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「セカムさんは、今日は何の授業を受けるのですか?」

「まだ決めていません。エスカはどうなのですか?」

「私は、またレオナちゃんの算数を受けようかと思っています。早く、なんとか四則計算くらいは出来るようにはなりたいと思いまして…」

「そうですか。計算が出来るようになれば、日々のことも上手くいくことが多くなります。是非とも、テスカトルさまにも学んでいただきたいところですが」

「惜しむらくは、二人がまだ敬語で話しているというところだな。エスカも、セカムを呼び捨てにしてみたらどうだ」

「えっ?な、何の話ですか?」

「テスカトルさま。あまりにも脈絡がないので、エスカが戸惑っています」

「お前たちが、そうやってはっきりしない態度を取り続けるから、業を煮やしているのだ」

「テスカトルさまに、とやかく言われる筋合いはありません。それに、はっきりしない態度とは何ですか?」

「お前たちは、お互いに好き合っているのだろう。早くくっついてしまえと言っているんだ」

「お互いに好き合っているからといって、恋人同士になる必要はありません。それに、エスカが私のことを好きなのかどうかは分かりませんが、私たちは出会って間もないです。付き合い始めるにしても、お互いをもう少し知ってからでもよいのではないですか?」

「………」

「恋愛に理屈など無用だ!」

「みっともないです。大声を出さないでください。それに、私は理屈を述べているのではなく、男女の付き合いの正しいあり方を述べているだけです」

「それが、煩わしい理屈だと言っているのだ」

「そういえば、テスカトルさまは昨日、男を引っ掛けてくると出掛けていったようですが、結果はどうだったのですか」

「ん?まあ、おれの眼鏡に適うような男はいなかったな。代わりと言ってはなんだが、面白いやつに会ったぞ」

「そうですか。よかったですね」

「おい、セカム。そこは、誰と会ったのですか?とくらい、聞くべきだろう」

「興味ありませんので」

「聞け」

「誰と会ったのですか?興味はありませんが、聞いてさしあげます」

「そうかそうか。お前も聞きたいか」

「お前、それで満足なのかよ…」

「そういうやつだ、テスカトルは…」

「なんと、驚くことなかれ。…吃驚仰天だぞ?」

「どっちなんですか」

「吃驚仰天のことだが、驚くなと言ってるんだ」

「分かりました」

「…なんと、紅葉の子供だというやつを拾ってきた」

「そうですか。よかったですね」

「驚けよ!」

「驚くなと言ったのは、テスカトルさまです」

「驚くことなかれというのは、驚けと言っているようなものだろう!言葉の裏に秘められた意味も読み取れないようでは、お前もまだまだ未熟だな」

「言葉の裏に秘められた意味ではなく、それは単に、テスカトルさまの願望です」

「まあまあ、喧嘩をするな、お前たち…」

「しかし、ここに来る子供は多いけど、オレを名指ししてくるやつは初めてだな。そいつはどこにいるんだ?」

「懐かしいと言って、城へフラフラ入っていったが。今どこにいるのかは知らん」

「はぁ…。まあ、いいけど…」

「未来から時間旅行をしてきたと言っていたな。さすが、お前の血族といったところか」

「いや、オレは時間旅行なんてしないけど…」

「でも、時間旅行ということは、本物の紅葉さんの子供の可能性もあるってことですよね。なんか、夢が溢れるなぁ」

「ただ単なる成り済ましの可能性もあるけどな…。それに、時間旅行なんて、小説の中だけの話じゃないのか」

「いや、実際に時を操る者はいる。時と栄光の神と呼ばれるテルなんかは、よく時空を飛び回り、いろいろとちょっかいを出しているみたいだ。この前は、調子に乗っていた藤原道長に、南瓜を投げつけてやったと言っていたな」

「南瓜?しかし、そうなると、歴史の改変もお手のものだな…」

「どうだろうな。そうなることも予定調和だったとも言えるだろう。それと、未来は無数に分かれていて、未来へ渡ることは諦めたと言っていた」

「過去から現在に戻るのも、未来に渡るのと同じだろ」

「いや、テルが言うには、自分が歩いてきた過去へ戻るのは、自分が歩いてきた一本道を戻るようなものらしい。そして、現在へ戻ってくるのも、その一本道を辿っていけばいい話だということだ。ただ、過去へ行ってる間にも、現在は進んでいるから、過去にいた時間だけ、未来へと飛んでいるようなものだと言っていたな」

