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昼ごはんが終わってすぐに、医務室からの伝言と呼び出しがあったから、とりあえず、医務室に向かうことにする。

医務室に着くと、まずは八重が出迎えてくれて。

風華は心配そうに望の方へ駆け寄るけど、貧血は収まったのか、望は朝よりも随分顔色が良くなったみたいだった。


「望、どうしたの?大丈夫なの?」

「うん、大丈夫だよ」

「気分は悪くない?身体の調子は?」

「大丈夫だよ」

「そう…。無理してない?」

「してないよ」

「風華。心配なのは分かるけど、望にも話させてやれ」

「う、うん…」

「………」

「望。心の準備が出来たのか?」

「…うん」

「そうか。じゃあ、話してくれ。なんで、貧血で倒れたりなんかしたんだ?」

「えっとね、うーん…」


望はモジモジとしながら、チラリと八重の方を見る。

八重は、それを見てニッコリと頷いて。

それから、私たちの方をもう一度見ると、頬を赤らめながら話し始める。


「あ、あのね、えっと…。昨日の昼くらいからね、血が出てくるようになったの…」

「えっ、望、怪我したの?」

「ううん…。えっと、ここから…」


殊更恥ずかしそうに、下腹部のあたりを撫でる。

顔の赤みも最高潮に達し、また倒れるんじゃないかと思うほどだった。

…でも、やっぱりそうだったな。

カイトの忠告は正しかったというわけだ。


「月のものによる、失血性の貧血。何か悪い病気だと思って、誰にも言えなかったのよね」

「うん…」

「月のもの…。失血性…」

「おめでとう、望。今日は赤飯を炊かないとな」

「………」


耐えられなくなったのか、望はそのまま布団を被って亀のようになってしまう。

風華は、まだ呆然としていて、全く実感が湧いていないようだった。


「でも、望ちゃんも、そういう歳だからねぇ」

「そうだな」

「望ちゃんが倒れたときに、ナナヤちゃんが気付いてくれたみたい。初潮だから、しばらく周期もまだまだ不安定だと思うし、今回は出血量もかなり多かったみたいね。汚れた服は、こっそり自分で洗ってたらしいわ。昨日一日我慢してたから、対応が間に合わなくて貧血になっちゃったけど、次からはちゃんと言うように言っておいたから」

「ナナヤはどうしたんだ?」

「ナナヤちゃんには、望ちゃんのとりあえずの生理用品を買い集めてもらってるわ。一旦収まってから、また自分の好きなものを買えばいいんじゃないかしらと思って」

「そうだな」

「でも、帰りが遅いところを見ると、どこかで寄り道してるようね」

「そうだな…」


涼のところだろうか。

昼も跨いでるしな。

まったく、お気楽なものだ…。

もしかすると、食堂で言い触らして、赤飯でも炊かせているのかもしれない。


「今日は、大事を取って、ここで休ませます。だけど、ご心配なく」

「ああ、分かった。よろしく頼む」

「はい。よろしく頼まれました」


まだ亀状態の望と、ぼんやりしてる風華を置いて、医務室をあとにする。

まあ、いろいろと考えることはあるけど。

とりあえず、お祝いの準備かな。



厨房では、美希、灯、進太の三人が夕飯の献立を考えていた。

灯がハンバーグを作ると言い張るから、変更を余儀なくされたんだろう。


「だから、一人分か二人分くらいにしておけと言ったんだ」

「そんなちょっとだけ作っても、美味しくないでしょ」

「じゃあ、突発的に作るのはやめろ。遅くとも、一週間前には報告しろ」

「料理なんて、その日の気分によって作るものでしょ。一週間も前に報告するなんて無理」

「献立は、栄養学に基づいて、きちんと偏りのないように、計画的に立てるものだ」

「えぇー。そんなことしてて楽しい?」

「楽しい楽しくないの問題ではないし、充分楽しい」

「ホントかなぁ」

「そんなことはどうでもいいだろ。とにかく、今日は献立を少し変更しないといけないんだけど、どう変更するのかが問題だ。牛肉と、豚肉や鶏肉とは、含まれる栄養も少しずつ違う」

「どれも、同じ肉じゃない」

「じゃあ、お前は、牛肉と豚肉と鶏肉を並べられたら、判別がつかないんだな?」

「つくよ。違う肉なんだから」

「同じ肉だと言ったじゃないか」

「同じ肉類だって言ったの」

「同じ肉類でも、並べると違うものだと分かるんだから、含まれる栄養も違うだろうってことは想像出来ないのか?」

「大差ないでしょ」

「大アリだ」

「巨大アリ?」

「………」


美希は大きなため息をついて。

呆れ返っているといったところか。

進太は、二人の掛け合いを、ぼんやりと眺めているだけだった。


「あいつは喋らないのか?」

「進太は、ああいう掛け合いとか言い争いを担当するようなやつじゃないからな。来たるべき発言のときに備えて、献立の案でも練っているんだろうよ」

「ふむ…」

「あ、隊長。いつからそこに?」

「えっ、お姉ちゃん?何か用?」

「お前に用はない。…美希、ちょっといいか?」

「なんだ。望のことか?」

「望がどうかしたの?昼もそんなこと言ってたよね」

「あぁ、聞きました。貧血で倒れたんですよね?」

「そうだ」

「えぇ、そうだったの?お見舞いに行ってあげないと」

「いや、お前らには夕飯の献立を立て直してもらわないといけない」

「なんでよー。唐揚げをちょっと減らして、ハンバーグを入れればいい話でしょ」

「そんな単純な話じゃない」

「今日は、お祝い用の献立にしないといけないんだな?」

「ああ、そうだ」

「えっ、ということは…。へぇ、だから、貧血になっちゃったんですね」

「何よ、みんなで納得しちゃってさ。私にも教えてよ」

「望は、昨日が初潮だったらしい。何かの病気だと思って、みんなに心配させないように、今日倒れるまで黙ってたらしいけど」

「えっ、ホントに?じゃあ、お赤飯炊かないといけないじゃない」

「だから、ここで夕飯の献立を練り直してくれと言ってるんだ」

「分かりました。お祝いの料理といえば、俺ですよね」

「あー、そういえば、進太って、なんか行事行事に食べる料理に詳しかったよね」

「今ある食材で出来るものといったら…」

「とりあえず、お赤飯は炊かないとな」

「うん」

「そういえば、望は鶏肉が好きだったな。何か出来ないか?」

「鶏肉ねぇ…」

「ハンバーグもあるよ!」

「お前は少し黙ってろ」

「むぅー…」


お祝いの献立の相談を始める三人。

進太が主導して、手際よくいろいろと決めていく。

…私の出る幕はないな。

もともと、料理に関して、私が口出し出来ることはないけど。


「真剣だな、三人とも」

「そうだな」

「進太も、さっきとは別人のようだ」

「ああ。だから言っただろ?」

「ふふふ。そうだったな」

「…まあ、オレたちは部屋に戻ろう」

「ああ」


三人の邪魔をしないように、静かに厨房を出て。

美希が気付いたようで、最後に振り返ると、小さく頷いていた。

…まあ、あいつらに任せておけばいいな。

私は、別のところで何か出来ないか、考えてみることにしよう。

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