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「あ、リュカだー」
「…桐華か」
「あはは、元気?」
「まあまあだ」
「そっか。まあまあかぁ」
「お前こそどうなんだ、最近は」
「えぇ?ぼくはアレだから。ここに住み着いてるだけだし」
「寄生虫だ、こいつは」
「そうか。相変わらずだな」
「相変わらずは酷くない?ぼくだって、今は天照の団長やってるんだし」
「…だから?」
「えっ?それだけだよ」
「城で何もしないでぐうたらしてるのが大旅団の団長だとしたら、余計に問題だろ…」
「えぇ、そうかな」
「自覚がないのは、さらに問題だ」
「でも、リュカも似たようなものでしょ?」
「いや、全然違うし、お前と一緒にするなよ…」
「どう違うのさ」
「俺は、ちゃんと働いてるし、自活もしてる」
「へぇ、そうだったんだ。知らなかった。みんな、同じくらいだと思ってた」
「いやいや、お前みたいなやつが、むしろ稀有なんだよ…」
「えぇ?だって、紅葉だって働いてないじゃん」
「紅葉は…あれだよ。衛士の統率者としてだな…」
「あーっ、紅葉には甘い!」
「甘いというわけじゃ…」
「オレが仕事をするまでもなく、部下たちが全部片付けてくれるからな。オレのところまで回ってこないんだよ」
「じゃあ、ぼくもそれ」
「じゃあって何だよ…。それに、桐華の場合は、仕事をさせると大変なことになるからなんじゃないかな…」
「そうだな」
「何さ、ぼくが役立たずみたいな」
「実際役立たずでしょ、あんたは」
「あ、遙。お帰り。早かったね」
「とびきりの特急で送り届けたからね。まったく、世話の焼ける…」
「特急でも、国境まで往復一日くらいで行けるものなのか?」
「国境までは行ってないわよ。すぐ近くまで迎えが来てたの。カシュラあたりまでね。まあ、ロセはどのみち、そのうちに連れて帰られる運命だったってこと」
「ふぅん…」
大和や澪なら、一刻もあればルイカミナまで行けるからな。
そういうやつらを使ってるのかと思ったけど、どうやら違ったようだ。
…そんな妖怪を連れてるような、私たちや旅団蒼空の方が珍しいのかもしれないけど。
「さて、桐華に仕事を持ってきてあげたわよ。念願のね」
「えぇ…。働きたくないんだけど…」
「じゃあ、お茶を買うためのお金は全面停止にするわ」
「分かった!やるよ、やればいいんでしょ!」
「最初からそう言いなさい」
「うぅ…」
「財布の紐を握られてると、やっぱり弱いな」
「こいつはもともと、遙には弱いけどな」
「そういえば、そうだったな」
「はぁ…。仕事って何よ…」
「書類に団長の認証印を押す仕事よ。全部確認済みだから、あとは押すだけ」
「えぇ…。だから、判子は渡すから、勝手に押してって言ってるじゃない…」
「そういうわけにはいかないのよ。ほら、あそこの書き物机に置いてあるから」
「はぁ…。分かったよ…」
桐華はガックリとうなだれて、部屋の端の書き物机へ歩いていく。
そして、桐華がいた場所には遙が座って。
「さて、久し振りだっけ、リュカ」
「どうだったかな」
「まあ、久し振りってことにしときましょう。それで、紅葉、その狼は何?たしか、蒼空の狼だよね?紅葉の彼氏?」
「クアだ。よく分からないけど、さっきからずっとこうしてる」
「ぼくは、紅葉がリュカに取られないようにしてるんだと思うよ」
「喋るより先に、仕事をしなさい」
「…ケチ」
「十倍に増やすわよ」
「うぅ…」
クアはさっきから、私にピッタリとくっついて座っている。
当の本人は、知らん顔して窓の外を見ているけど。
…まあ、なんだかよく分からないな。
何も喋らないし。
こいつこそ、寡黙というか過黙だな。
「紅葉のことが好きなのかな」
「こいつがか?」
「まあ、もうリュカに傷を付けられてるからねぇ」
「俺が紅葉に、何の傷を付けたんだよ」
「えぇ?だって、昔は、二人でこっそり口付けもよくしてたじゃない」
「えっ!ぼく、そんな話聞いてない!」
「あんたは言っても気付かないニブチンでしょ」
「そんなことないもん!」
「意味も分からないで、大人の真似事をしてただけだ。恋愛ごっこだろ」
「じゃあ、今は、本当の恋人?」
「お前、発想力がレオナと同程度だな…」
「そう。それだけ柔軟ってことね」
「浅いってことだよ」
「えぇ、レオナちゃん、想像力は豊かよ。まあ、フィルィには負けるかもしれないけど」
「あいつのは妄想だ」
「あはは、まあ、確かに。テスカとイチャイチャするのを想像しながら、性欲を満たしてたくらいだしねぇ」
「あのとき、お前、部屋にいなかっただろ…。どこから仕入れてくるんだよ、そんな情報…」
「壁に耳あり障子に目あり、よ。それに、情報なんて、その辺に転がってるものだし。私は、その中から、使える情報を拾い集めるの」
「フィルィの妄想の情報が、どこで役立つんだよ…」
「フィルィの面白い反応を見るのに使えるでしょ?」
「悪趣味な…」
「紅葉だって、誰かにちょっとしたイタズラをして、困った顔を見るのが好きでしょ?それと同じなんじゃないのかな」
「まったく…。お前が言うと、盗まれた情報なのか、いつかお前に見せた一面なのか、よく分からなくなるな…」
「まあ、昔から遙はそんなかんじだったよな。月読の諜報部に遊びにいってさ」
「もはや忍者だな、こいつは…」
「あはは、お褒めに与り光栄です」
「皮肉だよ、皮肉…」
まあ、敵には回したくないというやつだ。
リュカも呆れ顔で。
…でも、自分を知ってもらえるというのは嬉しいことでもある。
知られすぎるのもイヤだけど…。
そのあたりは、遙も弁えてくれてると思っておこう。