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「蛇の夢って…それって、金運急上昇の予兆じゃない?」

「いや…。蛇が死にゆく夢だし…」

「いいなぁ。私もお金が欲しい」

「だからな…。はぁ…。もういい…」

「ふふふ。冗談だよ、冗談。でも、蛇の夢を見たからって、こんなことになるとも思えないけど…。呪いか何かの類じゃないの?」

「いや、そんな呪いは聞いたことないな」

「ミケ…」

「ミケ?あ、三毛猫」


入口にぬらりと立っていたのはミケだった。

風華がおいでおいでをしているけど、見向きもせずに日当たりのいい場所まで歩いていって、どっかりと座り込む。


「ありゃ…。自尊心の高い猫だね…」

「ミケだ。猫又の」

「猫又…ってことは、妖怪?へぇ、そうなんだ…」

「あまり近付くなよ。呪いを掛けられるからな」

「えっ、呪い?」

「そう見境なく掛けるほど愚かではない」

「わっ、喋った」

「小生のような高等妖怪になれば、誰に言葉を発し、誰に発しないかを決めるのも容易だ」

「ふぅん。どうでもいいけど。…それに、小生とか言いながら、喋り方は不遜だね」

「………」

「それで、姉ちゃんのこれは、蛇の呪いじゃないの?」

「…呪いというのは、もっとえげつないものだ。手足だけでなく、全身が蛇そのものになってしまうとかだな」

「えぇ…。それは怖すぎるよ…」

「鱗が出るにしても、皮膚が変成するときに痒みを伴い、掻くと鱗がボロボロと落ち、終いには筋肉や骨が見えるくらいまで掻きむしり、全身から出血して死ぬとかな」

「呪術って、そんな強烈なのしかないの…?」

「もちろん、これは呪術の中でも最上位に君臨するようなものだ。小生も、何の代償もなしには使うことは出来ない」

「代償?」

「たとえば、この美しい毛が全て抜け落ちてしまうとか、この愛らしい尻尾が腐り落ちてしまうとか。まさに死活問題だな」

「その程度なんだ…」

「その程度とはなんだ、その程度とは。お前には、この美貌が如何な努力によって保たれているのか、分からないのか?」

「美貌…。まあ、普通の猫よりはよく手入れされてるよね…」

「その辺のガサツな輩とは比べものにもならない。やつらの数百…いや、数千倍は手入れに気を使っているのだ」

「はいはい…。でもまあ、幸せなことだよね、それって」

「うむ。小生の世話を焼いてくれる者には、ちゃんと感謝している。その上で、だ。小汚い家猫…まして、野良猫などと並べられるだけでも鳥肌が立つ思いだ」

「はいはい、そうですか…」

「まったく…。本当に分かっているのだろうか…」

「それで、この鱗は何なんだ」

「む、そうだったな。小生の見解では、それは強い思念や想いの結晶…あるいは、背後霊や守護霊とでも言った方が分かりよいか?」

「守護霊…?」

「蛇の守護霊?」

「そうだな。まあ、守護霊といっても、憑いている者に直接実害を及ぼすことは少ない。しかし、ある程度条件を満たしてしまうと、今の紅葉のような風になると聞いたことがある」

「条件って?」

「守護霊となった者の想いが強く、憑かれた者が強い霊感を持っていると、そういう風になってしまうということらしい。たとえば、猫の守護霊ならば猫目になったり、犬の守護霊ならば鼻がよくなったり」

「ふぅん…。でも、鼻がよくなっても、姉ちゃんは分からないかもね」

「さらによくなるかもしれないぞ?一里離れた場所にいる者の匂いを嗅ぎ分けるとかな」

「やめてくれ…」

「ふふふ。と、まあ、小生に分かるのはこのあたりまでだ」

「そうか」

「まあ、霊的な何かなら、私の出番はないかな。それでさ、なんでミケはここに来たの?」

「む?まあ、面白そうな匂いがした、とでも言っておこうか」

「面白そう…?」

「あーっ!猫だ!」

「ん?のわっ!」


何か小さな影が横をすり抜けていったかと思うと、次の瞬間には、ミケに向かって頭から豪快に滑り込む誰かが。

…まあ、りるなんだけど。

ミケは逃げる間もなく、ガッチリ捕まっていた。


「猫だ~」

「む、こら!離さないか!」

「なんかニャーニャー言ってる」

「この小娘…」

「お前、りるに爪を立てるなよ」

「む…。そ、そこまで大人気なくはない…。この玉肌を傷付けるほど…」

「ヒゲぴーん」

「や、やめないか!抜ける!」

「りる。ヒゲが抜けるから離してやれ」

「んー」

「まったく…。末恐ろしい娘だ…」

「ニャンニャン」

「美しい毛並みが乱れてしまったではないか…」

「あっ!おかーさんの手、加奈子みたい!」

「ん?そうだな」

「格好いいー」

「格好いいか…?」

「うん!」

「ふん。こいつの感性を疑うばかりだな。そんな鱗のどこが格好いいのだか」

「ねぇ!りるもそれしたい!」

「いや、やろうと思ってやってるわけじゃないからな…」

「んー!」

「りる。これはね、病気みたいなものなの。たぶん伝染ったりはしないけど、格好いいものでもないんだからね」

「お母さん、病気なの?」

「病気じゃないけど…。病気みたいなもの」

「……?」

「まあ、伝染りはしないだろう。紅葉からりるに乗り換えるというなら別だろうが」

「乗り換えって…」

「ねぇ、触ってもいい?」

「いいのかな?」

「伝染病ではないのだから、触ったところでどうにもならないだろう」

「いいってさ」

「えへへ」


りるはこちらまで駆けてくると、私の横にチョコンと座って。

それから、ゆっくりと鱗を撫で始める。

…鱗越しにでも、意外とりるの手のかんじとか温かさを感じられるものなんだな。


「んー」

「楽しいか?」

「うん!」

「そうか。それならよかった」

「蛇さんが、お母さんの腕に巻き付いてる」

「ん?」

「蛇さん、蛇さん」

「りる、蛇が見えるの?」

「蛇?」

「見えるの?」

「おっきい蛇!おっきすぎて、尻尾の先っちょしか巻き付いてない」

「えぇ…。どういうことなんだろ…」

「そのままの意味だろう。その小娘は、強い霊感が備わっているのだな」

「でも、霊感といえば、姉ちゃんも…」

「自分の背後にいる者をどうやって見る。憑かれている者は決して見ることが出来ない。それが背後霊というものだ」

「えぇ…」

「蛇さん、風華はごはんじゃないよ」

「えっ、ご、ごはん…?」

「ふぅん。そうなんだ」

「りる、蛇と喋ってるの…?」

「うん。ごはんじゃないのは分かってるって」

「へ、へぇ…」


風華はビクビクしながら後ろを振り向いたりしてるけど。

まあ、今まで見えていなかったんだから、後ろを見たところで何も見えないだろうな。

ミケの言う通りなら、私も見えないというのが一番厄介かもしれない。

直接、話を付けることが出来ないから。

…りるは、何も気にせず、お喋りに興じてるけど。

しかし、大きな蛇より先に、ミケに飛び掛かるとはどういうことなんだろうか。

というか、ミケには蛇は見えてないのか?

せっかく、テスカの問題が収束に向かってるというのに、早速何か非常に面倒なことになってる気がする…。

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