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「紅葉お姉ちゃん、またねー!」

「またな」

「また来るよ」

「ああ。いつでも来い」

「…みんな相変わらずだったし、新しい人も優しそうな人ばかりでよかった。安心したよ」

「ふん。安心出来なかったら、連れ去る気だったのか?」

「いや、分かってたから。今日は、それが確認出来たってだけだ」

「そうか」

「まあ、お前が鱗だらけなのには、さすがに驚いたけど」

「なんだ、気付いてたのか」

「当たり前だろ…。そんな目立つ姿…」

「リュカは鈍感だからな。気付いてないのかと思ったよ」

「そんなわけないだろ。今度来たときには、なくなってるといいんだけどな、リュナムク」

「まあ、出来る限り、努力はしよう…」

「出来る限り努力するってさ」

「そうしてくれ」

「お兄ちゃん、早く!」

「あぁ、ごめん。…じゃあな、紅葉。また」

「次は、しっかり貯金をしてから来いよ」

「考えとくよ…」

「なんだ、覚悟の足りないやつだな」

「まあ、そういうんじゃないんだけどな」

「どういうことだ?」

「秘密だ」


そう言うと、リュカはクルリと後ろを向いて、門の方へ歩いていく。

そして、嬉しそうに跳ね回るアセナの手を握って、二人で帰っていった。


「ははは、いい男ではないか」

「テスカトル。今日はどこにいたんだ」

「何、若き未来の行く末を、じっくりしっぽり観察していただけだ」

「お前な…」

「しかし、想い人が何人もいるとはな、紅葉。そんなふしだらな女だとは思わなかったぞ」

「余計なお世話だ」

「選り取り見取りではないか」

「はぁ…。どういう意味だよ…」

「爽やか好青年の利家、眠れる獅子のリュカ、明朗快活で女の心も持つ千秋、まだまだ幼く母性本能を擽る澪。まったく、羨ましい限りだぞ」

「お前、どこまで調べ上げてるんだよ…。それに、オレはふしだらな女なんだろ。羨ましがってどうするんだ」

「おれも、男どもを周りに侍らせて、女王気分を味わいたい!」

「オレは別に、女王気分を味わってるわけじゃないからな…」

「まあ、おれは、リュナムクさえいればいいがな」

「………」

「どっちなんだよ…」

「だから、たくさん侍らせていた男どもを全部蹴って、リュナムクと逃避行だ」

「はぁ…。まあ、ご自由に…」

「なぁ、リュナムク。いいと思わないか?」

「いや、そういうことは、私に聞かないでくれるか…」

「まあ、楽しみにしておけ。早速行ってくる」

「結局、私の意見など聞く気はなかったのだな…」


テスカトルは、何か高笑いをしながら、門をくぐって外へ出ていってしまった。

今から男を探しに行くんだろうか。

まあ、見つかればいいな。

…なんか嫌な予感もしないでもないけど。

ああやって意気揚々と出ていくやつは、大抵面倒事を引き連れて帰ってくる。

嫌な予感の外れることを祈っているよ…。



夕飯も風呂も済ませて部屋に戻ると、いつも通り、ツカサと翡翠が屋根縁で何か話していて。

そういえば、翡翠は、今日は何をしていたんだろうか。

…まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。


「あ、紅葉」

「姉さん。ちょうどいいところに」

「なんだ。何か用か」

「姉さんは、男の子と女の子だったら、どっちがいい?」

「何の話だ」

「自分の子供の話」

「はぁ…。またその話題か…」

「えっ?」

「まあ、お前も、そういう年代ということだろう。子供を生むには、ちょうどいいくらいだ」

「そうかもしれないけど…」

「そんな話、してたんだ。利家と?」

「いや…。千秋とか澪だけど…」

「あぁ、あの二人は、気合いの入りようが違うよね。絶対生ませてやる!ってかんじだし」

「えっ?澪はともかく、千秋もか?どうやって?」

「妖術だよ、妖術。張り切って修行してるよ」

「へぇ…」

「まあ、千秋は、ツカサの子供も生みたいって思ってるみたいだけど」

「俺の?」

「なんか、もう見境ないかんじだな、あいつら…」

「そんなことないよ。好きな人の子供しか生みたくないだろ?千秋は、ツカサのことも、紅葉と同じくらい好きなんだよ」

「えぇ…。俺は全然知らなかったけど…」

「オレもだな…」

「当たり前だろ。ツカサはまさしく片想いの相手なんだし、それに、男として結婚した紅葉に、そんな女の一面なんて見せられるわけがないだろ」

