「何それ…」


コウタというのは、桐華の場合と照らし合わせて考えると、おそらく、灯の夫なんだろう。

そして、ハルカというのは灯の子供だろうな。

とにかく、柏葉は、誰かの夫をなんとかにぃと呼ぶと見た。

じゃあ、なんで桐華や灯の呼び方は統一されてないのかは分からないけど。


「まあ、あれだね。灯の料理が、未来でも相変わらず美味しいってことが分かっただけでも、ぼくは満足だけどね」

「私は満足じゃない!」

「ええやん。自分の未来は、自分で築いていくもんやで。うちのおる未来に、必ずしも辿り着くとも限らんし。だから、未来を知るなんて、あんまり意味のないことなんかもしれん」

「うっ…。なんか、柏葉に言われると、姉ちゃんに言われてるみたいなかんじがするなぁ…」

「柏葉は、紅葉に似てるしねー」

「ややわぁ、桐華さん…。だから、うち、お母ちゃんほど美人やないし…」

「でも、柏葉が姉ちゃんの子供だなんて、まだ信じられないなぁ。本当に姉ちゃんの子供?」

「それはホンマやで」

「実は、姉ちゃんのことをなぜかよく知ってるってだけの他人じゃないの?」

「灯。本当だと言ってるんだから、信じてやれよ」

「じゃあ、美希は、手放しで時間旅行のことを信じられるって言うの?」

「そんなことを言うつもりはないが、だが、人は信じるものだ」

「それは…そうかもしれないけど…」

「私は、柏葉は紅葉の子供だって信じてる。柏葉は紅葉と同じものを持ってるからな。何とは言えないけど、同じ何かを感じる」

「同じ何かねぇ…」


同じ何かとは何なんだろうか。

柏葉は性格もおっとりしているし、どちらかと言えば、桐華やユカラと同じような雰囲気だ。

…私と柏葉にある同じもの。

親子で受け継いだもの、ということなのかな。



昼ごはんが終わって部屋に戻ると、チビたちがそろそろ昼寝を始めていて。

りるやサンの姿も見られる。


「ふふふ。この子、りるお姉ちゃんと、サンお姉ちゃんやろ」

「そうだな」

「可愛いなぁ。今はもう、大人の女の人ってかんじやけど。すごい美人やで?」

「そうだろうな」

「うちのこと、あんじょう世話したってな。まあ、うちが生まれるかは分からんけどな」

「………」

「うちやない、他のうちでも、よろしゅうにな」

「…外に出ようか」

「あ、うん」


すやすやと眠っている二人の頭を撫でて、柏葉もやってくる。

屋根縁に出ると、いつものように、よく晴れていて。


「やっと、二人っきりになれたね」

「そうだな。リューナはいるけどな」

「………」

「ええねん、リューナは。うちの時間でも、うちのお父ちゃんみたいなもんやから」

「ふぅん」

「…まだ、地平線も青いわぁ」

「……?」

「ふふふ。お母ちゃん、ようこの屋根縁に出て、空見ながら、いろんな話聞かせてくれた」

「そうか」


いつもそうしてるかのように、柏葉は柵に腰掛けると、足をブラブラと揺らしながら、午後の街を見下ろして。

私も、いつものように柵にもたれかかって、空を見上げる。


「まだ綺麗や」

「どうしたんだ、さっきから」

「うん。…うちの時間ではな、万年安泰とまで言われたルクレィも、ついには戦場になってしもてる。それでも、お母ちゃん率いるルクレィ軍が、他ん国押し返して、全国統治目指してどんどん勢力広げていってるけど」

「戦か…」

「かつてあった大戦で、ここらへんにあった小さな国が、最強の軍隊を率いて瞬く間に日ノ本を統一したって話、あるやろ?」

「三英雄の話か」

「せや。それを、今、うちらの時間でもやろうとしてる。うちは、お母ちゃんに言われて、山奥に疎開しててん。でも、抜け出してきた。怖ぁて夜も寝られん。お母ちゃんが、いつ死んでまうかも分からんから。今、こうやってる間にも、どうなってるか分からんねんけどな。でも、お母ちゃんと一緒におったら、今のお母ちゃんも大丈夫やって、変な確信がある」

「………」

「…赤ぁ見えんねん、地平線が。家が、森が、人が、燃えとんねやろな。でも、うちらは負けん。三大旅団も付いてるし、最強の空兵隊もおる。すごいねんで。リカル博士が発明した、飛行機械ゆうんを足に着けて、重撃砲とか機関砲とか狙撃砲とか背負って、空を飛び回んねん。術式とか、妖術も使てな。うちも、ホンマは、第七十八編隊に所属する予定やってん。でも、訓練中にヘマやらかして」

「それで、足を折ったのか」

「ふふふ。やっぱり、お母ちゃんやわぁ。なんでもお見通しやねぇ。…せや、足がどうしようもなく壊れてしもて、ホンマやったら、車椅子なしでは全く動けんねんけどな。でも、テルが、今は支えてくれてる」

「…足の時間だけを巻き戻しているということだな。あいつならば、それが出来る」

「うん。でも、なんで分かったん?」

「お前は、腕によく筋肉が付いているのに、足は並みといったところだ。つまり、毎日腕立て伏せばかりしているか…あるいは、腕だけしか使わない理由があるかだ。そこに、時間を操るテルの存在を掛け合わせてみると、だいたいのことは見えてくる」

「名探偵やねぇ。やっぱり、お母ちゃんはすごいわぁ」

「空兵隊か…。お前のような子供まで、戦に駆り出されるのか」

「ううん。第七十八編隊は、あくまでも巡回と自衛が任務。武器も、遠距離狙撃砲と震盪砲、目眩まし兼信号用の照明弾だけ。実際の後衛は、第五十三編隊の任務やから」

「ふぅん…」


高速飛行装置や遠距離狙撃砲というのがどういうものかは知らないけど、柏葉のような女の子が、重火器を背負って戦に駆り出される光景なんて見たくない。

そもそも、戦なんてなければ、柏葉が怪我をすることもなかったんじゃないのか。

…出来れば、そんな未来は変えてしまいたい。

柏葉が怪我しないような未来…いや、戦なんてない未来に。

でも、この戦乱の世を止めることが出来なければ、いずれはそういう未来になってしまうだろうということは分かる。

だからと言って、私に出来ることなんて…。


「生命は限りあるもの。せやから、一刻一秒を大切にして生きていかなあかん」

「………」

「うちな、空兵隊に入るんが夢やった。空を自由に飛び回って、すっごい格好ええから。でも、その夢も破れた。いっそのこと、助からんで死んでればよかったのに思てたとき、お母ちゃんがゆうてくれたんや。そんときは、なんやよう分からんかったけど。この時間のお母ちゃんに会うた今やったら、分かる気がするなぁ」

「…そうか」


何を考えて、私はそんなことを言うんだろうか。

それは、そのときにならないと分からないのかもしれないけど。

…でも、今のこの気持ちは。

今にも空に消えていってしまいそうな、この柏葉を繋ぎ止めて。

生きてほしいと、そう思った。

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