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「やれやれだよ、まったく。旅団の護衛なんて、もうやりたくないね」

「お疲れさま、遙。はい、お茶」

「どうも。桐華の方は、何かあった?」

「別にないかなー。いつも通りってかんじだったよ」

「ふぅん。それで、ロセは?」

「さあ?まだ寝てるんじゃないかな」

「子供を放っておいて、いい気なもんね、まったく…」

「善哉はどうしてるんだ」

「んー?まあ、普段通りってところなのかしらね。ロセがいなくて困るってことはないみたい。子供たちも、母親がそういう性格だってこと知ってるし。実を言えば、ロセがいなくても回ってしまってるのかしらね」

「ふぅん…」

「でも、いい加減帰らせないとねぇ。まったく、大きな子供なんだから…」


遙はまたため息をついて。

仕事帰りだというのに、ご苦労なことだな。

…いやまあ、私も何か対処しないといけない立場だったんだけど。

ダメだな、こんなことでは…。


「で、そっちの子は何?新入り?」

「フィルィだ。旅団蒼空の」

「あぁ、その子がねぇ。なんか、事件に巻き込まれたんだって?」

「は、はい…」

「…なんで、そんな引け腰なのよ」

「す、すみません…。あ、あの、ぼく、その…遙さんにずっと憧れていましたっ!」

「ふぅん。どういう意味で?」

「えっ。あ、あの…」

「あはは、ごめんごめん。百合っ気があるって聞いてたから」

「は、はぁ…。すみません…」


さすが情報屋といったところだな。

なぜそんなことが知られているんだろうと、フィルィは顔を真っ赤にして俯いているけど。

…いや、私も、なんで知ってるのか気になるけど。

旅団月読の情報収集力は恐ろしいな…。


「うちにもそういうのは多いからさ、気にすることはないよ」

「は、はい…」

「それで、まあ、憧れてくれるのはうれしいけど、あんまりいい人間じゃないよ、私なんて」

「そ、そんなことないですっ。旅団に所属している女性の羨望の的ですよっ!」

「あはは、ありがとね。でもさ、タルニアとか、もっと大きな旅団を回してる優秀な女の人はいるでしょ。なんで私なの?」

「そ、それは…」

「大変だよ、お姉ちゃん!」

「なんだ、お前はいきなり…」


フィルィの言葉を遮り、部屋に飛び込んできたのは灯だった。

興奮した面持ちで、何かの紙をブンブンと振り回している。


「そんなに振り回したら破れるだろ…。どうせ、料理大会の告知とかだろ」

「えっ。なんで分かったの?」

「分かるだろ、普通…」

「灯は分かりやすいからねぇ」

「あ、遙お姉ちゃん。帰ってたんだ。お帰り」

「ただいま」

「次は、いつ出るの?」

「また仕事が入ったらかなぁ。あ、でも、まず先に、ロセを送り返さないといけないから、まあそのうちにだね」

「そっか」

「それより、料理大会の本選でしょ?いつなの?」

「…明日の日付が書いてあるな」

「明日?ルイカミナでしょ?間に合うの?」

「そうだよ!間に合わないから大変なんだよ!」

「なんで、こんな直前になって届くんだ?」

「知らないよ…。速達だし、消印だって一週間も前のだし…」

「灯の優勝を阻止しようと、誰かが工作してたとか」

「そんなこと…。あっ!他の二人はどうなってるんだろ!」

「様子を見にいってみたら?」

「そ、そうだね…。ちょっと行ってくる!」


灯は急いで立ち上がると、部屋を飛び出していった。

まあ、何かの事故なのかもしれないけど…。

これは、調査が必要なのか…?


「灯も大変だねぇ」

「そうだな」

「…調べようか?」

「いや、まあ、今はいいんじゃないかな」

「そう?でも、どうするの?間に合わないでしょ?」

「いや、間に合わせる方法はあるんだけどな」

「ふぅん。そうなんだ」

「どんな方法なんですか?」

「うちの妖怪たちを使えばいい。澪か大和だけど。この前も、ルイカミナまで日帰り旅行が出来たくらいだからな。澪なら、三人とも乗れるだろ」

「そうですねぇ。あれだけ大きかったら」

「まあ、間に合うならいいけどさ。でも、なんでなんだろうね。ルイカミナからの速達だったら、一日で届くはずだし。その計算なら、ルィムナ内なら明日開催でも大丈夫だけど」

「さあな。まあ、大会に出るようなやつが、そんな下らない細工をするとも思えないけど」

「どうだろうね。大会優勝なんて肩書きは、かなりのものになるよ」

「そうなの?利き茶大会でいつも優勝してるけど、ぼくは何か変わったなんてことはないよ」

「えぇ…。桐華さん、そんなすごい方だったんですか…」

「お茶に対する情熱だけは異常だからね、桐華は。それとね、利き茶大会で毎回優勝出来るほどの実力があるから、いろんなお茶の仕事が入ってくるんでしょ」

「えっ、そうなんだ」

「あんたねぇ…。暢気にも程があるってものよ…。タダで仕事が入るわけがないでしょ」

「そうなの?」

「はぁ…」

「これは、ある意味ですごい方です…」

「……?」


まあ、こういうやつだ、桐華は。

遙もよく分かってるだろうけど。


「さてと…。バカ桐華は置いといて…」

「なんだ、どこに行くんだ」

「情報収集よ。今回の事件について」

「まだいいだろ」

「私は気になるの。私が勝手に調べるんだから、それでいいでしょ?」

「それはそうだけど…」

「じゃあ、行ってくるね」

「はぁ…。まあ、何か分かったら、オレにも教えてくれ…」

「はいはい。分かってるわよ」


適当に返事をすると、遙は部屋を出ていって。

桐華とフィルィは、それをぼんやりと見送っていた。

…まだ事件と決まったわけじゃないんだけどな。

でも、これだけ遅れたのには、少なからず理由があるはずだ。

郵便屋を捕まえて聞けば早いのかもしれないけど。

どんな裏があるんだろうな…。

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