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「幽霊って何を食べるんだ?」

「さあな」

「食べるものは、お前たちと大差ないだろう。私だって生きているということに関しては同じだからな。まあ、姿形は、お前たちとは全く違うかもしれないが…」

「食べてるものは、オレたちと変わらないんだとさ」

「ふぅん…。大蛇なんだろ?同じったって、馬一頭丸々とかじゃないのか?」

「そういうときもあるんじゃないか?」

「でも、大蛇が馬を絞め殺して丸呑みにしてる絵なんて、想像したくないよなぁ」

「したくないならしなければいい」

「うーん…」

「言いたい放題だな、お前たちは…」


言いたい放題言ってるのはテスカだけだと思うんだけど。

あれやこれやといろんなものが大蛇に丸呑みにされる様子を妄想しては、なんやかんやと文句を言っている。

…テスカは、あの夜から、いろいろと忙しく動き回っているようだった。

もちろん、旅団蒼空の団長として。

本当に、その覚悟が出来たんだなと思う。

まあ、今のテスカは、いつものテスカだけど。


「なかなか上手いな、この料理は。何だったかな」

「オムレットライスだろ」

「そうそう、それだ。ケチャップとかいうのが手に入ったから、作ってみたとか言ってたな」

「市場の八百屋で、仕入先の農家がトメィドとかいう野菜の栽培に成功したってところがあるらしい。その野菜が、ケチャップの材料になるとかなんとか」

「ふぅん。しかし、ケチャップって血のように赤いんだな。そのトメィドも赤いんだろうか」

「さあな。でも、人参だって赤いんだし、赤い野菜があっても不思議じゃないだろ」

「そうだけど」

「…さっきから、お前たちが言ってる面妖な名前の野菜は何なんだ?長らく生きてきているが、聞いたこともないんだが…」

「外国産の野菜らしい。海の向こうの」

「ふむ、海の向こうか…。世界は広いのだな…。エスカを連れて南下してきたときも、こんなにも世界は広がっていたのだと思ったものだが、私の想像を遥かに越えている」

「…そうだな」

「紅葉、リュナムクと話しているのか?」

「ああ」

「かの邪神リュナムクも、トメィドのことが気になるんだな」

「邪神かどうかは、あまり関係ないと思うけどな…」


でも、本をたくさん読んでいるなら、外国について書いた本もあっただろうに。

今、こうやって目の当たりにして、改めて実感したということだろうか。

まあ、百聞は一見に如かずとも言うし。

そういうことなんだろう。


「そういえば、セルタはどうしたんだ?」

「ん?今は裏の山にでもいるんじゃないか?あいつは、山菜が好きだからな」

「ふぅん…」

「キノコ類も得意だし。セルタに聞けば、食べられるかどうかがすぐ分かるんだ」

「そうなのか」

「あいつの作るキノコ汁はなかなかのものだぞ。私は木耳が好きなんだけど」

「お前の好みは聞いてない」

「木耳は美味いだろ?」

「そりゃ美味いけど…」

「ほら」

「何がほらなんだよ…」

「木耳は美味いということだ」

「こいつは、よっぽど木耳が好きなのだな」

「そうだな…」


キノコといえば、椎茸や松茸が真っ先に挙げられるんだろうけど。

木耳なんてのは、他の食用キノコとは形も全く違うし、無味無臭だけど歯応えだけはある脇役…といったのが、正直なところじゃないだろうか。

…なんかこう言うと、影の功労者というか、いぶし銀みたいに聞こえるな。

まあ、いつの間にかそこにいるけど、決して主役の邪魔はしないという意味では、その表現は合ってるのかもしれない。


「木耳の刺身というのがあるらしいから、私も食べてみたいんだけど、セルタがダメだって言うんだ。どんな雑菌が付いてるか分からないからって」

「確かにそうだな」

「じゃあ、木耳の刺身ってのは何なんだ。雑菌を恐れていては、美味いものは食べられない」

「食中毒で死ぬ可能性だってあるんだからな。分かってるのか?」

「それは、まあ…」

「………」

「ん?今、何か聞こえたか?」

「エスカの目が覚めたんじゃないか?」

「何っ!」

「うぅ…。リュナムクさま…」

「エスカ!」

「本当に目が覚めてる…。よく分かったな、紅葉」

「いや…」


反射的に適当なことを言ったとは言えないな…。

まあ、本当に目覚めていたんだから別にいいよな…なんてのは、都合のいい言い訳か…。


「エスカ…。大丈夫か?痛むところはないか?」

「大丈夫です、リュナムクさま…」

「そうか…。しかし、もしもということもある。すぐに、薬師を呼んでくるからな」

「リュナムクさま…。ここは人里でしょうか…。たくさんの人間の匂いと気配がします…」

「大丈夫だ、エスカ。ここは、世話になっている城の医務室だ。何も怖くないからな」

「そうですか…。リュナムクさまがそう仰るのであれば、安心です…」

「うむ。とにかく、今はまだ安静にしていなさい。同調は、またあとだ」

「はい…」

「…ということだ、紅葉。利家を呼びに行こう」

「傍にいてやらなくていいのか?」

「そうだ、リュナムクはここにいろよ。私が行ってきてやるから」

「む…。テスカ…。すまないな…。お言葉に甘えさせてもらおうか…」

「よろしくって」

「いいよ、これくらい」

「あの、リュナムクさま…」

「あぁ、この者たちの紹介は、また同調したあとの方がいいだろう。いちおう、紅葉とテスカがここにいる」

「いろはさまに、テスカさまですね…。初めまして、私はエスカと申します…。私はリュナムクさまの従者を…」

「もう事情は分かっている。余計な心配はせずに、今は寝てろ」

「はい…。分かりました、いろはさま…」

「………」

「なんだか、本当に従者ってかんじだな」

「お前は、早く利家を呼んできてくれ」

「はいはい、分かってるよ」


テスカは、食べさしのオムレットライスを横に置いて立ち上がる。

そして、そのまま部屋を出ていって。

…まあ、確かに、絵に描いたような、従順な従者の雰囲気を醸し出しているな。

と、そんな話ではなく。


「エスカ…」

「リュナムクさま…。エスカは、また本を読みたいです…」

「ああ、読ませてやるとも」

「嬉しいです、リュナムクさま…」


同調というのが何なのかはよく分からないけど、私が考えるに、エスカは目が見えてないんじゃないだろうか。

さっきの会話からすると。

…まあ、またあとで聞けばいいことだ。

今はとりあえず、利家を待とう。

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