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「あ、紅葉さん」

「フィルィ。どうだ、裁縫は」

「なかなか奥が深いですねぇ。澪ちゃんも頑張ってましたし」

「あぁ、そういえば、なんかやってたんだったな」

「はい。加奈子ちゃんに負けないようにと」

「そうだな」

「それにしても、師匠はどこにいるんでしょうか…。もうお昼の時間なのに…。このままでは、残りの半日もあっと言う間に過ぎ去ってしまいます…」

「まあ、大丈夫だろ。やると言ったらやるやつだ、あいつは」

「…そうですね。たぶん、頃合いを見計らってるんですよね。セルタさんも、どっかに行っちゃっていないですし。草平さんは、まだ寝てますし」

「まだ寝てるって、ずっと寝てるのか?ごはんとかは?」

「たまに起きたときに、お粥とかを貰ってるみたいです。あまり動けないみたいで」

「ふぅん…」

「でも、あまり動けないのに、どうやってここに辿り着いたんでしょうか?」

「さあな。休み休み来たとか、誰かに連れてきてもらったとか」

「んー…。また草平さんに聞いておきます」

「そうだな」

「さあ、出来たよ。召し上がれー」

「待ってました!」


灯は手際よく配膳していく。

まあ、私とフィルィ、灯と美希の四人分だけなんだけど。

パッと適当に置いているようで、ちゃんと並んでいるあたり、さすがといったところか。


「…そういえば、お前、最近当番してないよな」

「特赦だよ、特赦。料理大会の」

「灯が当番の日は、手伝いにだけ入ってもらって、私が代わりにやっているんだ」

「そうか。まあ、勉強熱心なのはいいが、あんまり灯を甘やかすなよ」

「甘やかしてなんかないよ。ね、美希」

「どうだろうな。でも、灯は怠けたくて、私は料理の練習をしたい。ということで、お互いに目標を達成出来る」

「まあ、オレたちとしても、朝に朝ごはんを食べられるのは有難いけどな」

「みんな、仕込みのために夜遅くまで起きてるんだよ。だから、朝起きられないんだ」

「そんな仕込みなら要らないだろ。だいたい、美希は仕込みもして、朝もちゃんと起きられてるじゃないか」

「美希は変人だから。それに、夜遅くまでは仕込んでないし」

「寝る間際になって慌てるお前たちと一緒にするな。私は夜遅くまでやらないんじゃなくて、夕飯の支度と同時に始めているだけだ」

「寝る間際に慌ててるわけじゃないよ。みんな、夕飯の片付けのあとにやってるだけだよ。美希みたいに片手間でやってるんじゃなくて、ちゃんと夕飯は夕飯、仕込みは仕込みで区別してやってるんだよ」

「まあ、美希は、片手間でさらに子供たち用の料理を作ってるわけだけど」

「ホント、ひとつのことに集中するってことを知らないよね」

「無駄なく動けば、それしきのことは簡単に出来る。お前たちは、無駄に喋ったりして手が動いてないんだろ」

「美希だって、いつも喋ってるじゃない」

「だから、無駄なく動いているだけだ。喋っていても手を休めていない」

「私たちだって、休んでなんかないもん…」

「それは、お前たちの考えだろ」

「…まあ、さっさと食べてしまおう」

「そ、そうですよ。せっかくのお昼が冷めてしまいます」

「………」

「………」

「じゃあ、いただきます」


まったく、姉妹喧嘩なんて他所でやってほしいものだ。

二人ともムスッとした顔で食べてるし。

はぁ…。

まあ、私が余計なことを言ったのがダメだったのかな。

そう思うことにしておこう。



昼ごはんが終わって厨房を出ると、クアが外で待っていた。

まあ、待っていたというか、ずっとここにいたんだろうけど。


「あ、クアです」

「そうだな」

「………」

「今日は、ずっと紅葉さんについていってるんですか?」

「そうだな」

「迷惑掛けちゃダメですよ、クア」

「………」

「でも、なんで紅葉さんについていってるんですかね?」

「さあな。セルタにでも頼まれたんじゃないのか」

「そんなことないと思いますよ。セルタさん、さっき、クアを探しに広間に来てましたし」

「ふぅん…」

「医務室には来てなかったですか?」

「来てないな」

「じゃあ、入れ違いだったのかな…」

「とりあえず、セルタのところに帰ったらどうなんだ。探してたんだったら」

「………」

「なんでだよ」

「………」

「まあ、なんでもいいけどな」

「セルタさんも、そんなに急ぎではなかったみたいですし。今頃、シディやラオと一緒に、日向ぼっこでもしてるんじゃないでしょうか」

「そうか」

「………」

「ただ、セルタさんが言うには、ヨウちゃんは心配してたみたいですけどね。昨日、馬車に酔って不機嫌だったからって」

「馬車に酔ってたのか」

「………」

「馬車に酔った程度で、あんな不機嫌な威圧感を放たれても困るんだけどな…」

「まあ、ぼくたちは、まだ貧乏で馬車を持ってないので。仕事のときに借りるくらいです」

「ふぅん…」

「便利なんですけどね、自分たちの馬車を持ってると。でも、馬車の手入れ代とか修理代、あと、馬のごはん代も必要ですから、一台だけでも、維持費がかなりのものになってしまうんですよ。ホント、早く馬車を買って、旅団として一人前になりたいんですけどね」

「まあ、当面の目標として、しっかり励むことだな」

「そうですね。しっかり頑張ります」

「………」

「まあ、それで、こいつなんだけど…」

「そのうち、また探しに来ると思いますし、大丈夫なんじゃないですか?」

「いや…。なんか監視されてるみたいで嫌なんだけどな…」

「そうなんですか?でも、クアは監視なんてしてないから大丈夫ですよ」

「それはそうだけど…」


でも、こうジッと見つめられては、居心地が悪いというものだ。

気にするなと言われても、なかなか難しい。

なんとかならないものかな…。

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