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騒がれるのが嫌だから、夕飯も進太に持ってきてもらって、自分の部屋で摂ることにした。

こんな生活を、いつまで続けないといけないんだろうか。

それを考えると、ため息しか出なかった。


「それで、結局、あの夢は何だったんだ?」

「さあな。少なくとも、こいつとは関係ないだろう」

「………」

「まあ、守護霊か背後霊か知らないけど、さっさと離れてほしいものだな…」

「私は守護霊でも背後霊でもない」

「なんでもいいから、さっさと離れてほしいものだな」

「うっ…。仕方ないであろう…。エスカを失った哀しみは、それだけ深いということだ…」

「お前が弱っている原因は、それだけとは限らないだろう。心的要因もあるのは確かだろうが、私は他にも要因があると見ている」

「ふむ?」

「…まあ、心的要因だけでも早く取り除かれるよう、祈っているよ」

「そうか。ありがとう」

「オレとしては、他の要因もさっさと片付いてほしいけどな…」

「まあまあ、そう言うな。鱗のある生活も、なかなか悪くないだろう?」

「どの面下げて言ってるんだよ…」

「むぅ…。すまない…。調子に乗りすぎたか…」

「はぁ…」


まったく、何なんだ。

誰かが事件を呼び寄せているのか?

いや、私が呼び寄せているのか…?

まったく、安寧とした日々はいつ訪れるんだ…。


「…では、私はこれで」

「どこに行くんだよ、カイト」

「少しな」

「まあ、なんでもいいけど」

「うむ」


短く返事をすると、そのまま翼を広げて飛んでいってしまった。

…なんでもいいとは言ったけど、少し気になる。

何かの調査だろうか。

リューナが弱っているのは、エスカのこと以外にもあるとか言ってたし…。

まあ、そのうち教えてくれるだろ。

あいつはいつも、意味深なことばかり言い残していくな…。


「ふぅ、いいお湯だった」

「えぇ?いつもと一緒だろ?」

「そりゃ、いつもと一緒だろうけど…」

「冗談冗談。いい湯だったな」

「はぁ…」

「ツカサ、翡翠」

「あれ、姉さん?」

「ん?ホントだ、紅葉だ。今日は早いね」

「いや、早いわけじゃないんだけどな…。今日は先に風呂を済ませて、ここで食べてるから」

「あぁ、噂の鱗?」

「いや、蛇の方じゃないのか?」

「蛇?」

「あぁ、ツカサには見えないんだ。まあ、かなり強い力を持った霊みたいだね」

「若造。私は霊ではない」

「わっ、またなんか聞こえた…」

「じゃあ、何?」

「伝承の神らしいな、こいつは。リュナムクという名前の」

「えっ、リュナムク?テスカトルに並ぶっていう邪神の?」

「ツカサ。テスカトルに並ぶってのはちょっと違うと思うよ。テスカトルは破壊と創造の神だけど、リュナムクは純粋に破壊と災厄の神だから。まあ、邪神度で言うと、リュナムクの方が上じゃないかな」

「邪神度…?」

「本人を前に、好き勝手言い放題だな…」

「オレに取り憑いてないと霧散してしまうようなやつが、贅沢を言うな」

「えっ。霧散って、どうしたんですか?」

「なぜに、急に敬語なんだ…」

「だって、伝説の邪神リュナムクなんですよね?僕、リュナムクの伝承がすごく好きで」

「えぇ…。翡翠、邪神の話が好きなのか…?」

「邪神の話じゃない。リュナムクの伝承が好きなんだ」

「いや、リュナムクは邪神で、そのリュナムクの話が好きなんだろ?」

「そう。リュナムクの伝承が好きなんだ。そんじょそこらの邪神の話とは違う。この違いが分からないかなぁ」

「分からなくもないけど…。でも、リュナムクは邪神なんだろ?」

「邪神は邪神だよ。だけど、雑多にある邪神の話っていうのは、だいたいは頭の足りない妖怪なんかがバカみたいに暴れてるだけなのに、人間に実害を及ぼしたり、弱いから人間でも簡単に退治出来たりしたから語り伝えられているっていうだけの間抜けな話なんだけど、リュナムクの伝承とテスカトルの伝承だけは違うんだ。二人はちゃんとした神さまで、やることもきちんとした計算に基づいたものなんだよ。やってることは害あることばかりだから、真意が分かってない人間には良いようには伝えられてないけど。でも、僕は憧れるな。リュナムクやテスカトルみたいに、降龍川だって知的に治めたいんだよ」

