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洗濯も終わり、外周の見回りなんかをしてみる。
やることが何もないというのが実際のところなんだけど。
それにしても
「なんでお前が付いてくるんだ」
「……?」
森の小道は決して広くはないのに、身を縮めながらセトが付いてきていた。
ていうか、ほとんど匍匐前進。
「何も面白いことはないぞ」
と、構わず進もうとは思うんだけど、やっぱり気になるものは気になる。
「付いてくるなよ。風華のところにでも行ってこい」
「………」
「自分で探せよ」
「ウゥ…」
「分かった分かった…まったく…」
その"美味しいもの"が、変なものじゃなければいいんだけど…。
後ろはセトに塞がれてるので、結局、外周をぐるりと一周して城へ戻ることになった。
外門に着くと、その上で桜が日向ぼっこをしていた。
「風華、知らないか?」
「知らな~い」
「そうか」
「葛葉なら知ってるんじゃない?」
「その葛葉は、普段どこにいる?」
「風華の近く」
「じゃあな。あまり役に立たなかったけど、礼だけは言っておくよ」
「ボクだって、一所懸命考えてるんだからね!」
「分かった分かった」
「もう!」
桜に軽く手を振り、中へ入る。
外門は充分大きいから、セトでも通ることが出来る。
門をくぐった先の広場では子供たちが遊んでいた。
その中に、葛葉の姿が見受けられた。
「おい、葛葉。風華を知らないか?」
「んー、しらない~」
「そうか」
「ねーねーも、いっしょにあそぼ!」
「ああ。でも、今はやることがあるから、また今度な」
「えぇ~…ねーねーとあそびたい~…」
服を掴んで離さない葛葉を抱え上げる。
しばらくはグズっていたけど、次第に大人しくなってくる。
「葛葉~。何してるの~?」
「ほら、呼んでるぞ」
「…うん」
下ろしてやると、一瞬こちらを見て、子供たちの方へ走っていった。
私より、やっぱり同じ年代の子と遊ぶのが良いだろう。
その方が学ぶことも多いしな。
「龍だ~」
「セトって名前なんだよ!」
「セト、お手!」
子供たちに囲まれ、楽しそうにしている。
風華を連れてこなくても大丈夫そうだな。
…でもまあ、いちおう探しておくか。
広場を抜け、内門を通り城に入る。
「あ、隊長。隊長の知り合いだっていう不審者がうろついていたので、捕まえておきました」
「ん?名前は?」
「えっと…美希だったかと」
「いつ捕まえたんだ」
「昨日の夜に」
「なんですぐに報告しなかったんだ」
「昨日はいろいろ立て込んでいたので…」
「まあいい。どこにいるんだ」
「伝令室にいます」
「そうか。次からはすぐに報告しろ」
「はっ!」
昨日、夕飯に来てないような気がしていたけど、まさか不審者として捕まっているとは…。
伝令室に急ぐ。
「あ、お姉ちゃん」
「なんだ」
「不審者に会いに行くの?」
「ああ。灯は?」
「私も、ごはんを渡しに行くんだ」
「今日は非番か」
「うん。王が代わってからは、非番ばっかりになっちゃったみたいだけどね」
「…普段からそういうかんじで話してくれよ」
「ダメ。勤務中は勤務中。それ以外はそれ以外。ちゃんと分けないと」
「姉なんだから、もうちょっと威厳ある言動をだな…」
「何言ってるのよ。お姉ちゃんの方が歳上でしょ?私が妹」
「でもなぁ…」
「それより、早くしないと不審者が餓死しちゃうよ」
「…そうだな」
美希のためにも急ごうか。
伝令室の戸を開けると、部屋の中ほどで後ろ手に手錠をかけられ、ぐったり横たわっている赤狼の姿があった。
「美希。大丈夫か?」
「ん…?あぁ…紅葉か…」
「はい、ごはんですよ」
「ありがとう…」
灯に差し出されたおにぎりを、横になったまま弱々しく食べる。
昨日は何も食べさせてもらってなかったのか…?
「はぁ…生き返った気分だ…」
「お水もどうぞ」
「ああ…」
盛大にこぼしながら、なんとか喉を潤す。
「はぁ…はぁ…」
「私特製のおにぎり、どうでした?」
「ぅむ…」
「あ、あれ?寝ちゃった…」
「安心したんだろうな」
「ふぅん…」
様子からして、何日もろくに食べてなかったのかもしれない。
昨日は望と響もいる手前、格好悪い姿は見せられない…と、そんなところか。
「ふふ、それにしても、可愛い寝顔」
「そうだな」
純粋無垢の子供のような。
安らかな寝顔だった。
不審者、美希。
…不憫です。