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「えへへ。今日ですよ、今日!」

「何がだよ」

「何って、もちろん師匠が旅団に復帰する日です!」

「いや…。今日決めるとは言ってたが、復帰するとは言ってないからな…」

「テスカ師匠なら、絶対に帰ってきますよ!」

「自信満々だな…」

「だって、私の師匠ですから!」

「まあ、根拠は薄いようだな…」

「薄くないですよ。ね、クア?」

「………」

「無視されてるぞ」

「えぇー。そんなことないよね?」

「………」

「ところで、他のやつらはどこに行ったんだ」

「ぼくは無視ですか!」

「五月蝿い」

「うぅ…。酷いです…」

「………」

「まあ、分からないならいいけど」

「………」

「クアはすっごく無口です…」

「そうだな」


私の前に座り込んで、洗濯している様子をジッと見ている。

何がしたいのかは知らないけど、なんだかやりにくいな…。


「そういえば、今日は寺子屋の日ですね」

「そうだな」

「紅葉さんは、何かの授業に出たりはしないんですか?」

「ん?まあ、民族学くらいなら出てもいいかな…」

「そうですか。ぼくは、お裁縫が出来たらいいかなと」

「そういえば、反物を集めてるんだったな」

「はい。でも、それはまだ使わないです」

「そうか」

「………」

「………」

「…なんで使わないか聞いてくれないんですか?」

「聞いてほしいのか?オレは気にならないけど」

「うっ…。でも、あんなに勿体振った言い方をしたのに…」

「はぁ…。じゃあ、なんで使わないんだよ…」

「それはですねぇ、ぼくの子供に着せる服を作るためにですよ」

「そうか。よかったな」

「なんでそんなに突っ慳貪なんですかぁ…」

「いや、さっきも言ったけど、別に聞きたくなかったことだし…」

「うぅ…。どうせ、ぼくのことなんて…」

「いじけるな、面倒くさい…」

「あ、そうです。クアって、すごい特技があるんですよ!」

「なんだ、唐突に…」

「………」

「余計なことは言わなくてもいいらしいぞ」

「さっき、ぼくを無視したバツですよ。あと、ちょっと八つ当たりです!」

「………」

「実は、ぼくが密かに教えていたのですが…クアは、立って歩くことが出来るんですよ!」

「本当に余計なことだな…」

「えぇー。でも、可愛いですよ?」

「いや、可愛いとかいう問題じゃないと思うけどな…」

「そうですか?可愛さは必要ですよ。ほら、練習の成果を紅葉さんにも見せてあげてよ」

「………」

「照れてるみたいです」

「嫌がってるんだろ…」

「えぇー。そうですか?」

「お前な…」

「………」


クアは相変わらず無口だったけど、呆れてるってことはよく分かった。

まあ、慣れてるみたいだし、ため息ひとつで済むようだけど。


「今度、また練習しようね」

「ゥウ…」

「なんで唸るかなぁ」

「だから、嫌がってるんだろ…」

「楽しそうにしてたじゃない」

「………」

「してないらしいぞ」

「えぇー。本当にそんなことを言ってるんですか?」

「ああ」

「ふぅん…。そうなんですか…。へぇ…」

「………」

「いいよ、別に。それならそれで。そうだよね、クアも嫌だったよねぇ」

「………」

「ごめんね、よく分かってあげられなくて」

「…ワゥ」

「何なんだ、お前らは…」


フィルィが妙な威圧感を放つと、クアは渋々といったかんじに謝って。

力関係がよく分からないやつらだな、本当に…。

だいたい、フィルィはなんで狼に二足歩行の練習なんてさせてるんだ。

可愛さも大切だとは言うが、こいつが二足歩行をしていたら可愛いのか?

…そんなことを考えながらクアの方を見てると、睨まれてしまった。

まあ、こいつがどんなことをしてても、可愛いからは程遠いと思うけど…。


「クアのこと、もっと可愛くしたいんですけど、紅葉さんは何かいい案はないですか?」

「まずは、クアから離れたらどうなんだ」

「えっ、どういうことですか?」

「いや、こいつはどう頑張っても可愛くならないだろ…」

「えぇ、そうですかぁ?可愛いですよ、クアは」

「ヨウとか、こいつの子供はどうなんだよ」

「ヨウちゃんも、シディもラオも、もともとから可愛いからダメなんです。クアでないと」

「まったく…」

「………」

「セルタさんの性格が移っちゃったんでしょうか…。あ、セルタさんに移った…?」

「どっちでもいいけど、どう考えても、クアにとってはかなり迷惑なことだからな」

「大丈夫ですよ。ね、クア?」

「………」

「お前、意外と強引だな…」

「そんなことないですよ。せっかく、可愛くなれる素質があるんですから」

「お前のその自信がどこから来るのか知りたいよ…」

「だって、シディもラオも可愛いんですから、絶対にクアも可愛くなれますよ」

「シディもラオも、ヨウに似たんだろ。こんな般若面が、何をしたら可愛くなれるんだ」

「ほら、最近よくあるじゃないですか。コワカワイイみたいな!」

「いや、知らないし…。だいたい、怖かったら可愛くないだろ…」

「そんなことないですよ!ぼくの見解によりますと…クアの今の可愛さは、秋華ちゃんの可愛さに匹敵します!」

「………」

「あぁ…。そりゃ大変だな…」

「そうです!大変な可愛さです!」

「まったく…」

「クア。もっと、いっぱい、可愛くなりましょうね!」

「………」


もはやおもちゃだな、こうなると…。

どうもフィルィに頭が上がらないらしいクアは、いいように遊ばれているようだった。

クアは、もう諦めてるみたいだけど…。

でも、旅団蒼空は、いつもはこんなかんじなんだろう。

楽しそうに笑ってるフィルィがいて、それに巻き込まれて呆れてるクアがいて。

…テスカも帰りたいんじゃないだろうか、この場所に。

フィルィじゃないが、きっとそう思ってると信じることが出来そうだった。

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