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屋根縁のところで、昼ごはんを食べているリカルを見つける。

たまにぼんやりと空を眺めてるのは、なぜなんだろうか。


「調子はどうだ?」

「あっ、えじちょーさん」

「リカルは、今日もぎょーさん問題解いたな」

「うん!」

「そうか」

「昼からは、リカルはどうするん?」

「お昼からは、お習字」

「ほんなら、習字も頑張りや」

「うん!」

「…ところで、リカル」

「何?」

「テスカとは、会いたいか?」

「うん、会いたいよ。なんで?お姉ちゃん、帰ってきてるの?」

「…まあ、今日、寺子屋が終わったら、少し待っていてくれないか」

「どこで?」

「オレの部屋に来るといい」

「うん、分かった」

「とりあえず、話はそれだけだ」

「うん。あっ、えじちょーさんも、お昼ごはん、一緒に食べない?」

「そうだな。そうするか」

「うちとエスカもええかな」

「いいよー」

「おおきに。ほら、エスカもこっち来て」

「あっ、は、はい…」


レオナは、何かぼんやりと立ち尽くしていたエスカを、リカルの横に座らせて。

何を見ていたんだろうか。

リカルにしろ、エスカにしろ。

まあ、なんでもいいけど。


「えじちょーさん」

「なんだ」

「黒い豹さんのことは知ってる?」

「豹?何の話だ」

「今日、起きたら、黒い豹さんの背中に乗ってたの」

「夢の話か?」

「夢じゃないもん!みんな、リカルは夢を見てたって言うけど…」

「まあ、普通言うわな」

「黒い豹さんの背中に乗って、原っぱを走ってたんだけど、気が付いたら家で寝てたんだ」

「ふぅん…。いよいよ夢やな…」

「それでね、朝ごはんを食べて、寺子屋に行こうと思ったら、家の庭に豹さんがいたの」

「えぇ?庭に…豹?」

「それでね、その豹さんに名前を聞かれたから、リカルだよって答えたら、そうかって言って、またどこかに歩いていっちゃった」

「ふむ…。しかし、それは、もしかすると、下級の妖怪あたりが、豹に化けて真名を奪いに来たのやもしれんな…」

「下級の妖怪?」

「そいつも黒豹だったのか?」

「えっ、うちはずっと黒いもんやと…」

「うん、黒かったよ」

「よかった…」

「庭の方から音がしたから行ってみたらいたんだ。最初は、なんか霧みたいなのが豹さんの周りにモヤモヤしてたんだけど」

「ますます妖怪の類やな、それ…」

「でも、テスカトルさまも、たしか、黒豹でしたよね」

「そうだな」

「えっ、ホンマに?」

「ああ。まあ、テスカトルなら、人を乗せて野を駆けるくらいは造作もないことだろうな」

「でも、そんなん…。ホンマなんかなぁ…」

「しかし、本当に下級妖怪に真名を奪われたとなれば、大変なことだ。簡単に防護と罠を掛けておこうか?」

「ああ。よろしく頼む」

「せや。さっきから気になってたんやけど、下級妖怪に真名を奪われたらどうなるん?」

「下らない悪戯に使われたり、加減の分からない低脳どもなら、最悪、上級妖怪が徒に教えた危険な呪術や妖術を、自分で制御も出来るはずがないのに試しに使ってみて、両方死んでしまうということもある」

