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「委員会の方にも、さっき手紙が来たんだって。一週間分まとめて。謝ってた。超特急で確認するから、今は待機しておいてくれって」

「ふぅん」

「灯、どっか行くの?」

「行く予定だったんだけどね…」

「どこに?」

「ルイカミナだよ」

「ルイカミナってどこにあるの?」

「ユールオから見たら、北西の方向かな」

「え?モクセイ?」

「…あっちを向いて、斜め左前だよ」

「おかーさん、左ってどっち?」

「右の反対だな」

「右ってどっち?」

「左の反対だ」

「ふぅん」

「お姉ちゃん…。それじゃ説明になってないよ…」

「じゃあ、お前が説明してやれ」

「もう…。ほら、りる、こっちに来て」

「うん」


灯はりるを呼び寄せて、膝の上に乗せる。

それから、りるの手を取って。


「いい?こっちが右手。こっちが左手。それで、あっちがルイカミナのある北西」

「えへへ」

「…りる、聞いてた?」

「んー?」

「聞いてないね…」

「灯、おかーさんに似てるー」

「えっ?何が?」

「座ったかんじー」

「そ、そうかな…。どんなかんじなの?」

「んー」

「分からないんだ…」

「でも、ちょっとだけフカフカー」

「フカフカ…?」

「んー」

「フカフカって、何が…?」


そのフカフカって、まさか胸のことじゃないだろうな…。

背や体格は、私の方が少し大きいとしても…。

いや、まだ幼いりるが言ってることだし、そんなに気にすることもないな、うん。


「じゃあ、ぼくはどうかなぁ?」

「フィルィは、なんか変な匂いがする」

「え…。変な匂い…」

「蛇のヌケガラみたいな匂いー」

「あぁ、蛇の抜け殻だったら…」

「お前、まさか、財布に白蛇の抜け殻とかを…」

「近いですけどね。まあ、金運が上がるらしいですし」


そう言いながら、懐から財布を取り出す。

その財布に…と思ったが、よくよく見てみると…。


「それって…」

「白蛇革の財布ですよ。松風師匠に戴いたのですが」

「わっ、これってもしかして、瑞鶴屋の?」

「そうなんです!灯さん、よく知っていますね」

「当たり前だよ。さすがに、革物は珍しいのしか見てないけど、ちりめんとかの新作なんかには、いちおう目を通してるんだ」

「そうなのですか」

「でも、白蛇革の財布って、今まで三個しか作られなかったとか聞いたんだけど…」

「はい。その三個のうちの一個がこれなんです。製造番号と瑞鶴屋の印がここに刻まれてるんですよ。ほら」

「わっ、製造番号三番?この印も確かに本物だし…。すごいじゃない!」

「松風師匠がどうやって手に入れたかは知らないんですが…。正規に手に入れたものだから、安心して使えと仰っていました。ちゃんと、ぼくの名前が入った証明書もあったんですけど、それは今はある場所に預けてるんです」

「へぇ…。なんかすごいんだね、フィルィの師匠って…」

「はい。他にも、亀田屋の簪なんかも戴いたことがあるんですが…」

「えっ!亀田屋の簪って、最優良鼈甲の?」

「はい…。それは勿体なくて、さすがに使ってないんですが…」

「なんかもう、想像を絶するすごさだよ、それは…」

「何なんだ、瑞鶴屋だとか亀田屋だとかいうのは」

「えぇ…。知らないんだ…」

「知らないから聞いてるんだろ…」

「瑞鶴屋は主に反物を作るお店で、亀田屋は簪とかの装飾品を作るお店です。どちらにも人気の絵師や細工師がいて、普段から行列が出来るほどなのに、数量限定の新作が出るときは、戦が始まると形容されるくらいの争奪戦になるんですよ」

「ふん、たかだか布や簪程度のことだろ。戦が始まるなんて…」

「ぼくみたいに世界に三個しか出回っていない財布を持っていたり、一反しか織られなかった布を持ってたりするだけで、大きな名声にもなり得ますからね。まあ、ぼくは、松風師匠から貰ったクチですし、絶対に知られないよう秘密にしていますが。お財布も、ずっと前から使ってたものを、普段使いとしてますし。こっちは、旅団やお遣いなんかの大事なお金を入れるときにだけ使っています」

「ふぅん…。よく分からないな、そういうのは…」

「お姉ちゃんは、そういうのと縁遠い生活をしてるからね」

「紅葉さんは、そんなもので力を誇示しなくても、充分だからだと思いますよ」

「まあ、お姉ちゃんの場合、金箔に金箔を押してるみたいなかんじになっちゃうしね」

「いや、オレにそんな力はないからな…」

「そんなことないよ。ね、りる」

「んー?」


りるは、わけが分からないという風に首を傾げて。

まあ、分からないだろうな。

…その様子を見て、灯は何かニヤニヤしながら頭を撫でてるけど。


「何をニヤニヤしてるんだよ」

「ニヤニヤなんてしてないよ!りるは可愛いなって思ってたの!」

「ふぅん…」

「お姉ちゃんだって、ニヤニヤしてるときがあるんだからね!」

「えっ。鉄面皮だと思ってました」

「お前な…」

「あっ!い、いえ、そういう意味ではなく…」

「他にどういう意味があるんだよ…」

「えっと、その…。すみません、口が滑りました…」

「はぁ…。まあ、無表情なのは自覚してるし…」

「だから、たまにニヤニヤしてるんだからね!」

「そうだな、鉄面皮でもニヤニヤしたいときもあるしな。これでいいか」

「むぅ…」

「お前に表情を吸い取られたのかもしれないな」

「吸い取ってないもん!」

「はいはい」


でも、まあ、表情が豊かなのはいいことだ。

それだけ自分を表に出すことが出来るということだからな。

灯はそれでいいんだ。

…しかし、鉄面皮と言われたのは、少し傷付いたかもしれない。

ニヤニヤしていることはあると言っても、そんなに表情を出していないんだろうか、私は。

もしかすると、少し表情筋を鍛える必要もあるのかもしれないな…。

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