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「ふぅん。なんか面白いね」

「そりゃ、見てるだけなら楽しいだろうな」

「僻まない僻まない」

「まったく…。他人事だと思って…」

「それで、お母さんはなんて言ってるの?」

「まだ会えてない」

「そっか。案外、成仏しちゃったのかも」

「はぁ…。それならそれでいいんだけど…」

「あ、あのぉ…。紅葉さんと灯ちゃんのお母さんって、もしかして…」

「あぁ、死んで幽霊になっちゃっててね。お姉ちゃんは霊感が強いから見えるらしい」

「へ、へぇ…」

「なんだ。蛇の幽霊は平気なのに、人間の幽霊はダメなのか?」

「だ、だって、怖いじゃないですかぁ…」

「蛇も人間も変わらないと思うけど…」

「ぼく、人間の幽霊だけはダメなんですよぉ…」

「いや、なんでなのよ…」

「まあまあ。とりあえず、ごはんにしましょう。今日は、洋食にしてみました」

「ふぅん。これは何なんだ?」

「えっと…。ローストビーフ?とかいう牛肉の蒸し焼きに、グレイビー?とかいう肉汁の餡を掛けたもの。それと、パエリアというご飯料理です」

「なんで、パエリアだけ自信ありげなんだ?」

「パエリアはよく作ってるからだよねー。ナナヤが好きだから」

「ナナヤちゃん?あっ、もしかして、進太さんとナナヤちゃんって恋仲なんじゃ…」

「そうだよ」

「ちょっ、灯…」

「いいじゃない。周知の事実なんだから」

「そういう問題じゃ…」

「まあ、なんでもいいから、とりあえず食べよう。腹が減った」

「あ、隊長、大丈夫なんですか?」

「何がだよ」

「鱗で箸や匙を持ちにくくなったりは…」

「いや、手の平は無事みたいだな。どこかれ構わず広がってるわけでもないようだ」

「そうなんですか。よかったです。しかし、あの…もう顔にまで広がっているんですね…」

「はぁ…。そうだな…」


顔の頬のあたりを触ってみる。

鱗は手の平と足の裏、腹の周り、尻尾、そして顔の頬以外の部分を除いてほぼ全身を覆い、それ以上は広がることはなかった。

まあ、これからどうなるかはまだ分からないけど。

…とりあえず、加奈子から考えても、鱗の面積では蛇より蛇らしくなってしまったわけだ。

模様は独特な虎柄のようなかんじだけど、こんな鱗を持つ蛇は、夢の蛇以外には知らない。

やはり、あいつが鍵を握っているらしいな。

まったく、カイトと銀太郎の旧友はなんとも厄介なやつのようだ。


「んー、美味しいね。また腕を上げたんじゃない?やっぱり、愛の力は偉大ですな」

「灯、お前なぁ…」

「まあ、料理が美味くなるのは、オレとしても嬉しいところだ。理由はなんであれ」

「た、隊長まで…」

「オレは純粋に、お前の腕の上達を喜んでいるだけだ」

「うっ…むぅ…。意地悪ですね、隊長は…」

「何がだよ」

「でも、本当に美味しいですね。えっと、パエリア…でしたっけ」

「はい、そうです。なんでも、エスパーニャとかいう国の料理だとか。こっちのローストビーフは、ユーケー?とかいう国の料理だそうです」

「ユーケー?変な名前ですね…」

「エスパーニャから、割と近い国らしいですよ」

「へぇ、そうなんですか。まあ、エスパーニャの時点で、充分変ですけど…」

「向こうの住民からしたら、日ノ本の方が変な名前かもしれないぞ?」

「そ、それはそうですけど…」

「まあ、自分の価値観に合わないものは、おかしく見えるものだ」

「でも、不思議ですよね。パエリアなんて、ほとんどこちらでも捕れる魚介類や材料を使っているのに、こういう風に料理するなんて、思い付きもしませんでした。不思議です」

「文化の違いってやつだね、たぶん」

「まあ、そうなんだけどな。パエリアも特別な鍋を使うみたいで、結構頑張って特注したんです。普段使うような鍋とは違って、底の浅い平たい鍋なんですけど。やっぱり、道具が違うと出来上がりも違いますね」

