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「ん…」

「あ、起きた」

「おはよう」

「ぅむ…」


まだ寝ぼけているのか、半分だけ目を開けてこちらを見ている


「不審者じゃないれす…」

「分かってるから」

「ごはんくらはい…」

「じゃあ、厨房に行きましょうか」


灯は、私に美希を運ぶように促す。

…分かってるよ。

未だに横になっている美希をちゃんと座らせ、背負い上げる。


「さあ、出発進行!」


灯の明るさとは対照的に、美希は力尽きてまた眠っていた。


「お姉ちゃん、早く来てね」

「ああ」


そして、灯は先に厨房へ行ってしまった。

まあ、その方が効率的だけど。

…そういえば、何か忘れてる気がするな。

なんだっけ…?

まあ、まずは美希だ。

厨房へ急ぐ。


「あぁ、紅葉。良いところに…」

「オレは良くない」

「そ、そうか…。どこに行くんだ?」

「厨房」

「後ろのは?」

「美希」

「………」

「じゃあな」

「あ、僕も行くよ」

「そうか」


利家も同伴することに。

美希は相変わらず眠っていて。


「でも、寝てるのになんで厨房なんだ?」

「さっき一瞬起きて、ごはんが食べたいって言ったから」

「ふぅん…。知り合いなのか?様子からすると、浪人みたいだけど…」

「ああ。元は望と響の同伴者だったらしい」

「へぇ…」

「昨日、この辺をうろついてたところを捕まえたんだと。まったく…あいつらも、妙なときだけ動きが良いんだから…」

「なんで昨日のうちに解放してやらなかったんだ?今こうしてるということは、昨日はそのまま拘留してたんだろ?」

「ああ。捕まえた連中が、忙しくて報告出来なかったって」

「ふぅん…。そうなると、報告の仕方を変えた方が良いのかもな…」

「そうだな」


直接報告より、日誌形式とかにした方が良いんだろうか…。

でも、今回みたいに、忙しくて日誌を書く暇がなかったら結局同じことだ。


「まあ、それはあとで考えよう。事を急するのは、美希の方だ」

「ああ。分かってる」


最後の角を曲がり、厨房に到着。

中へ入り、まだ目の覚めない美希を椅子に座らせ、頬を軽く叩く。


「美希。起きろ。ごはんだぞ」

「調子が悪いときは、お粥に限りますね」

「………」


薄目を開け、大きく息を吸い込み、また目を瞑る。


「おい、美希?」

「身体が動かない…」


そう言って、机に突っ伏す。


「はぁ…。仕方ないな…」


身体を支えてやり、用意された匙を取る。

お粥を掬って美希の口へと運んでいく。

相変わらず目は閉じたまま、少しずつモクモクと食べていく。


「あ、こら!匙を噛むな!」

「んー…」


引き抜いたときには、もう遅かった。

匙には美希の牙のあとがはっきりと残っていて。


「はい、こっちをどうぞ」

「あるなら最初から出せよ…」

「お姉ちゃんなら、金匙でもボロボロにするからね」

「今食べてるのは美希だろ…」


ヒヤリと冷たい金匙を受け取り、再び美希にお粥を食べさせる。

…灯だって、昔はよく匙を噛んで怒られてたじゃないか。

今はもう噛み癖は抜けたみたいだけど…。


「はぁ~…。生き返った~…」

「ふふ、さっきも言ってましたね」


お粥を全て食べ終わり、なんとか自分で身体を支えられるようにもなったみたいだ。


「そういえば、あれは何なんだ…?」


美希が指し示す方。

見なくても分かるんだけど、いちおう見てみる。

そこにはやっぱりセトがいて。


「はしたないぞ、セト。良い匂いがするからといって、覗くんじゃない」

「ゥルル…」

「ん?」


窓から何かを押し込もうとしているが、大きすぎて上手くいかないようだ。


「…まさか、それが"美味しいもの"か?」

「ウゥ…」

「はぁ…。あとで取りにいくから、そこに置いておけ…」

「………」


そして、それを下に置くと、どこかへ飛んでいってしまった。

…そういえば、風華を探さないといけないんだったな。

どこにいるんだろう…。


「今の、何かな…」

「たぶん、熊だろうな」

「………」


灯は絶句、利家は呆れ顔、美希は理解出来てないかんじだった。

熊は、狼だった頃にも食べたことはなかったけど、美味いとは聞いていたので楽しみだ。

…それにしても、龍は肉食なんだろうか。

それとも、たまたま熊を捕ってきただけ?


「そうだ。望と響はどこにいるんだ?」

「さあな。広場にでもいるんじゃないか?」

「そうか」

「あ、今日は夕飯、食べていきますよね?」

「そうだな。今日こそ食べないと」

「分かりました。美希さんのために、美味しい料理、作りますね」

「うん。ありがとう」


礼を言う美希に、利家が忠告する。


「美希。旅の生活もいいけど、ちゃんと食べろよ」

「分かってるけど…」

「食に困るなら、ここに住んだらどうなんだ。衣も住も揃ってるし」

「それも良いけどな…」

「問題があるのか?」

「やっぱり迷惑は掛けられないよ」

「迷惑だなんて!大歓迎ですよ!」

「そうだな。今でも、こんな大所帯だ。一人や二人増えたって変わらない。でも、ここにいるかどうか、決めるのは美希自身だ。好きなようにすればいい」

「僕としては、浪人の行き倒れ事件の処理をしなくて済む方が良いけどな」

「…うん。ありがとう。でも、もう少し考えさせてくれないか?ここが、本当に私の居場所なのかどうか…」

「さっきも言ったけど、誰が決めるのでもない。自分の生き方は、自分で決めるんだ」

「…うん」


そして、美希は静かに厨房を出ていった。

ここに腰を据えるのか、放浪の旅に戻るのか。

ふたつの相反する生き方を背負いながら。

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