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もとの姿に戻った大和は、広いはずの医務室も少々圧迫感を感じさせるくらいにして。

風華が治癒の術式とかいうのを当て終わると、大きなため息をついていた。


「情けない…。あの程度の落下で足を痛めるとは…」

「歳なんだろ」

「はっきりと言うな…。まあ、寄る年波には逆らえないということか…」

「そうだな」

「歳もそうだけど、小魚とか、そういう骨のもとになるようなものを食べて、適度な運動をすることも大切だよ。ちゃんと運動してるの?」

「むぅ…。最近は日向ぼっこが心地よくてな…。それに、澪の妖術も見てやらんと…」

「言い訳しないの。そんなだから、骨が弱くなってヒビが入っちゃうんだよ」

「手厳しいな、風華は…」

「とにかく、しっかり魚を骨ごと食べて、しっかり運動して…」

「分かった分かった…」

「ホントに分かってるの?」

「分かっている…」

「怪我人なんだから、もう赦してやれよ」

「怪我人だからだよ。注意しておかないと、また怪我するでしょ」

「それは、まったくその通りだな…」

「お、おい、紅葉…」

「大和。自分のことなんだよ。分かってるの?」

「分かってはいるが…」

「じゃあ、しっかり聞きなさいよ」

「怪我をして、まさかこんなことになるとはな…」

「だから、次はそうならないようにって、注意してるんでしょ」

「それはそうだが…」

「私は、大和のためを思って言ってるのに…」

「まあ、治るまで時間はたっぷりあるんだ。耳に痛い話だし、ゆっくり言い聞かせてやれ」

「もう…。甘いんだから…」


風華は不満そうに大和の方を睨んで。

それから、立ち上がって薬棚の方へ行ってしまった。

…まあ、なんとか危機は脱したというところか。

先延ばしにしただけとも言えなくもないけど…。


「はぁ…。しかし、本当に情けないな…。こうやって動くことも出来ないなんて…」

「だいたい、なんで天守閣の上になんて登るんだよ」

「朝日を望むのが日課になっていてな…。いつも、白み始める前から見ているのだが…」

「ふぅん…。でも、レオナだって、かなり早いだろ」

「レオナが来る日にも、いちおう天守閣には登っておくんだ…。冷たい風に当たって、目を覚ますという意味合いもあるし…。朝日は、広間の屋根縁から見るんだが…」

「そうか」

「しかし、天守閣に登るのは、もうやめた方がいいのだろうな…」

「ここに来る前はどうしてたんだ?」

「ん?あぁ…。住んでいた山の頂上まで登ってな。住んでいた山と言っても、ここからそんなに離れていないが」

「…帰りたいとは思わないのか?」

「近いと言っただろう。まあ、周辺の管理も任されているが、散歩のついでに見て回るくらいでいい。今は、ここが好きだからな。お前もいることだし」

「そうか」


大和は外の方に目を向けて、少し感傷に浸るような、そんな顔をする。

それから、しばらく経って、ふと気付いたように下へと視線を移動させて。


「…ところで、この狼は何なのだ。ずっと私を見ているようだが」

「気に入ったんじゃないか?」

「………」

「まあ、セルタの狼だよ。クアっていう名前らしいけど」

「そうか。そういえば、昨日、不機嫌そうな気を発していたのはお前だったかな?」

「………」

「やはりそうだったか。どうだ、長旅の疲れは癒えたか?」

「…ワゥ」

「そう畏まらずともよい。まあ、そういう若い時期というのは一瞬だからな。今のうちに、しっかり謳歌しておくのだぞ」

「………」

「ふん。まったく、心に沁み入る言葉だな」

「…五月蝿い」


大和は不機嫌そうにそっぽを向いて。

そして、邪魔だと言わんばかりに尻尾を振る。

…今は、ああいうかんじの皮肉が一番堪えるんだろうな。

あとで、もっと言ってやろう。


「お前たちは寺子屋にでも行ってこい…。面会時間はもう終わりだ…」

「あ、終わった?じゃあ、さっきの続きを…」

「いや、まだ終わってない。紅葉、クア。まあ、こんな状態で茶のひとつも出せないが、ゆっくりしていってくれ」

「私の話を聞きたくないだけでしょ…」

「決して、そんなことはないぞ」

「まあいいけど…。姉ちゃんは、寺子屋には行かないの?」

「ん?まあ、今日はいいかと思ってな。大和もこんなだし」

「それはそうかも。心配だしね」

「うっ…。すまないな、不甲斐ない妖怪で…」

「普段から気を付けておけば、こんなことにはならないんだよ」

「そうだな…。これからは気を付けるよ…」

「………」

「そういえば、うちにもいたよね。なんか狼」

「明日香だろ。伊織と蓮の家に住み着いてるらしいけど」

「そうだったんだ。最近見ないと思ったら」

「まあ、放し飼いも同然だしな…」

「ごはんとか、どうしてるのかな」

「調理班が用意してるんじゃないか?伊織と蓮のも、あいつらが用意してるんだし」

「あー、まあ、そっか」

「お前たち、かなり適当だな…」

「そうなんだけどさ…」

「全員を一度に見ることなんて出来ないということは分かるが…」

「じゃあ、みんながみんなを少しずつ見てたらいいんじゃないのかな。私の見てないところは、他の誰かが見てくれてる。他の誰かが見てないところは、私が見てる。それで全部を見られるんだったら、いいんじゃないかなって」

「まあ、そうかもしれんな」

「………」


この城は大きい。

そこにいる人の数も多い。

でも、それだけ見られる範囲も広いということなんだろう。

だからと言って、他の誰かに頼りっぱなしというのも問題だろうけど。


「私は、誰を見ているのだろうな」

「澪と姉ちゃんじゃない?」

「二人だけということはないと思うが…」

「いいじゃない。姉ちゃんを見ることが出来る、数少ない人だと思うよ」

「…どういう意味だよ、それは」

「えぇー。別にー」


まったく、本当にどういう意味なんだよ…。

私は、そんなに見辛いのか?

そんなことはないと思うけど…。

ないよな…?

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