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「毎朝、こんなことをしてるんだな」
「レオナは、自分のところの洗濯物を持ってくるけどな」
「そうなのか?」
「この前持ってきてた」
「ふぅん…」
「リュカさんは、洗濯物はどうしてるんですか?一人暮らしですよね?」
「自分で洗ってるよ。何日に一回かくらいだけど」
「まあ、一人暮らしだとあんまり洗濯物も溜まりませんしね」
「そうだな」
「ここは、子供たちもいますし…」
「いるな、たくさん」
「だから、洗濯物も多くて」
「そうだろうな」
「毎日洗濯しないと、どんどん溜まって溜まって」
「なるほど」
リュカは、洗濯物の中から子供用の下着を取り出すと、それを洗い始める。
さすがに、慣れたかんじだった。
「…ところで、この城は、龍だけじゃなくて、豹まで飼ってるのか?」
「ん?あぁ、あいつらは、勝手に居座ってるだけだ」
「居座る?豹が?というか、どこから来たんだ?」
「さあな。ずっと旅をしているらしい」
「……?」
「言っておくけど、普通の豹じゃないからな、あいつは」
「豹に普通とか普通じゃないとかあるのか?」
「まあ、少なくとも、お前が思ってるような豹ではないということだ」
「余計に分からないな…」
「分からなくていい」
「ふむ…」
「…あの、リュカさんって、もっと寡黙なかんじがしたんですけど、そうでもないんですね」
「そうか?」
「だいたい、こいつが寡黙だなんて、どこから広まったんだ?」
「えぇ?だって、そんなかんじしない?」
「オレはしないけど…」
「幼馴染みだから、そう思うだけだよ。みんなだいたい、リュカさんはあんまり喋らないって思ってるんじゃないかな」
「そうかな…。俺、そんなに喋ってないか?」
「私は分からないですけど、でも、そんな雰囲気はあると思いますよ」
「雰囲気か…」
「そんな雰囲気があるのか?」
「さあ…。自分では分からないけど…」
「まあ、そうだろうな」
「物静かで、あんまり多くは喋らないって雰囲気がありますよ」
「ふぅん…」
「ねぇ、何の話をしてるの?」
「わっ、アセナちゃん。ビックリした…」
いつの間にかアセナが来ていて。
リュカの隣に座って、首を傾げている。
「お兄ちゃん、今日はお城に来てるって聞いたんだー」
「そうか」
「お兄ちゃん、次はいつ帰ってくるの?」
「そうだな…」
「アセナ、いっぱいぬいぐるみ作ってね、お部屋に置いてあるんだ」
「そうなのか?じゃあ、また見に行かないとな」
「うん。それでね、お兄ちゃんにもぬいぐるみを作ってあげたから、また今度あげるね」
「そうか。ありがとな」
「えへへ」
「アセナちゃんは、リュカお兄ちゃんのこと、好きなんだね」
「うん!テュルクも、お兄ちゃんのこと、好きだって言ってたよ!」
「そうなのか?」
「うん。会えなくて寂しいって言ってた」
「そうか」
「アセナも寂しい」
「…ごめんな。じゃあ、今日は、一緒に帰ろうか」
「うん!」
アセナは嬉しさのあまりか、半獣の姿になって。
このあたりは、レオナにそっくりだよな。
…落ち着きがないのも。
そう考えれば、テュルクはリュカに似ているのかもしれない。
「そういえば、もうそろそろ、アセナにも好きな男の子とか出来てるんじゃないか?」
「お兄ちゃん!」
「そうじゃなくて…」
「テュルク?」
「家族以外で、好きな男の子だよ」
「うーん…」
「アセナちゃんって、歳より幼く見える気がするんですよね」
「昔からそうだったな」
「ああ。酷くお兄ちゃん子だったし、誰かに甘えたい気持ちが抜けてないんだろうな」
「そういうのって、お兄ちゃんとしてはどうなんですか?頼られてるのって」
「ん?まあ、嬉しくはあるかな」
「へぇ、そうなんですか。私って、ほら、二番目だから、そういうのって、なかなか分からないんですよね」
「そうか。まあ、俺が言うのもなんだけど、一番上は結構大変なんじゃないかな」
「そうですよね。兄ちゃんとか見てたら、そんなかんじはします」
「だからと言って、気を遣うことはないよ。一番上って、下の弟妹に頼ってほしいものだから。少なくとも、俺はそうだった」
「へぇ、そうなんですか。なんか、リュカさんが言うと、説得力が増す気がしますね」
「そうかな…」
「はい」
「まあ、アセナみたいな妹は、兄としても頼られ甲斐があるというか、なんというか」
「アセナ?」
「ああ、そうだな。…こう、甘えてくれるってことは、頼りにしてもらってるんだなって思えるし。今のレオナは、俺と距離を置こうとしてるみたいだから、ちょっと寂しいけど」
「レオナは、昔はお前にベタベタだったのにな」
「成長したってことだろ。好きな男の子も出来たみたいだし」
「まあ、あいつの性格からすれば、意地でもそういう部分は見せまいとするだろうけど」
「はぁ…。そうだな…」
「レオナ、気が強いからね」
「なかなかキツい性格だし」
どこかでくしゃみでもしてないだろうか。
でも、文句は言うだろうけど、あんまり気にしなさそうなんだよな。
そういうやつだ、レオナは。
「この下着、紅葉お姉ちゃんの匂いがするー」
「オレのだからな」
「もう…。アセナちゃん、そういうことしちゃダメ」
「そういえば、これだけいろいろ洗濯して、混じったりしないのか?」
「まあ、たまに間違ってることもあるな。でも、裏に名前の刺繍がしてあるから」
「ん?ホントだ」
「もう…。リュカさんも、平気で姉ちゃんの下着を扱わないでくださいよ…」
「まあ、紅葉の下着なんて、もう見飽きたくらいだけどな。昔は、よく一緒に風呂にも入ってたし。懐かしいな」
「そうだな」
「昔と今じゃ違うでしょ。二人とも、もう立派な大人なんですし」
「そういえばそうだな。でも、やっぱり変わらないよ。紅葉は紅葉だ」
「………」
まあ、確かに私は私だ。
リュカもリュカだし。
それは、大人になった今も変わらない。
…いや、もしかしたら、変わっちゃいけないことなのかもしれないな。
当たり前のことが、今も昔も当たり前であることが。