表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
567/578

567

「今のこの時間から見れば、こいつがいる未来は、あくまでも可能性のひとつだ。俺たちがいた時間から見れば、この時間は、定まったひとつの過去だが」

「テル。お前、また下らないことばかりしているんじゃないのか。しようのないやつだな」

「そうカリカリするなよ、リュナムク。俺ら他所の時間のやつが介入して変わるほど、歴史はヤワじゃない。ちょっと旅行に来たようなものだ」

「旅行?」

「そうだ。柏葉との親睦会も兼ねてな」

「だからと言って、どうしてわざわざ過去に来るのだ」

「いいじゃないか、別に。おぉ、そうだ。また面白い話があるんだ。聞くか?」

「そんなことはどうでもいい」

「なんだ。夏目漱石を池に落としてやって、これぞまさしくボッチャンだなという話だぞ」

「ふん。下らない」

「テルの武勇伝は、いつもおもろうてなぁ。うち、大好きやで」

「いい歳して、悪戯にかまけてるんじゃないぞ」

「悪戯こそ、俺の生き甲斐だ。人生は短い。好きなことをやらいでか」

「ややわぁ。テルで短い人生ゆうたら、うちなんか、右見て左見たら死んでるやん」

「ふむ、惜しいな。お前のような器量良しも、いつかは死んでしまうとなると」

「生命は限りあるもんや。せやから、大切にしやなあかん」

「うむ…」

「な、お母ちゃん」

「ん?そんなこと言ってたのか?」

「お前にとっては未来だろう。そんなことを言うのか?が正しい」

「余計な口出しをするな。ややこしくなる」

「せやで。テルは、余計なこと言わんとって」

「うっ…。親子が揃うと、やはり迫力が違うな…」

「まあ、お母ちゃんは、ようそういうことゆうてるねぇ。今もそうなん?」

「いや…。自覚はないけど…」

「でも、お母ちゃんやったら、ゆうてる気ぃするわぁ。だって、お母ちゃん、今のお母ちゃんと全然変わらんもん」

「ふぅん…」

「ええなぁ、変わらんゆうんも」

「お前の時間では、オレは何歳なんだ?」

「お母ちゃんの歳?せやねぇ。うちは、今十六やで」

「ということは、三十後半以上ということか…」


私自身とはいえ、そんな年齢の人間と変わらないと言われると、さすがに、少しばかりへこむものがあるな…。

つまりは、悪く言えば、それだけ老けているということだ。


「お母ちゃん、なんか落ち込んでる?」

「いや、別に…」

「そう?せやったらええけど」

「しかし、未来の人間と話すというのは、また不思議な感覚だな。…テルはともかく」

「なんで俺は除外されるんだ?」

「お前はしょっちゅう未来から飛んできては、下らない話をしていくだろう」

「そうだったか?」

「まったく…。今もそうではないか」

「下らない話を聞かせようとなんてしていない。だいたい、夏目漱石を池にボッチャンは、柏葉に一番受けた話だぞ?」

「テルのイタズラは、いちいちアホっぽくて子供っぽいから」

「ほら。聞いたか?」

「半分バカにされているんじゃないのか、お前」

「うちは好きやで、そういうんも。お母ちゃんは、真顔でツッコミ入れるやろけど」

「まあ、そうだな」

「とにかくだな…」

「あ、いたいた」

「ん?」


特大の水筒を背負って、桐華が現れた。

テルと柏葉の前を横切り、私の横に自然に座ると、どこからともなく湯呑みを取り出して、人数分お茶を入れていく。


「はい、冷茶だよ。お上がりなさい」

「あっ、すんません。いただきます」

「何しに来たんだ、お前は」

「何って、紅葉の子供を見に来たんだよ。どんな子なのかなって」

「どこから情報が漏れてるんだよ…」

「ぼくは、テスカトルから聞いたよ」

「あいつは、まったく…」

「まあいいじゃん。紅葉のお腹の中から、どんな子が生まれてくるのか気になるし」

