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「では、師匠、行ってまいります」

「行ってらっしゃい」

「あの、えっと、本のことなのですが…」

「分かってるよ。こっちでちゃんと保管しておくから」

「は、はいっ。よろしくお願いしますっ」

「ああ」


秋華は少し恥ずかしそうに頬を赤くしながら、素早くお辞儀をして。

そして、そのまま、逃げるように走っていってしまった。


「それで、お前はいつ出るんだ?」

「ん?今日は、僕はお休みだし。紅葉とずっと一緒にいられるね」

「そんな気はないんだろ」

「ないけど」

「まったく…。ツカサは朝早くに出たっていうのに…」

「だから、僕は今日はお休みだって。そういえば、リュカさんも休みって言ってたかな」

「そんな情報は要らない」

「えぇー。リュカさん、紅葉に会いに行こうかなって言ってたよ」

「そうか。でも、だからと言って、どうというわけではないからな」

「ふぅん」

「…お前、またレオナあたりから、余計な情報を仕入れてるんじゃないだろうな」

「リュカさんと紅葉が恋人同士だったってやつ?リュカさんに聞いたら、まだ小さいときのごっこ遊びだったって言ってたけど」

「そうだな」

「まあ、僕は、レオナほど他人の恋愛事情に興味があるわけじゃないし。昔の恋人ごっこが、今度は本当の恋になろうとなるまいと、僕には関係ないから」

「ふん、そうか。それならいい」

「でも、利家さんも爽やかで格好いいけど、リュカさんの寡黙で何を考えてるのか分からないかんじも格好いいよね。僕なら、リュカさんみたいな男に憧れるな」

「無愛想で仏頂面なだけだろ。ほら、セカムもあんなかんじじゃないか」

「セカムは違うよ。必要と思わないことは喋らないだけで、喋るときは喋るし。寡黙とは、また違うんだよ」

「リュカもそうだろ?」

「えぇ、そうかな?」

「いや、オレには分からないけど…」

「まあ、あるんだよ。男同士でしか分からないかもしれないけど」


私にはさっぱりだな。

リュカとセカムの、何が違うんだろうか。

リュカは、セカムほど皮肉をたっぷり含んだようなことは言わないけど…。

それも、実質的にテスカトル相手限定だし、私から見た違いなんて、ほとんどない。

…考えれば考えるほど、よく分からないな。


「まあ、とりあえず、僕は二度寝してこようかな。紅葉はどうするの?」

「オレも二度寝だな」

「そっか。一緒に戻る?飛んでいくけど」

「いや。オレはセト布団で寝るから」

「あぁ…。風邪引かないようにね」

「温かいぞ。お前も一緒にどうだ」

「いいよ…。いちいち人間の姿になるのも面倒だし…」

「そうか。お休み」

「うん、お休み」


翡翠は地面を蹴って空へ駆け上がると、部屋の屋根縁へと戻っていった。

…さて、私も眠るとするか。

セトのところへ行って、たてがみの中に潜り込む。

お休み…。



目が覚めると、ちょうどいいくらいの日の高さだった。

セトはまだ寝ているみたいだけど。


「起きたか?」

「なんだ。もう来たのか」

「家にいても、寝る以外は何もすることはないからな」

「そうかよ」

「この者がリュカか」

「ああ、そうだな」

「何を言ってるんだ?」

「同居人と話してただけだ」

「同居人?」

「お前には、こいつが見えないんだな」

「幽霊にでも取り憑かれているのか?」

「まあな。お陰でこのザマだ」

「ん?なんだ、これは。病気か?」

「病気じゃないけど、似たようなものだ」

「ふぅん…」

「まだ離れられないのだ…。迷惑を掛けるが…」

「もう慣れたよ。それに、別に気にしてない」

「むぅ…」

「何を話してるんだ?」

「まあ、いろいろだよ」

「ふぅん…。紅葉は、昔から、そういうのと関わってたよな」

「必ずしも、好きで関わってるわけじゃないけどな」

「そりゃそうだろうけど」


リュカは私の隣に座って、山の向こうに昇り始めた太陽を仰ぎ見る。

太陽を背にして、黒い影がこちらに飛んできているけど、カイトだろうな。

リューナのことについて、何か進展があるといいんだけど。

…それにしても、このリュカの横顔は、いつまでも変わらないなと思った。

昔見た、あのままに。


「なんだ、あれ?何か飛んできてるぞ」

「カイトだ。心配はない」

「そうか。それならいいんだけど」

「…そういえば、お前」

「ん?」

「レオナが、お前とオレを恋仲にしようとしているんだけど」

「そうか」

「お前はどう思ってるんだ?」

「そうだな…」

「………」

「紅葉は、確かに魅力的な女になった。でも、もう、俺のものではない。それだけのことだ」

「リュカは、オレのことを、まだ好きでいてくれてるのか?」

「それは、俺にも分からない。紅葉のことが好きなのか、好きじゃないのか。ただ、ごっこ遊びだったかもしれないけど、あれ以上の出会いはまだないと思ってる」

「初恋との出会いは、忘れ難いものだ。少なくとも、私はそうだったな」

「ふん。お前の初恋の相手は誰なんだよ」

「俺か?」

「いや、同居人だ」

「そうか…。俺は、紅葉だった」

「ふぅん…」

「…まあ、私はテスカトルだ。分かるとは思うが」

「そうだな」

「あいつには内緒だぞ」

「分かってる」

「レオナが何を考えてるのかは知らないが、俺もそろそろ身を固める時期なんだろう。…今度、お誘いを受けてみようかと思うんだ」

「そうか」

「ああ。それで決まるかどうかは分からないけどな」


リュカは申し訳なさそうに言う。

私に気を遣うことなんてないのに。

…でも、少し複雑な気分になった。

何なんだろうか、これは。

私も、リュカのことが、まだ好きなのか?

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