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「二人も、まだ手紙すら届いてないんだって…」

「そうか」

「どういうことなのかな…。明日の日付だよね、これ…。他の街のは届いてるのかな…」

「さあな。でも、届いてないと考えるべきじゃないか?ユールオにすら届いてないんだったら、他のところに届いてるとは考えにくいし」

「うーん…」

「もしくは、ユールオにだけ届かないように工作されていたか…ですね」

「その場合、誰がどんな理由でそんなことをしたのかが問題だけどな」

「そうですねぇ。優勝してほしくない誰かが、ユールオ予選で勝ち抜いたとか」

「誰だよ」

「それは分かりませんけど…」

「まあ、恨みは買わない方がいいね」

「桐華お姉ちゃんは、恨みとは縁遠そうだしね…」

「そうかな?」

「はぁ…。でも、どうしよう…」

「妖怪さんたちに乗せていってもらえば、間に合うんですよね?」

「それはそうだけど…。なんか、腑に落ちないんだよね…」

「まあ、意図的なものにしろ、そうでないにしろ、妨害に遭ったわけですからね…」

「妨害がどうとかじゃないんだよ。なんとなく、ヤなかんじだなって」


頬杖をついて、灯はまたため息をつく。

今日はこれで何回目だろうか。

一ヶ月分くらいはついているかもしれない。


「…それで、大会の委員会とかは、ユールオにはないのか?」

「あると思うよ。でも、条件は同じじゃないかな。先に通知を受けてたら、手紙の有無に関係なく報せてくるだろうし」

「その逆もまた、だな」

「えっ?」

「なんらかの理由で手紙が遅れて着くようなことがあれば、即時にでもその委員会からの報せがあるだろうということだ。対応の仕方とかな」

「あ、そっか。でも、来ないよね…」

「そいつらのところにも届いてないんじゃないか?きっちりとした日時は知らずとも、だいたいの日程は知ってるはずだから、やきもきしているだろうけど」

「きっちりとした日時が分かってなかったら、何のための委員会なのよ。事前に手紙のやり取りとかがあったんじゃないの?」

「その手紙も届いてないとすれば、分かっていないのも無理はないんじゃないかな」

「むぅ…。これは、大変な事件になりそうですね…」

「まあ、なるようになるって」

「桐華さん…」


湯呑みにお茶を入れて、それぞれの前に差し出す。

それから、ニッコリと笑って。


「焦っても仕方ないって、こういうことは。ほら、お茶でも飲んで、心を落ち着けようよ」

「とても落ち着きませんよ…。こんな事態になってるのに…」

「まあまあ。ほら、灯も飲みなって」

「うん…」

「気にしても仕方ないって」

「分かってるけどさ…」


それでも、複雑な心境だろうな。

もし、誰かが本当に妨害しようとしてこういうことになってるんだったら、知らぬ間に恨みを買っていることになる。

そうでないにしても、自分にはツキがないんじゃないかとか、そんなことを考えてしまうかもしれないしな。

…何にせよ、この事件で、灯はかなり動揺してしまっている。

今、大会に出たって、大した成績は残せないだろう。

願わくば、灯の心の準備が出来るまで、大会は延期してほしいものだけどな…。


「とにかく、委員会さんの連絡を待つか、ルイカミナに直接行くか、どうするんですか?」

「今はどうとも言えないよ…。まずは、遙お姉ちゃんの調査を待った方がいいのかも…。他の二人もどうするか、ちゃんと聞かないとだし…」

「あぁ、そうですね…」

「はぁ…。なんでこんなことになるのかな…」

「気にしないのが一番だよ、こういうのは。動揺すれば、それだけ体力と気力も使っちゃうからね。そしたら、本番で力が出せないし」

「そんなこと言っても…」

「ぼくだって、利き茶大会の日程通知が来ないときなんて結構あるんだけど、そんなときも落ち着いて構えていれば、なんとかなるものなんだよ」

「通知が来ないことが結構あるって、すっごい妨害に遭ってませんか…」

「えぇ?そうなのかな?」

「桐華お姉ちゃんの場合、落ち着いて構えてるというか、ただ単に能天気というか…」

「まあ、遙にもよく言われるよ」

「はぁ…」

「灯。ため息なんかついちゃダメだよ。幸せが逃げてっちゃう」

「もう幸せじゃないよ…」

「逆に考えるんだよ。今のこの逆境が、次の成功に繋がるんだって」

「逆境なんて難しい言葉、桐華お姉ちゃん、知ってたんだ…」

「知ってるけど、なんで?」

「はぁ…。なんか、桐華お姉ちゃんを見てると、悩んでるのがバカらしくなってくるからイヤだ。いつもニコニコしちゃって…」

「ニコニコしてないと損だよ。哀しい顔をしてると、幸せも逃げていくからね」

「桐華お姉ちゃんが、やたら幸運な理由が分かる気がするよ…」

「幸運かな。ぼくは、みんなと同じ普通だけど、みんなより少し前向きに考えてるから、幸運に見えるだけじゃないの?」

「…そうかもしれないね」


灯は愛想笑いを浮かべて、またすぐに悩ましい顔に戻ってしまう。

どこを見てるのか、窓から外を眺めているようだったけど。

…そんな灯を見て、桐華の笑顔にも少し陰りが見えるようだった。

いや、あるいは、私の妄想なのかもしれないけど。


「灯ちゃん、元気出してくださいね?」

「うん…。ありがと…」


しかし、この事件はどうしたものか。

遙の報告を待つくらいしか出来ないけど。

…なんとなく、裏があるような気がしてならないな。

もちろん、そんなものはない方がいいんだけど…。

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