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月が昇る時間は、日ごとに遅くなってきている。

そのうち新月になって、また満月に向かう。

満月は新月に向かい…


「何を考えてるの?」

「いや…」

「あ、まだダメだよ!」

「………」


ごはんを目の前にして待たされるのは相当辛いだろう。

それでも明日香は、ダラダラと涎を垂らして待っている。


「良いよ。食べなさい」

「……!」


早速駆け寄り、一心不乱に食べる。

今日はセトが捕ってきた熊の肉も入ってるから、いつもより豪勢だ。

いつも明日香の夕飯はみんなのあとなので、不平不満が積もっていってるみたいだから、これで少しでも機嫌が取れれば良いんだけど…。


「ワゥ!」

「ない。それで終わりだ」

「クゥン…」

「ないものはないんだ。セトにまた捕ってもらえばいいだろ」

「………」

「お前一人じゃ無理だろうな」

「………」


明日香はそのまま広間を出ていってしまった。

…明日香"一人"では無理だろう。

でも、まだ続きがある。

それに気付いているんだろうか。


「あ、そういえば、美希さんは?」

「さあな」

「明日には発っちゃうのかな…」

「…さあな」


美希は夕飯のあと、誰にも何も言わず、どこかへ消えてしまった。

別れを言うと、余計に去りにくくなるからだろうか。

もしかしたら、もう遠くに旅立ったのかもしれない。


「まあいいや。また会えるよね」

「ああ。きっとな」


理由は分からないけど。

必ず、また会える。

そう確信出来た。


「グルル…」

「あ、セト。どうしたの?」

「………」

「うん。もう夕飯は終わったよ」

「ウゥ…」

「良いけど、なんで?」

「………」

「黙ってちゃ分からないでしょ」

「………」

「もう…ちょっと待ってて。ごめんね、姉ちゃん」

「謝ることはないだろ。ゆっくりしてこい」

「うん、ありがと」


そう言うと、風華は広間を出ていった。

それにしても、女の子を夜の散歩に誘うとは、セトも隅には置けないな。

覗き…なんて野暮なことはやめて。

どうしようかな…。


「紅葉、暇か?」

「んー、どうだろ」

「暇なら…さ、散歩にでも行かないか…?」


さっきのセトの様子を見てたから驚きは半減。

それに…セトの方が誘うのが上手かった。

だから、少し意地悪をしてみる。


「どうしようかな」

「嫌ならいいんだ…」

「………」

「………」

「ふぅ…」

「…そうか。ごめんな、変なこと言って」


そして、そのまま立ち去ろうとする。

その後ろ姿に抱きついて


「ふふ、嘘だよ。さあ、行こうか」

「え?あ、うん」


利家の手を取り、広間をあとにした。



城の外周は真っ暗だった。

市場の方に行くと、夜店なんかもあるんだけど、そちらには行かず。


「議会も無事に集まり、それほど大きな事件もなく、この国は安定している」

「うん」

「僕がヤゥトにいた頃、ずっと願っていた世界が、今ここにある」

「うん」

「まさか、自分が中心になるなんて思わなかったけどね」

「うん」

「…あ、ごめん。こんな話ばっかりで…」

「ううん。犬千代の話、もっと聞きたい」

「それじゃ不公平だろ。今度は紅葉の話を聞かせてくれ」

「オ、オレの話?そんなのないよ…」

「ないはずないだろ?小さい頃の話とかさ」


そ、そんなこと言われても…。


「あ、そうだ」

「何か思い付いた?」

「綺麗な龍を見た」

「セトじゃなくて?」

「ああ。蒼い鱗の龍」

「へぇ…」

「響が言ってたけど、龍は感情が昂ったときに龍紋という模様が出るらしい。というか、セトの龍紋を昨日見たんだけど」

「龍紋か…」

「あの蒼龍の龍紋は本当に綺麗だったな…。どういう理由で感情が昂っていたのかは、そのときは分からなかったんだけど」

「へぇ~。僕も見たかったなぁ」

「その蒼龍は、いつも同じ場所にいて眠っていたんだ。オレが近付くと起きて、綺麗な龍紋を見せてくれた。それが楽しくて、毎日のように通った。母さんには危ないから近寄るなって言われてたんだけど」

「母さんって、狼の?」

「ああ。オレがまだ狼だった頃の話だ」

「うん。それで?」

「ある日、龍が話し掛けてきたんだ。私はもうすぐ行かなきゃいけないから、もうここに来てはダメだって。どこに行くのか、なんで来ちゃダメなのか、聞いても答えてくれなかった。ただ、何回も"ありがとう"って」

「………」

「次の日に行ったときには、もう龍紋を見せてくれなかった。顔を舐めてみても目を開けてくれず、話し掛けても答えてくれず。思い付く限りの全てをしてみたけれど。いつの間にかお母さんが来ていて、もうやめてあげなさいって。お互いに哀しくなるだけだからって。…私はそこで初めて、身近な死を経験した。初めて…泣いた」

「………」

「そして、私たちは規律に従い…その龍を…」

「そうか…」


利家は優しく肩を抱いてくれて。

ふと見上げると、木々の間から綺麗な星空が見えた。



部屋に戻ると、チビたちと風華はもう寝ていた。


「ごめんな…。辛いこと、思い出させて…」

「いや。あれはオレにとって大切な思い出だから」

「うん…。でも、ごめん…」

「はぁ…。じゃあ…」


利家を抱き締めて、頬に口付けをする。


「……!」

「これで許してあげる」

「あ、うん…。どうも…」

「じゃあね。お休み、利家」

「お休み…紅葉」


振り返りざま、少し流し目で利家を見て、軽く尻尾を振る。

それが伝わったか伝わらなかったか、利家はこちらを見てニコリと笑った。

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