「そういうことを、オレたちに暴露してもよかったのか?」

「言わなかったら、どうせ進展しないんだ。別にいいだろ」

「また勝手に…。翡翠だって、うじうじしてたときはあったじゃないか」

「だからだよ。これを切っ掛けに、千秋にも思い切ってほしい」

「余計なお世話にならないといいけど…」


そういえば、さっきテスカトルが、千秋は女の心も持つって言ってたのは、このことだったのかもしれないな。

でも、そうなると、あいつはどこでその情報を手に入れたのかという話になるけど…。


「それで、だよ。紅葉は、男の子がいい?女の子がいい?」

「いや…。何も考えてないけど…」

「直感だよ、直感」

「直感…?うーん…。女、かな…。実際、今も多いし…」

「ほら!やっぱり、紅葉も女の子なんだよ!」

「うーん…。絶対、男の子が欲しいって言うと思ったけどなぁ…」

「なんだ、賭け事か?」

「賭け事ってほどじゃないけど、テスカがさ、一人は絶対に女の子がいいって言ってたから」

「ふぅん…」

「それで、僕は男の子が欲しいから、二人は頑張らないとって話になったんだ」

「そういう話が流行ってるのか?」

「えっ?なんで?」

「いや…」

「そう?まあ、そういうことだよ。あ、千秋も女の子がいいって言ってたから」

「そうかよ…」

「ツカサも頑張りなよ。望と千秋」

「いや、だから…」


はぁ…。

一夫一妻が絶対だとは言わないけど…。

でも、いいのか、こんなので…。


「好きな人がたくさんいるってのは、いいことだと思うよ。一人の夫や妻しか好きになっちゃいけない、なんて規制もないんだし」

「普通は一人だけなんだよ。面倒が起こらないように」

「私だけを見てほしい、なんて欲張るから、おかしなことになるんだよ。相手は自分だけのものだと勘違いしなかったら、面倒も起こらないだろ?」

「そうかもしれないけど…」

「翡翠は、浮気を容認するのか?」

「容認するとかしないとか、そういう問題じゃないんだよ。テスカのことは好きだけど、テスカは僕だけの人じゃない。他の誰かのことを好きになっても構わないと思ってるし、その結果として僕を捨てたとしても、それはテスカの自由だ。そんなことになったら哀しいけど、テスカのせいでも、その誰かのせいでもない」

「まあ、後腐れなしという意味ではいいのかもしれないが、人は思っているよりも欲深い生き物だからな。翡翠のような考えを持てるような者は、達観しているだとか、悟っているだとか、なんらかの特別扱いをされ、議論から排除されてしまうことが多いだろうな」

「えぇー…。そうでしょうか…。リュナムクさんにそう言われちゃ、自信なくなるなぁ…」

「いや、翡翠の考えは素晴らしいものだと、私も思うよ。色恋沙汰で人を恨まないというのは、大切であるが、なかなか出来るものではないからな」

「えへへ、そうですか?リュナムクさんに褒めてもらえて嬉しいです」

「うむ」


翡翠、本当に嬉しそうだな。

でもまあ、翡翠とテスカの恋は始まったばかりだし、そういうことを考えないといけなくなる可能性が出てくるのは、少なくとも、まだもう少し先の話だろう。

…あと、ツカサの方も、あまり深く考えなくてもいいかんじがする。

千秋も望も、お互いに嫉妬するようなやつらじゃないし。

板挟みになるツカサは、なかなかしんどいものがあるのかもしれないけど。

それは、私も身に染みてよく分かる。


「早く、僕らの子供が出来ないかなぁ」

「翡翠、お前、まさか…」

「ツカサも、千秋に言ってさせてもらったら?望のときの練習にもなるし」

「いやいや…。練習とか意味が分からないからな…。常に本番だろ…」

「まあ、それもそうだな。練習なんて言ったら、千秋に失礼だ」

「だいたい、俺は翡翠ほど積極的じゃないから…」

「なんだよ、積極的って。僕だって、まだ口付けしただけだぞ」

「えっ?な、なんだ…。ややこしい言い方するなよ…」

「えぇ?むふふ、ややこしい言い方って、ツカサ、何を想像してたんだ?あ、もしかして、やらしいことか?」

「う、五月蝿い!」


ツカサは一気に顔を赤くして、翡翠に攻撃している。

翡翠も、わざとあんな言い方をしたんだろうけど。

…しかし、横から聞いてると、やっぱり、若い男のバカな会話にしか聞こえないな。

まあ、面白いし、このまま喋らせておこうかな。

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