「ふぅん…」


つまり、過去に一年間いたとしたら、帰ってくる現在は、過去に遡った時点の現在から一年後の未来というわけか。

…ややこしい。

まあ、行きも帰りも、歩く道程は同じ長さといったところだろうか。


「あっ、やっぱりお母ちゃんや。今とあんまり変わらんねぇ」

「ん?」

「おぉ、来た来た。こいつが、自称お前の子供だ」

「なんや変なかんじするけど、初めまして。うち、柏葉(かえは)言います。柏に葉て書いて。ようみんなには、かしわかしわ言われますけど」

「柏葉?」

「せやでぇ。テスカトルさんには世話んなって。どうもすんません」

「ははは、どうだ。お前の子供とは思えない、この礼儀正しさは!」

「…それは置いといて。本当に、オレが生んだ子供なのか?」

「信じられんかもしれんけどな。うちかて、ついこないだまで、時間旅行なんて信じてへんかったもん。昔のお母ちゃんに会えるとも思てへんかったし」

「ふぅん…」

「お母ちゃんは、喋り方も雰囲気も、全然変わらんねぇ」

「そうだ、お前、父親は誰なんだ」

「お父ちゃん?んー、誰やと思う?お母ちゃん、好きな人、いっぱいおんねやろ?」

「それは、まあ…」

「さて、うちは誰との子供でしょうか」

「なぞなぞなんて…。まあ…リュカか?その関西弁は、レオナにでも伝染されたんだろ」

「ふふふ。やっぱり、お母ちゃんはお母ちゃんやねぇ。うちのこと、ちゃんと分かってくれてる。…正解やで。うちのお父ちゃんはリュカ、うちのお母ちゃんは紅葉や。ほんで、この関西弁は、レオナお姉ちゃん仕込み」

「そうか…」

「へぇ。じゃあ、紅葉さん、少なくとも、リュカさんの子供は生むんですね」

「そうみたいだな…。他に兄弟はいるのか?」

「ようさんおるでぇ。りるお姉ちゃんとか、サンお姉ちゃんとか」

「…血の繋がった兄弟はいるのか?」

「ふふふ。ちょっとイジワルやった?でも、血ぃ繋がった兄弟みたいに大切にしてもらってるし、ええやろ?」

「それはいいけど」

「お母ちゃんが知りたいのは、お父ちゃんの他に、誰との子供を生んだかってことやろ?」

「ああ…」

「せやなぁ。ゆうてもええんやけど、ほしたら、面白ないかもしれんし」

「まあ、お前の判断に任せるけど…」

「んー、せやなぁ。うちの、ホンマに直結の兄弟は、下に一人おるよ。ほんで、直結やない兄弟もおる。種違いとか腹違いゆうんかなぁ。ほんで、血が繋がってへん兄弟もおるよ。りるお姉ちゃんとか、そうゆうのとは違うくて。まあ、うちんとこの家族はえらい複雑やし。あと、性別とか人数は、またお楽しみやな」

「直結の兄弟ってことは、リュカさんと紅葉さんの子供が、もう一人いるってことですよね」

「せやね」

「血は繋がってないのに兄弟ってどういうことだろ…」

「まあ、なんとなく分かった気はする…」

「ふふふ」


私とリュカの子供は、柏葉ともう一人。

今の状況が、柏葉のいた未来にまで続いてるとすれば、種違いの兄弟というのは、利家か千秋か澪の、リュカ以外の三人のうちの誰かと私との子供。

腹違いの兄弟というのは、千秋とツカサの子供とか、澪と加奈子の子供みたいな、私の配偶者でありながら、他にも配偶者がいる、どちらか二人の子供。

さらに、血は繋がってないけど兄弟だというのは、私とそいつの間には子供はいないが、そいつと他の配偶者の間には子供がいるということだろう。

可能性としてあるのは、千秋と澪だ。

…とりあえず、この情報を整理すると、私の子供は少なくとも三人ということになる。


「リュナムク。分かったか?」

「まあな。つまり、紅葉の子供は、最低三人いるということだろう」

「そうなのか?」

「…あの、分からないので、解説していただけますか?」

「では、私から」

「そうか。よろしく頼む」

「これは、単純な情報処理の問題です。紅葉さまとリュカさまの間のお子さまが、柏葉さま含め二人。そして、種違いの兄弟がいらっしゃるということから、リュカさま以外の配偶者とのお子さまが少なくとも一人以上いらっしゃるということです。ただ、血の繋がっていないご兄弟がいらっしゃるということから、二人以上配偶者がいらっしゃる方のうち、どなたか一人とのお子さまはいらっしゃらないということになります」

「ほえぇ…。よく分からなかったです…」

「ですので、今と同じ状況が、柏葉さまがいらっしゃった未来まで続いていると仮定すると、利家さまとのお子さまがいらっしゃる場合、千秋さまと澪の少なくとも一方とのお子さまがおらず、千秋さまとのお子さまがいらっしゃる場合は澪との、澪とのお子さまがいらっしゃる場合は千秋さまとのお子さまがいらっしゃらないということになります」

「は、はぁ…。えっと…。た、単純な問題ですか…?」

「エスカも、計算が出来るようになれば、ちゃんと理解出来ますよ」

「うっ…。頑張ります…」

「ええねぇ。このかんじも変わらんわぁ」


柏葉は何か懐かしそうに笑って。

確かに、その面影に、リュカの姿が見えなくもない気がする。

…でも、まだ信じ難いな。

柏葉が私の子供ということも、私が三人以上も子供を生んでいる未来があるということも。

それでも、柏葉はここにいる。

柏葉が本当に私の子供なんだとしたら、それは娘を疑うということになるから。

だから、こんなことは考えたくないが…たとえ騙されているのだとしても、私はこの柏葉を信じようと思う。

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