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「不老不死なんてのは、実際には存在しない。あるとすれば、エスカのように妖怪やら何やらの力を取り込んで利用しているとか、何か特殊な術を使ってるとかだな。どちらにしても、有限の不老不死だ。力を利用する場合、自身の器が小さいと、耐えきれずに壊れてしまうときがある。まあ、力を利用すると言っても、自身を妖怪にするようなものだからな。猫が百年生きて猫又になると言われるように、妖怪になるには長年掛けて器を大きくしていくか、妖怪並の力を最初から持ってないといけない。並の人間なら、五百年も生きれば妖怪になれるんじゃないかな。まあ、あらゆる条件を満たしていたとしても、相手の妖怪との相性が悪ければ跳ね返されて終わりだけど」

「ふぅん。勉強になるわぁ」

「…お前が今更勉強しても、不老不死は達成されてるようなものだろ」

「もう、言うねぇ、草平くん!」

「………」


母さんは、人間に化けている草平の背中を叩く真似をして。

すり抜けてしまうんだから、それでも仕方ないかもしれないけど。

でも、草平が嫌そうな顔をしているあたり、念の衝撃か何かでも送っているのかもしれない。

とりあえず、幽霊のことはよく分からないな。


「それでそれで?」

「はぁ…。全ての条件を満たして、妖怪の力を使えたとしよう。すると、人間としての本来の力と、妖怪の力が混ざり合うことで、単純な足し算以上の力が発揮されるようになる。ただし、妖怪の力が尽きる…つまり、相手の妖怪が死んでしまったりすると、それまでの反動で力は急速に失われ、じきに人間の方も死ぬだろうな」

「混血すると強くなるって言うしね。なかなか興味深いよ」

「………」

「何よ、その顔は。私が何かに興味持っちゃいけないわけ?」

「いや…。まともなことにも興味を持つんだなと…」

「えぇー。まったく、失礼しちゃうわねぇ」

「でも、お前もかなり詳しいんだな」

「む…。まあ、いろいろあってな…」

「えっ、何?別に教えてくれたっていいでしょ!」

「なんで、何も言ってないのに怒られてるんだ…?」

「気にするな。母さんはこういうやつだ」

「はぁ…。別段、隠すことでもないから教えるけど…。昔、そういうことに関して、ずっと勉強していた時期があってな…」

「えっ。人間の恋人?」

「まあ、そうだ…」

「へぇ。で、どうなったの?」

「母さん。人の過去は、あんまり詮索するものじゃないだろ」

「何よ、いいじゃない。隠すことでもないって言ってるんだし」

「だからといってだな…」

「いや、いいんだ、紅葉。もう昔の話だからな…」

「ほら」

「ほらじゃないだろ、まったく…」

「それでそれで?」

「結果から言えば、そいつはもう死んだ。添い遂げるのも悪くないけど、不老不死なんて自分のガラじゃないと笑い飛ばしてな」

「ふぅん…。そうなんだ…」

「もとから病弱だったんだ。子供を生んで、そのまま衰弱して、一年後に死んだ」

「あー、そりゃ未練の多いことだろうねぇ。私そっくり。佳人薄命ってやつ?」

「………」

「なんで黙るのよ。まあ、私みたいに、その辺を彷徨ってるんじゃない?」

「どうだろうな」

「どこかで見てるって、絶対。私ならそうするもん」

「母さんの場合、どこかと言うより、目の前だけどな…」

「あはは、そうだったそうだった。私はそうしてたんだった。だけど、子供って?草平は龍なんでしょ?今はそりゃ、イケイケの侍!ってかんじの姿だけどさ。龍と人間の間の子?」

「そうだ。種族は違うかもしれないが、全く不可能な話ではない。俺たちだけじゃなく、いろんな実例があるしな」

「はぁ。でも、龍人の話って聞いたことあるわ。半龍半人の」

「そうだな」

「それで、その子はどこにいるの?」

「それが…分からないんだ…。食料を探しに出た一瞬の間に、どこにもいなくなってしまってな…。住処に帰ったときは驚いたよ…。あちこちを探し回ったけど、全く見つからなくて…」

「消えた?神隠し?」

「分からないが…。ただ、誰かが住処に出入りしたような痕跡はあったんだ。言葉も分からない幼子だったし、もしかしたら拐われたのかもしれない…。妻も喪い、子も失い、絶望に打ち拉がれて、もう死んでしまおうかとも思っていたんだけどな…」

「その気持ちはよく分かる。私も、エスカがいなくなったときには、全く生きた心地がしなかった。私の場合は、結果的に無事に帰ってきてくれたからよかったようなものの…。お前と同じ状況になっていたら、紅葉に憑依するのもやめて、霧と消えていたかもしれない」

「………」

「うん…。でも、そのときに、松風に救われたんだ。松風は当時、戦による孤児たちを集めて、ひとつの家族として育てる家を…今で言う孤児院を、正式な制度として確立するための準備をしていた。傷心と失意の中、あちこちを彷徨っていた俺を捕まえ、粗方理由を聞き、その孤児たちの世話係を任せてくれたんだ」

「子供を喪った親の傷を癒せるのは、結局は子供だけなのかもしれないね。子供を喪った母狐が、親とはぐれた仔狼に乳を与え、育てたって話を聞いたことがあるわ」

「失った部分を埋め合わせるもの…。同じものを得られることはないのかもしれないが、せめてもの代替を求めるのは、我々の哀しい(さが)なのかもしれないな…」


消えた草平の子。

不幸な事件と言う他ないのかもしれないが、草平にはそれでは片付けられない、深い哀しみと後悔があったんだろう。

妻の遺した子を、自分の不注意で失ってしまった。

傷心と失意の放浪というのは、いかに暗澹たるものだっただろうか。

…しかし、何か引っ掛かるものがある気がするのは、なぜなんだろうか。

似た話を聞いたことがあるような…。

いや、別視点からの話…そう、拐った者の側から見た話を聞いたことがあるような気がする。

どこで、誰から聞いたかは、すぐには思い浮かんでこないけど…。


「まあ、しかし、今はこうやって立ち直ることも出来た。松風と、子供たちのお陰だ」

「そうか」

「妻に顔向け出来ないことには変わりないし、いなくなった子も帰ってきてないけどな…」

「そこは前向きに考えるのよ。きっとその子は、どこかで大切に育てられて、立派な大人になってるってね。草平が、孤児のみんなを大切に育ててきたように」

「…そうだな。そう考えておくよ」

「うん。何事も、前向きが一番だよ」

「ああ」


母さんは、何事も前向きに考えすぎな気もする。

でも、母さんの場合は、結果的にそれがいい方にばかり転がっていってたけどな。

…いや、そう考えるから、いい方に転がるのか?

何にせよ、豪運の持ち主なのは確かだろうな。

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