「えっ。えらいこっちゃ。早よ防護したってぇな」

「上級の術を使うには、それなりの準備が必要だ。そこまで慌てることはないが…む?」

「何?どないしたん?」

「…エスカ、ちょっと見てくれないか」

「あ、はい。分析ですか?」

「ああ。よろしく頼む」

「分かりました」

「ねぇ、蛇さんは、さっきから何を言ってるの?」

「あぁ、リカルにも見えるんや」

「……?」

「まあ、リカルが名前教えた豹が、悪いやつやないかってことを、話し合ってたんや」

「悪い豹さんじゃないよ?」

「そうかもしれんけど、いちおうな」

「うん…。いちおう…」

「では、始めます」


そう言うと、エスカは目を瞑って、口元で何かを呟く。

すると、身体中の刺青が、白く光り出して。

…ほんの一瞬のことだったけど。

光が収束すると、エスカはまた目を開けた。


「終わりました」

「どうだった」

「はい。リカルちゃんには、計五個の妖術が掛けられています」

「えっ!もう遅かったんか?」

「内容は」

「はい。防護、感知、反撃、追跡、謎の妖術です」

「謎の妖術…?てか、他の四つの妖術て?」

「防護はそのまま、術を掛けられた対象を防護するものだ。感知と反撃は二つでひとつで、感知は敵の術を察知し、その感知より低級な術を反撃の起動のために使う力に還元する。反撃は、感知で逆探知した相手に一矢を報いるというものだ。追跡は、術を掛けられた対象の現在地を知ることが出来る。そして、謎の妖術というのは、ただの署名のようなものだろう」

「なんでそんなこと分かるん?」

「破壊神テスカトルの話を聞いたことはあるか?」

「えっ?いや、あんまり…」

「破壊神としてのテスカトルは、破壊の限りを尽くしてきたが、最初に必ず、一人の人間に自分の印を付けておく。そして、その人間が破壊の基点となるんだ」

「ほんなら、リカルの見た豹て…」

「テスカトルだろうな」

「うん。おれはテスカトルだって言ってたよ」

「えぇ…。それが一番大切な情報やろ…」

「そうなの?」

「…まあ、それはええわ。それで、リカルに付けられたんが、破壊の基点になる印なん?」

「そうだろうな。しかし、台風の目と同じで、その基点となった者の周辺には危害が及ばない。周辺というのは、物理的な意味ではなく、基点となった者が大切に思う者たちや場所、という意味だが。つまり、テスカトルが気に入った人間に印を付けておくわけだ」

「テスカトルは、リカルを気に入ったってこと?」

「おそらくな」

「でも、ほんなら、今からこの辺を破壊しようとしてるってことなん?」

「いや、それはない。ここらを破壊する意味がないからな。それに、そういうことをしていたのは、若い頃の話だ。今となっては、ただのお気に入りの印だろうよ」

「でも、テスカトルって、お姉ちゃんの名前に似てるって思ったんだー」

「似てるってか、そっから来てるんやと思うで」

「そうなの?」

「せやんな?」

「まあ、テスカ自身もそう言ってたしな」

「テスカさんって、昨日、翡翠さんが変化してた…」

「それは言わない方がいいな。翡翠のためにも」

「えっ?は、はい…。分かりました…」

「お姉ちゃんと一緒で、優しくて強そうな豹さんだったよ」

「ほぅ。よく分かっているではないか、リカル」

「あっ」

「えっ?」

「む…」


屋根縁に降り立った黒い影。

真ん中にある金色の目は、リカルを見ていて。

…それは、確かに黒豹だった。

優雅にリカルの前まで歩いてくると、魅せるように座り込む。


「久しぶりだな、リューナ。引っ越すと聞いて、見物に来てやったぞ」

「豹の手も借りたいものだがな」

「おれは手伝わんぞ」

「ふん。最初から、そんなことは期待していない」

「それならいい」

「ちょい待ちぃて。この黒豹が、ホンマにホンマのテスカトルなん?」

「間違うはずもない」

「これ以上に美しい毛並みの者は、世界広しと言えど、どこにもいないだろうからな」

「ああ。この傲慢さは、確かにテスカトルだ」

「おれは、お前のその歯に衣着せぬ物言いが好きだ。結婚してくれないか」

「まったく、お前は…」

「旧友との再会を懐かしむのもいいが、そろそろオレたちにも話をさせてくれ」

「何を言う。旧友ではなく、おれとリューナは夫婦だ」

「いつから夫婦になったんだ…」

「おれが、お前に結婚を申し出たときからだ。あれはいつだったか。たしか、黎明の大戦のときが一回目だったな」

「はぁ…」


まったく、このテスカトルというのはよく喋る。

次々と話が出てきて、入り込む隙間がない。

だから、リカルやレオナは、もう無視をして昼ごはんの続きを食べている。

エスカだけは、二人の掛け合いを真剣に聞いてるけど。

…それにしても、ミケにしろ、こいつにしろ、猫科のやつらは自己愛が強いんだろうか。

今度、二人を引き合わせてみたら、なかなか面白いかもしれないな。

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