「へぇ、そうなんですかぁ」

「はい。もう、それは本当に」


なんだか嬉しそうだな。

こいつも、灯と同じく本当に料理が好きなんだなということが見てとれるようで。

…しかし、特注と言っていたけど、いくらしたんだろうか。

領収書を取って報告すれば、それくらい下りるだろうに。

自分の道具は自分で揃えたいということなのかもしれないけど。

何にせよ、やたら領収書を取りまくってきて、いろいろと意味不明なものまで請求しようとする灯にも見習ってほしいものだな。

まあ、調理班長にいちいち跳ね返されてるみたいだけど。

まったく、懲りないやつだ。

と、厨房に誰かが入ってきて。


「あ、姉ちゃん」

「風華」

「風華さん、お昼ですか?」

「はい。えっと、この子の分もお願いします」

「伊織ちゃんですね。分かりました」


風華の後ろからひょっこり現れたのは、半龍半人の姿の伊織だった。

パタパタと走ってくると、ちょうど空いてた私の横の席に座って。


「そういえば、もう水晶は出てきたのか?」

「うん。今は、首のところの巾着に入れてあるよ」

「そうか」

「あの、この子、伊織ちゃんってことは、もしかして…」

「伊織って、あの伊織?」

「あ、フィルィも灯も初めてだっけ?そうだよ、その伊織。変化の術式を使って人間になってるんだ。まだ不完全だけどね」

「ふぃるぃと、あかり」

「ん?短い間に結構上手くなったな」

「いろはねーちゃん」

「上達が早くてね。まあ、言葉は覚えてるから、発音の問題だけだったし」

「そうか」

「うっ…。本当に、ぼくの下着を持っていった、あの伊織ちゃんなんですね…」

「ふぃるぃのしたぎ」

「あぁ、噂には聞いてたけど、本当だったんだね。なんでも、大人の下着を咥えた伊織が、広場を走り回っていたとか…」

「うぅ…。勘弁してください…」

「ごはん、ごはん」

「はいはい、ちょっと待っててくださいね」

「…それで、蓮はどうしたんだ?」

「蓮は広場で子供たちと遊んでるよ。もとの姿だけど。そっちの方がいいんだって。人間になる練習はまたそのうちにやるって」

「ふぅん…」

「れんはだめだ。ぜんぜん、いおりのゆーこときかない!」

「蓮が一緒に練習してくれないからって、拗ねてるんだよ」

「はい、伊織ちゃん。ごはんですよ。今日はパエリアです」

「パーリヤ?」

「パエリア、です」

「よくわかんない」

「まあ、ゆっくり覚えていきましょうね」

「うん」

「そういえば、お前は伊織のことを知ってるんだな」

「はい。ちょうど、風華さんと伊織ちゃんが発音練習をしてるところを見てしまいまして」

「喋れないうちは、あんまり誰にも会わせたくなかったけど、まあいいやって思って。隠すのも面倒くさいし。まあ、進太さん以外には知られてないんだけどね。フィルィが来たときは、伊織もお昼寝中だったし」

「そうか」

「あの布団、伊織ちゃんが寝てたんだ…。全然気が付かなかったよ…」

「後ろ向いてたしね」

「ふうか、ごはん!」

「あぁ、はいはい。じゃあ、いただきます」

「いただきます!」


早速、不器用に匙を使ってパエリアを食べ始める。

でも、龍の手ではなかなか難しいみたいで。

…そんな悪戦苦闘している伊織も、フィルィと灯にとっては可愛い子供という風にしか見えないようで、蕩けきった顔をしていた。

まあ、なんでもいいけど。

私はさっさと食べてしまうことにする。

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