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洗濯をするのも久しぶりかもしれないな。

相席は珍しくレオナで。

…それと、発見がひとつ。

鱗と鱗の隙間のところに、ひんやりとした水が染み込んできて、なかなか気持ちいい。

今度、ゆっくり、手や足を水に浸してみるのもいいかもしれないな。

鱗のある生活に、少し慣れてきたんだろうか。


「今日は、リカルは来るのか?」

「えぇ?リカル?来ると思うけど。どないしたん?なんか用事?」

「まあな」

「リカルは、最近なかなか計算も速うなってな。簡単な連立方程式くらいやったら解けるようにもなって。将来はお爺ちゃんみたいな発明家になりたいゆうてたけど」

「ふぅん…」

「発明家に計算ているんやろか」

「さあな。でも、出来た方がいいんじゃないか?」

「せやな。まあ、算数だけやのうて、いろんなことに頑張ってるみたいやけど」

「そうか」


発明家か。

柔軟な発想力を鍛えるには、いろんなことを経験をして、いろんなことに疑問を持ち、いろんなことを考えるのがいいんだろうか。

とにかく、発明家の創作能力というものには、私たちにはないものを感じるな。

…磁石と砂鉄で文字を書くなんて、どうやって思い付いたのか。

思考回路を覗いてみたいものだな。


「まあ、あれやな。今日は民族学と哲学の先生も来るから、姉ちゃんも寺子屋に出てみたら?銀次も来よるけど」

「ふぅん。考えとくよ」

「うん」

「…エスカにも、何かやらせたいのだが」

「先生を怖がるんじゃないのか?」

「しかし、いつまでも部屋に籠っていては、何も変わらないだろうし…」

「それはそうだけど」

「上手く言って、連れ出してはくれないか?」

「ほんなら、うちに任せとき」

「なんだ、何か策でもあるのか?」

「えっ?ないけど」

「なんだよ、それは…」

「ええやんええやん。なるようになるて」

「言っておくが、お前を怖がる可能性だってあるんだからな」

「大丈夫大丈夫」

「はぁ…」


その自信はどこから出てくるんだろうか。

まったく、むしろ見習いたいくらいだな…。


「よっこいしょ。それより、姉ちゃん。これもお願い」

「お前、家の洗濯物も持ち込んでるのかよ…」

「ええやん。城のみんなの洗濯物に比べたら、こんなんちょっとやろ。ほら、アセナの下着」

「はぁ…。別にいいけど…」

「あっ!うちのは自分で洗うからな!」

「はいはい…」


慌てて自分の下着を横によけていく。

いつの間にか、レオナの横に忍び寄っていたりるが、なぜかひとつひとつ手に取って、匂いを嗅いでいたけど。

…いい匂いでもするのか?


「ちょっと、りる!何しとん!」

「レオナの匂いがする」

「うちの下着やねんから当たり前やろ。もう…。匂いなんて嗅がんといて!」

「んー…」

「これの匂いでも嗅いどき」

「ん」


レオナは、男物の下着をりるに投げて寄越して。

誰の下着だよ…。

というか、自分のじゃなければいいのか?

…とりあえず、りるから下着を取り上げて。

これは…リュカのだな。


「兄ちゃんの下着が好みなん?」

「お前がりるに渡すからだろ…」

「残り香とか嗅いでもええねんで」

「遠慮しとくよ…」

「兄ちゃんのこと、まだ好きなんちゃうん?」

「好きなのと匂いを嗅ぐのは、何か関係あるのか?それに、オレにはもう夫がいるからな」

「ええやん。好きな人くらい、何人おったってええやろ。夫はあれかもしれんけど」

「昔の話だ。好きも恋も知らなかった頃の」

「えぇー」


でも、私も、どこかでは、まだリュカのことが好きなのかもしれない。

口付けを…拒むことも出来た口付けを、受け入れたんだから。

…レオナの興味は、もう別の方向に向いたようだけど。

私にとってのリュカというのは、何なんだろうか。

まあ…この下着を握り締めながら考えることではないか。



部屋に戻ると、エスカが望と何か話をしていた。

一緒についてきたりるが、早速望に飛び付いて。


「わっ、どうしたの、りる?」

「ナデナデしてー」

「はいはい」

「望。寺子屋は?」

「まだ、もうちょっと時間あるから」

「そうか」

「エスカお姉ちゃんとね、一緒に寺子屋に行けたらなって話をしてたんだ」

「せや、その話や」

「えっ?」

「エスカ。うちはレオナゆうて、寺子屋で算数教えてんねんけど。今日から来てみやん?」

「えっと…。の、望ちゃんとも話していたのですが、あの…まだちょっと難しいかなって…」

「なんでぇな。先生が怖いから?」

「あの、その…。は、はい…。大人の方には、まだ慣れていなくて…」

「うち、怖い?」

「えっ。えっと…」

「怖ないやろ?」

「えっと…」

「ほれ」

「ひゃっ!」


急にエスカの手を握る。

エスカは、おどおどしたような目で、私とレオナを見比べて。

…レオナに任せることにはしたけど、リューナはどうも心配なようだ。

イライラしたような気配が漂っている。


「うちと友達にならん?」

「あ、あの…えっ?」

「うちと、友達に、ならん?ってゆうてんねん」

「お、お友達ですか…?」

「せや。おんなじくらいの歳の、おもろい女の子の友達いた方が楽しいやろ?こんな無愛想な姉ちゃんとか、けったいな蛇しか友達おらんかったら寂しいやろ」

「あの、リュナムクさまは、お友達では…」

「なんでもええやん。なっ。うちとエスカは今から友達。敬語もなしやで」

「えっと…」

「ほんなら、寺子屋行こか」

「えっ、ま、待ってください…」

「待たへん」


そう言って、握った手を引っ張って無理矢理エスカを立たせると、そのまま一緒に部屋を出ていってしまった。

…えらく強引な手だな。

いつぞやのテスカと桐華を思い出した。

でも、結果を見ないとどうにも言えないけど、まあ、あれくらい強引でないと、エスカもついていかないかもしれない。


「…紅葉」

「ああ、分かってる。望、りる。オレたちも行こう」

「うん」

「んー」


望とりるも連れ立って、寺子屋へ。

民族学に哲学に数学か。

まあ、とりあえずは、少し様子を見ることにしよう。

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