「ふぅん…」

「そこまで言われると、さすがに照れるな…」

「お前、本人を目の前にして、他意もなく、よくそこまで褒め称えられるな…」

「えっ、なんで?」

「なんでと言われても困るけど…」

「……?」


まあ、リューナも満更でもないみたいだし、それはそれでいいのかもしれない。

しかし、翡翠がそこまで伝承を深く読んでいたとはな。

人間の一方的な語りだけで、特に邪神のことなんて、正確に捉えるのは至難の業だろうに…。

いや、本当のところは本人に聞かないと分からないけども。

でも、良いように考えられるというのは、翡翠自身の才能なのかもしれない。


「とにかくだ。邪神と呼ばれた時代も、もう遥かに遠い昔のことだ。褒めそやすのはよしにしてくれないか…」

「分かりました。でも、リュナムクさんのことは、本当に尊敬してるんです!」

「分かった分かった…。まあ、ありがとう…」

「さてと、もう話は終わった?」

「わっ、遙さん…。いつの間に…」

「リュナムクさん、また今度、お話を聞かせてください!」

「うむ…。それはいいのだが…」

「ありゃ、私のことは無視なの?」

「翡翠のことは、今は放っておけ。それで、どうだったんだ」

「む、そうだ。エスカはいたのか?」

「そう慌てない慌てない」

「エスカって誰?」

「こいつの連れだ」

「邪神リュナムクが、生涯で唯一心を許した永遠の従者エスカ!」

「お前はしばらく黙っててくれ…」

「えー。なんで」

「話が進まないからだ」

「えぇ…」

「お前は知らないけど、リューナにとっては大切な話なんだ。邪魔をするな」

「はぁい…」

「…それで、どうだったんだ?」

「まあ、結論から言えば、エスカと思われる子はいたわ」

「本当か!」

「リューナってのも喜んでるかもしれないけど、でも、話はそう簡単じゃないの」

「どうしたんだ?」

「いたのは下町の診療所だったんだけど、酷く火傷を負っていてねぇ。そこの薬師は、原因は不明だって言ってたけど、こっちに引き取って利家に見せたら、日焼けだって言うのよ」

「あぁ、私のせいだ…。太陽の光は、エスカには毒なのだ…。いつもは、私が太陽の毒素を跳ね返す結界を張っているのだが…」

「まあ、無事は無事なんだな」

「いちおう、辛うじてだけど生きてるってかんじかな」

「どこだ、エスカはどこにいるんだ」

「医務室だろうな」

「えっ?エスカ?そうだね、医務室だね」

「紅葉、早く行くぞ!」

「はいはい…」

「エスカって人、大丈夫なのかな…」

「まあ大丈夫じゃない?あれだけの火傷を負って、まだ生きてるんだからさ」

「そんなものなのかな…」

「そんなものよ」

「僕も!僕も行くよ!」

「ダメだ。翡翠は布団を敷かないとだろ。終わるまでは行かせないよ」

「そんなぁ…」

「早くしろ、紅葉!」

「分かった分かった…。そう急かすな…」


羽織を着て、遙と一緒に部屋を出る。

速く歩けだとか、走れだとか、五月蝿い注文が聞こえてくるけど。


「そんなに早く行きたいなら、オレから離れて、自分だけで行けばいいじゃないか」

「やれるなら、とっくにそうしている!エスカの危機なのだぞ?分からないのか!」

「分かってないのはお前だろ。ここで焦って何になる?今にも消えそうなお前が、エスカのために何が出来るんだ。心配なのは分かる。でも、そういうときこそ落ち着いて行動するべきじゃないのか?」

「う、むぅ…。急いては事をし損じるということか…」

「大丈夫だ。うちには優秀な薬師がいる。ちゃんと治療してくれているさ」

「むぅ…」

「ふふふ。すっかり手懐けちゃったかんじ?」

「手懐けたってな…」

「あはは、冗談だって。でも、全身刺青少女なんてビックリしたよ。しかも、全身火傷少女」

「冗談じゃないぞ、まったく…」

「そうだね。まあ、利家と風華に任せておけば大丈夫だよ」

「ああ」


それにしても、旅団月読ならあっさりと見つけてくれるとは思っていたけど、本当にあっという間だったな。

まさか、今日のうちに見つけるとは。

でも、素直には喜べないみたいで。

太陽の光でも酷い火傷を負うとは、なんとも厄介な体質だな…。

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