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風華と灯は涼のところへ行き、セトは広場の隅でいじけている。

子供たちは、私の部屋に集まって昼寝。

私は、その横でただ空を眺めているだけだった。


「ふぅ…」


ため息をついてみても、何が変わるわけでもない。

流れていく饅頭のような雲を見て、いたずらにお腹を空かせるだけ。

桜やユカラは何をしてるんだろうか。

利家と空は議会だし。

美希は見掛けない。

と、葛葉がモゾモゾ動き出して起き上がる。


「ねーねー…」

「ん?どうした?」

「おしっこ…」

「よし。歩けるか?」

「うん…」


葛葉の手を取り、厠へと向かう。

そういえば、前にも光を連れていったな…。

フラフラと歩く葛葉を、なんとか厠まで引っ張っていく。


「ほら。着いたぞ」

「んー…」


戸を開け、中に入っていく。

…開けっ放しだったので、いちおう閉めておく。

ちゃんと閉める習慣を付けさせないといけないな。


「あぅ…」

「どうした?」

「うぅ…」

「……?」


戸を開けて見てみると、寝ぼけていたせいか、下着を下ろさずに用を足そうとしたらしい。

下着だけでなく、着物までびしょびしょに濡らしていた。


「あーあ…」

「うぅ…お母さんにおこられるよぉ…」

「大丈夫だから、な?泣かないで」

「うん…」


葛葉の頭を撫でてやり、ひとまず落ち着かせる。

さて…


「おい!ちょっと手拭いを取ってきてくれ!」

「……?了解しました」


ちょうど近くに来た誰かに頼む。

その間に、下着を脱がせて粗方拭き取っておく。

こりゃダメだな…。

全部着替えさせないと…。

そうしてるうちに、さっきの誰かが戻ってきて、戸の隙間から手拭いを差し出す。


「隊長。どうぞ」

「ありがとう」

「どうしたんですか?」

「ちょっとな…」

「うぅ…」

「あぁ…葛葉ちゃんですか…。他にご入り用のものは?」

「風呂と着替えの用意を頼む。すぐ行くから」

「はい、分かりました」


受け取った手拭いで、きちんと拭いてやる。

そして、下着を手拭いで包み、葛葉を肩に担ぐ。


「あぅ…」

「よし、行くぞ」


厠を出て、真っ直ぐ風呂場へと向かう。

距離も近いので、誰と会うこともなく到着。

さっきの誰か…清正が、葛葉に合う服を探していた。


「あ、隊長。汚れた服はその辺に置いておいてください。あとで洗っておきますので」

「ああ。ありがとう」

「いえいえ。あとですね…この服って誰のか分かりますか?」


そう言って、綺麗に折り畳まれた服を指す。


「…美希のだな」

「美希?誰です?」

「オレの知人だ」

「へぇ~」

「入ってるのかな…」

「さあ…?中は見てませんので」


葛葉に服を脱がさせて、風呂場に入る。

戸を勢いよく開けると


「きゃっ!」

「やっぱり入ってたのか」

「い、紅葉…?」

「ああ。葛葉もいるぞ」

「葛葉…?」

「お風呂~」

「あ、こら!先に身体を洗え!」

「むぅ…」


葛葉を抱えて止め、洗い場の椅子に座らせる。

しっかりと洗い流し、尻尾も洗ってやる。


「ん~」


気持ち良いのか、足をパタパタさせる。

それにしても、やっぱり九本は多いな…。

って、あれ…?

どれが洗い終わって、どれが洗い終わってないんだっけ…。


「んー、それはもうあらったよ~」

「そうか。どれが洗ってないんだ?」

「これ」


すると、器用に二本だけ振る。

…どういう構造になってるんだろう。

と、美希がジッとこちらを見ていた。


「美希もやるか?」

「え、あ…良いのか?」

「うん、良いよ~」

「そ、そうか。ありがとう…」

「なんで美希が礼を言うんだ」

「な、なんでだろ…」


そして、緊張した様子で湯船からあがってきて、おそるおそる葛葉の尻尾に触れる。


「えへへ…」

「あ…」


すると、葛葉はわざと尻尾を避けてみたりする。

美希は一旦手を引っ込めるが、意を決したように


「やっ!」

「きゃぅ~」

「葛葉は可愛いなぁ~」

「えへへ~」


葛葉を抱き締める。

頭を撫でたり、尻尾を触ったり。

葛葉も嬉しそうにはしゃいでいる

…二人とも、当初の目的を忘れてないだろうか。


「ちゃんと洗っておけよ。オレは出てるから」

「は~い」

「紅葉も、服、脱いできたら?」

「…また今度な」

「そう…」


まったく…。

…美希のは、ちょうど良い大きさ、形だな。

香具夜までとは言わないけど、せめて美希や灯くらいは欲しかった…。

はぁ…。

同じ狼なのに、なんでこんなに違うんだ…?


「ん?どうした?」

「あ、いや…」

「……?」


負け犬の気分を引きずったまま、風呂場をあとにする。


「楽しそうでしたね」

「そうだな」

「葛葉ちゃんの替えがこれです。美希さんの服もすごく汚れていたので、ついでに洗っちゃったんですが…。替えは狼用でよろしかったでしょうか?」

「ああ。ありがとう」

「いえ…。あと、二人とも衛士の服しか用意出来ませんで…」

「いいよ。ご苦労様」

「はい、ありがとうございます。では、失礼させていただきます」

「ああ」


丁寧に敬礼をして戻っていった。

風呂からは、まだ楽しそうな二人の声が聞こえる。

…やっぱり私も入ろうかな。

服を脱いで、風呂場へ舞い戻った。


あー…。

やっちゃってくれましたね、葛葉は。

美希は葛葉のことが大好きみたいですが、どうなんでしょう。

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