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「おねむか?」

「まだ…」

「目が開いてないぞ」

「んー…」

「ふふふ。面白いやつだな」


そう言いながら、リュカはりるの頬を突ついて。

でも、りるはもう眠ってるみたいだった。


「どうする?布団に寝かせようか?」

「別にいいんじゃないか、そのままで」

「そうか。…それにしても、知らない間に随分増えてないか?」

「そうかもしれないな。最近は、あんまり来てないけど」

「ふぅん。まあ、前まででは考えられないな」

「そうだな。でも、あのときは、不思議と誰も来なかった」

「そうか」


子供たちが増えたのも、王が利家に変わってからだ。

危険な空気でも察知していたんだろうか。

まあ、あの蜂起以来、この城も随分と平和になった。

子供たちの拠り所となるのなら、それはそれでいいことだ。

…と、何か廊下の方が騒がしくなってきた。


「お兄ちゃん!」

「アセナ。みんな寝てるだろ。静かにしろ」

「だって、どこにもいないんだもん!」

「誰がだ?」

「お兄ちゃん!」

「なんだ、俺かよ…」

「抱っこ!」

「りるが寝てるだろ。紅葉にしてもらえ」

「むぅ…」


そのあたりは、ちゃんとお姉ちゃんなんだろう。

少しりるを見つめたあと、私の方へ駆け寄ってきて。


「レオナお姉ちゃん、あんまり抱っこしてくれない」

「ふぅん」

「レオナも、俺がいないから、実質的な一番上の姉として頑張ってるんだよ。お前を甘やかしすぎないようにな」

「甘えてないもん!」

「どの口が言ってるんだよ…」

「ははは。まあ、いいじゃないか。アセナもお姉ちゃんなんだから、テュルクの面倒も見てやってくれよ?」

「アセナね、テュルクと一緒にお風呂に入ってるよ。一回入ったら、お小遣い二十円」

「割のいい仕事だな…」

「アセナはお姉ちゃんだから、お小遣いも貰えるんだよ」

「貯めてるのか?」

「うん。いっぱい貯めて、ぬいぐるみを買うの」

「自分で作ってるんじゃないのか?」

「違うもん。そのぬいぐるみは、世界でひとつしかないの!」

「アセナの作ったぬいぐるみも、世界にひとつしかないじゃないか」

「うーん…。でも、違うもん」

「どこかの作家のぬいぐるみが気に入ったんじゃないか?」

「ん?あぁ、確かにそうかもしれない。誰が作ったぬいぐるみなんだ?」

「これから作ってもらうの」

「へぇ…。発注生産か…」

「矢込菜太郎って人なの」

「ん?リュウか。知ってるのか?」

「うん」


リュウが戻ってきた。

後ろに光もいて。

…しかし、矢込菜太郎?

また私の知らない名前だな。


「有名な、作家さんなんだよ」

「光のお友達なの」

「お、お友達って、言うほどじゃ…」

「ふぅん。どんなぬいぐるみを作ってるんだ?」

「ぬいぐるみ作家じゃなくて、小説家なの」

「小説家?またなんで」

「光が図書館に行ったとき、誰もいない専門書のところで迷って、そのときに、隅っこで何か書いてたのを見つけたんだって。それで、声を掛けられたって」

「声を掛けられた?怪しいやつじゃないのか」

「物語の、新しい展開を、考えてくれないかって、言われたんだ」

「通り掛かりの子供に意見を求めるほど困窮していたのか…」

「原稿がね、このままじゃ、仕上がらないって。それで、アセナと一緒に、考えてあげたの」

「子供二人の発想に、小説家が助けを求めるのか…」

「しかし、子供が考えることは、なかなか侮れないものがあるぞ。私も、エスカの発想力に、どれだけ驚かされたか」

「まあ、そうだろうけど…」

「締切まであと一日だったけど、なんとか間に合いそうだって言ってたよ!」

「一日で小説を書き上げるのか?なかなか筆が速いんだな…」

「いや、速いってもんじゃないだろ。もはや神筆だぞ」

「アセナの、お話が、面白かったって。お礼に、原稿が、終わったあと、菜太郎さんの家に、招待してもらったんだ」

「知らない人の家に行っちゃダメだろ。悪い人だったらどうするんだ」

「大丈夫だよ。秋華の知り合いだったから。そのときも、秋華に連れていってもらったんだ」

「知り合い…?そうか…」

「秋華、なんかやたらと顔が広いな…」

「お家も広かったの」

「リュウも行ったのか」

「うん。みんなで来ていいって言ってたらしいの。あとは、響も一緒に行ったの」

「また大勢で押し掛けたな…」

「それでね、ぬいぐるみがいっぱいあったから、アセナが見てたら、作ってあげるって!」

「お金を払ったらか?材料費か?」

「ううん。菜太郎さんは、お金なんて要らないって言ってたんだけど、アセナが、タダほど怖いものはない!とか言って」

「母さんの影響だな…」

「それで、いくらが目標なんだ?」

「二千五百円!」

「また結構な額だな…。一日二十円で、何日掛かるんだ?」

「百二十五日だな。だいたい四ヶ月か」

「続くのか?」

「一日百円くらい貰ってるよ」

「一日百円?残り八十円はどうした」

「お皿洗ったり、お風呂洗ったり、洗濯物洗ったり、なんかいろいろ」

「ふぅん…。洗ってばかりだな…」

「あとは、お父さんの道場の掃除とかしたら、いっぱい貰える」

「そうか」

「だからね、あと五百円くらいなんだ」

「へぇ、諦めずに頑張るんだぞ。お前は、ただでさえ飽きっぽいから…」

「アセナ、すごく頑張ってたから、きっと大丈夫だと思うの」

「…そうだな」

「えへへ」


アセナが、そんなことを頑張ってるとは知らなかったな。

まあ、その小説家というのも気になるけど、家の手伝いをしながらお小遣いを稼ぐとか、お金を貯めて欲しいものを手に入れるとか、たまたまなのか意図的なのかはいいとして、そういうことを学ばせてくれているというのには感謝しないとな。

是非とも会ってみたいものだけど…。


「今度は、紅葉お姉ちゃんも一緒に行こうよ!」

「…まあ、そうだな」

「アセナね、熊のぬいぐるみを作ってもらうんだ!海の向こうの国の、テデーベーアとかいうやつ!熊のぬいぐるみ!」

「テデーベーア…?変な名前だな…」

「テディベアなの」

「あぁ、幾分かマシに聞こえるな」

「えぇ、そんなだったかなぁ」

「アセナは雑なの」

「まあいいや。テディベアの名前も考えてあるんだ!聞きたい?」

「なんていうんだ?」

「龍華!」

「俺の名前に似てるな…」

「全然違うよ!龍華だもん!女の子だよ!」

「へぇ…。女の子なのに龍…」

「みんなが龍華と喧嘩しないように、今からちゃんと言い聞かせてるんだ。新しい家族なんだから、喧嘩しちゃダメだよって」

「用意周到だな…」

「そういうところは、父さんに似てるな」

「光とリュウも、テディベア作ってもらおうよ!」

「じゃあ、お小遣い貯めないといけないの」

「何か手伝いをしたら、オレがいくらかずつやるぞ。やってみるか?」

「うーん…。考えとくの」

「わたしは、欲しいものが、今は、ないから…」

「そうか」


でも、すぐにとは言わないけど、後々のためにも、そういうことはやらせておきたいな。

光の言う通り、何か目標があればいいんだけど。

…まあ、見つかったらすぐに始められるように、準備しておくか。

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