表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
500/578

500

「なぁんだ。延期なの?」

「当たり前でしょ。どこにも連絡が行ってないのに、大会なんて出来るわけないじゃない」

「そうだけどさぁ」

「…それで、お前たちは、なんでここに集まって井戸端会議なんだ」

「井戸じゃないからね」

「そういう意味ではない」

「まあ、ここは私の家だし」

「伊織と蓮の家だからな」

「いいじゃんいいじゃん。すごく住み心地いいよ」


そう言いながら、ケラケラと笑うロセ。

まったく、こいつは…。

今すぐ、遙をここに連れてきてやろうか…。


「委員会支部の人によれば、また後日連絡するってことなんだけど」

「まあ、中止よりはいいんじゃない?」

「そりゃそうだけど…」

「でも、私としては残念かな」

「えっ?中止の方がよかったの?」

「そういう意味じゃなくてね。ほら、延期になっちゃうと、私は帰らないといけなくなって、灯の活躍を見に行くことが出来なくなるでしょ?帰ったら、仕事もたくさんあるだろうし…」

「自覚はしてたんだな」

「もう…。紅葉は、相変わらず歯に衣着せない物言いだね」

「歯に服なんか着せたら、口の中が気持ち悪いだろ」

「ふふふ、そうだね。まあ、遙も帰ってきたし、ここらでもう帰ろうかなって思ってるんだ。あの子も、いい加減、私を帰すために何か言ってくるだろうし」

「そのつもりだろうな」

「はぁ…。まあ、この家も名残惜しいけど、そろそろ我が子たちの顔も見たいし」

「よく今まで見たいと思わなかったなと感心するよ」

「見たいと思わなかったわけじゃないよ。ただ、懐かしい匂いがするんだ、ここは」

「ふぅん…」

「ここって、そんなに匂うかな。やっぱり、伊織と蓮が臭いから?」

「そういう意味じゃないし、たまに私が水浴みさせてるから、そこまで匂わないと思うよ」

「冗談だよ、冗談…」

「分かってるけどね」

「むぅ…」

「まあ、何か分からないけど、ホッと安心出来るんだ。ここに帰ってくると」

「そうなんだ」

「ふむ。俺も分かる気はするな。ここは、不思議な気で満ちている」

「なんか、草平が言うと、なんとなく胡散臭いよね」

「お前は俺を何だと思ってるんだ…」

「大きな龍。それ以外に思い当たらないわ」

「でも、格好いいよね、大きいのって」

「灯はまだまだ子供だなぁ」

「な、なんで子供なのよ。大きいのって、なんか希望に満ち溢れてるみたいじゃない」

「いや、俺はそんな大層なものでは…」

「大きくたって、夢も希望も詰まってなんかないよ」

「いや、そこまで言われると、さすがに少しヘコむな…」

「情緒不安定?」

「不安定にさせてるのはお前たちだろ…」

「そうなの?」

「はぁ…」


草平は大きなため息をついて、諦めたように首を振る。

それを見て、ロセはまたケラケラと笑って。

…子供はどっちだよ、まったく。


「…あ、そうそう。遙がね、姉ちゃんに天昇川の情報が欲しいなら言ってくれって。なんで天昇川なのかは分からないけど」

「壁に耳あり障子に目ありってところか?というか、あいつは気持ち悪いくらいに他人の情報を盗み取ってくるよな…」

「情報屋だしね。まあ、天昇川といえば、最近、保全委員会が設立されたって噂を聞いたことあるけど。水源は聖域のはずなのに、遊歩道が勝手に付けられて荒らされてるからって」

「ふぅん。それは聞いたことなかったな。荒らされてるのは聞いたけど」

「地主とか周辺の村に掛け合って、水源と上流域に立入禁止区域を指定して、保全活動を活発にしているみたいよ。たしか、天照の団員が、周りに呼び掛けて…っていうのが始まりだったんじゃないかしら」

「そうか」

「………」


その団員というのは、もしかしたら松風じゃないだろうか。

あいつが言っていた、天照にいないといけない理由…なのかは分からないけど。


「でも、なんで天昇川の話なんて聞きたいの?ここからは結構離れてるし…」

「自分の国のことを、もっと詳しく知ろうと思ってな」

「えぇ…。それだったら、蔵書庫の歴史書とか地理書を読んだ方がいいんじゃないの?」

「まあ、そうかもしれないな」

「何それ…。別になんでもいいけどさ…」

「そうそう、天昇川といえばね、天昇川の主が人間に愛想を尽かしてどこかに行ったから、あんなにも荒れたんじゃないかって話もあるらしいのよ」

「主?そんなのがいるの?」

「いるんじゃない?私はよく知らないけどさ」

「あ、でも、翡翠だって降龍川の主みたいなものだし…」

「天昇川の主だったら、相当な力を持ってるんでしょうね。あれだけ大きな川なんだし」

「川の大きさと関係あるの?」

「さあ、知らないけど」

「えぇ…」

「でも、五大属性で言えば水は黒。川はだいたい蛇か龍が管理してるって話だから、もしかしたら、草平が天昇川の主だったりして」「………」

「そんなはずないよ。私はまだあんまり知らないけど…でも、草平は、大切なことを投げ出すような人じゃないってことは分かるもん」

「人には、誰にも言えない過去ってものがあるのよ」

「そんなの、ロセの勝手な想像じゃない」

「それを言うなら、灯のだって、ただの妄想なんじゃないのかしら」

「そんなことないもん!」

「はいはい、大声ださないの。まったく、気に入られたものね、あなたも」

「…そうだな」

「まあ、詳しくは聞かないことにするわ。灯も五月蝿いし」

「五月蝿くないもん!」

「分かった分かった」

「むぅ…」


ロセは灯を適当にいなして。

灯は、不満たらたらのようだったけど。

…草平が天昇川なのは間違いないというのは、さっきまででも分かってたけど。

でも、ロセの話を聞いていた様子や、そのあとの反応を見て確信出来た。

次は、どうしてそうなったのかを探る段だな。

お節介かもしれないけど…。

また遙に話を聞いておくことにしようか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