「お前な…」

「あとで利家も来るって」

「どれだけ広まってるんだ、噂は…」

「さあ?でも、テスカトルも結構言い触らしてるみたいだし、だいぶ知ってるんじゃないかな。それに、調理班が知ったら、片っ端から広まっていくじゃない」

「はぁ…。そうだな…」

「でも、やっぱり、紅葉に似てるね。そっくりだよ」

「そ、そうかな…。お母ちゃんはだいぶ美人やけど、うちはそんなことないし…」

「柏葉も美人だよ。あ、名前はテスカトルから聞いてるから。ほら、目のところなんて、紅葉にそっくり。紅葉ほど目付きは悪くないけど」

「悪かったな、目付きが悪くて」

「どう?紅葉、未来でも、こんな目付き悪い?」

「うちは、一回も目付き悪い思たことないけど。でも、お母ちゃんはホンマ変わらんよ?」

「じゃあ、目付き悪いんだ」

「…桐華はどうなんだ、桐華は」

「桐華さんも、なんも変わらんなぁ。今でも、掴み所のないフワフワした人やで」

「なぁんだ。ぼくも変わらないんだ」

「せやねぇ。あ、でも、団蔵にぃには、よう世話んなって」

「団蔵にぃ?誰?」

「あれ?ああ、そうか。よう考えたら、まだやねぇ」

「……?」

「とにかく、よう世話んなっとります」

「そっか。うちの団蔵が」

「とりあえず分かったようなフリをするなよ…」


たぶん、桐華の旦那か息子だろうな。

こいつが結婚するなんて、全く考えられないけど…。

しかし、ひとつの未来として、それも有り得るということか…。


「…でも、じゃあ、お前たちは、これから起こることは把握してるってことか?」

「だいたいはな。だが、この今が、俺たちの時間とは違う未来へ歩き出すかもしれないし、そこはなんとも言えないな」

「その場合はどうなるんだよ。ちゃんと帰れるのか?」

「少し寄り道をする程度のものだ。問題ない」

「ふぅん…」

「少し未来が変わる程度で道に迷うなら、過去になど旅行出来ない。今、どこそこの蟻が一匹死んだが、俺たちの時間では生きていたとか、どこそこの国がなんとかという国に滅ぼされたが、俺たちの時間では逆だったとかな。そんなのは日常茶飯事だ」

「いや、例の度合いが恐ろしく違う気がするんだけど…」

「蟻も国も同じだ。世界から見れば、ごくちっぽけな違いでしかない。そうだな…。帰れなくなるとすれば、この大地自体が消し飛ぶとか、俺たち自身が死んでしまうとかだな」

「なるべくなら、ちっぽけなことでも、余計なことはしてほしくないものだがな…」

「藤原道長に南瓜を投げつけるのも、徳川家康に煮え湯を飲ませるのも、前田慶次に水風呂を用意させるのも、夏目漱石を池に落とすのも、全ては俺の楽しみのためだ」

「ええやんねぇ。子供のイタズラみたいな、アホらしいて、しょーもないことなんやし」

「そうだそうだ」

「柏葉よ。面白いからといって、テルを甘やかさないでくれるか」

「えへへ、分かった?」

「まったく…」

「そういえば、なんで藤原道長に南瓜なんだ?」

「特に意味はないが、平安時代に南瓜はなかったからな。何か恐ろしく硬い、石のようなものだと、少し驚かしてやろうと思っただけだ」

「まさしく子供だな…」

「あはは、なんか面白いね」

「だろう?俺の高度な悪戯が分からんのだな、頭の固い連中は」


まあ、確かに、桐華とは気が会うだろう。

桐華も子供な部分が多い…というか、子供がそのまま大きくなったかんじだし。

柏葉は、そんなかんじはしないけど、子供の悪戯も一緒になって楽しめる、純粋な心を持っているということだろうかな。

…我が娘ながら、なかなかいい成長をしているようだ。

なんだか、生まれてもない娘の話をするのも変な感覚だけど。

でも、そのまま、また真っ直ぐに成長してほしいものだな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