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「草平さん、ぐっすりですね」

「そうだな」

「なんか、申し訳ないです。私を庇ったから傷付いたのに、私は何も出来ないなんて…」

「お前がそんなことで悩むなんて、こいつも望んでいないだろうよ」

「…そうですね。ダメですよね、こんな顔してたら」


そう言いながら、顔を叩いて。

それから、また笑う。


「龍脈…でしたっけ?草平さん、早く治るといいですね」

「そうだな。とりあえず、今は、子供たちにイタズラされないようにだけしないとな」

「ォオ」

「そうか。伊織と蓮は?」

「ォン」

「じゃあ、そっちに運ぶか」

「えっ。紅葉さんは、セトがなんて言ってるのか分かるんですか?」

「知らなかったか?」

「知らなかったですよ…。だいたい、そんなことを聞く機会もなかったですし…」

「そうか?」

「龍と話が出来るなんて、いいですよねぇ。まあ、龍なんて、そうそう見れないですけど。草平さんは、普通に話せるし…」

「この城に来たら、そんなことは言えないけどな。お前の下着を盗んだ伊織と蓮もいるし、澪と翡翠ももとは龍だし」

「いっぱいいますよねぇ。ぼく、昔から龍さんが好きで。龍に囲まれて生活したいって思ってたときもあるんですよ」

「今は思ってないのか?」

「今も思ってますけど、今は蒼空の方が大切ですから。龍さんは、また今度です」

「そうか」

「まあ、今、実現出来ているといえば実現出来ているんですけどねー」

「そうだな」

「えへへ。…それで、草平さんはどうやって運ぶんですか?セトでは、ちょっと無理だと思うんですけど…」

「まあ、任せておけ」


こういうときは、あいつだ。

第三の目を通じて澪を呼ぶ。

すると、すぐにどこからか飛んできて。


「呼んだか、紅葉」

「ああ。こいつを、裏の伊織と蓮の家まで運んでほしいんだけど」

「どうやってだ?」

「なんでもいいけど、怪我をしているから、出来るだけ素早く、そっと運んでほしい」

「うーん…。じゃあ、普通に運ぶか…」


澪は広場の真ん中まで走っていくと、そこでもとの姿へ戻る。

どこかでりるが歓喜してそうだけど、それはそれだ。


「わぁ、おっきいですね…」

「私の雄大な姿に見惚れたか?」

「態度も大きくなってます…」

「うっ…」

「そんなことどうでもいいから、早く運んでくれ。子供たちが集まってこない間に」

「はい…」

「紅葉さんには、相変わらず弱いんですね」

「紅葉は私の主だからな…」

「ォオン」

「五月蝿いぞ、セト」

「ウゥ…」

「紅葉さんには、誰も逆らえないんですね…」

「そんなことないだろ。お前たちが勝手に苦手意識を持ってるだけじゃないのか」

「そうなんですかねぇ…。なんか、紅葉さんって、逆らい難い雰囲気がある気がするんですよね…。たぶん…」

「あるか?」

「ありますね…」

「そんなこと、言われたことないけどな」

「思ってても、言うはずないと思いますけど…。普通の人は…」

「ふぅん…」


そんな雰囲気を醸し出しているのか、私は…。

自分では全然分からないけど…。

いや、というか、今はそんなことはどうでもいいだろ。


「とにかく、草平を早く運べよ」

「あ…。そうだな…」

「まったく…」


澪はやっと草平を抱き上げて、城の裏へと向かう。

セトもなぜか追い掛けていったけど。

…しかし、澪のもとの姿は、いつ見ても巨大だな。

この大地のどこに、あんなやつがいたのかと思うくらいに。

まあ、大地は澪よりもずっと大きいからな。

そう考えれば、澪も私たちも、本当に小さな存在なのかもしれない。


「おっきかったですね、澪ちゃん」

「そうだな」

「セトや草平さんも、かなり大きいとは思っていましたけど…」

「まあ、オレが見た中でも、一二を争う大きさだな」

「紅葉さん、他にも見たことがあるんですか?」

「…ああ。一度だけな」

「そうですか。私も見たかったなぁ」

「旅をしていれば、そのうち会えるかもしれないな。今は、澪で我慢しておけ」

「澪ちゃんは、あんまり龍の姿にならないじゃないですか」

「それはそうだけど」

「でも、座敷わらしという観点からすると、翡翠さんもそうですよねぇ」

「そうだな。澪よりは小さいけど、あいつも長いしな」

「翡翠さんや澪ちゃんみたいな鱗の龍って、逆鱗とかってあるんですかね、やっぱり」

「あるみたいだな」

「触ったら怒りますか?」

「怒りはしないだろうけど、触られてもいい気分はしないらしいな。まあ、よっぽど気を許した相手でないと、触らせてもくれないらしいけど」

「へぇ。澪ちゃん情報ですか?」

「いや、光と響ってやつらがいるだろ。あいつらから聞いた」

「そうなんですかぁ。龍のことは、龍が一番よく知ってるってことですかね」

「どうだろうな。龍の研究を熱心にしているという知り合いがいるけど」

「あ、いいですね、龍の研究。ぼくもやりたいです」

「弟子入りを志願したら、受け入れてくれるんじゃないかな」

「そうですか?今度、会いにいってみようかなぁ」

「そうだな。また会いにいこう」

「はいっ」


フィルィは、本当に龍が好きなんだろうな。

龍のことを話すときのフィルィは、六兵衛が研究成果を披露するときに似ていると思った。

りると組んで、将来は龍博士にでもなるかもしれない。


「…あ、郵便屋さんです」

「そうだな。朝は草平が邪魔で来れなかったらしいし」

「そ、そうなんですか…。すみません…」

「いや。まあ、郵便屋なんて、珍しいものでもないけど」

「そうですけど、ぼくたちみたいに、旅から旅への生活をしてると、旅先で出来た友達とかからの手紙が待ち遠しいってことも多いんですよ。だから、街に着いたときに、自分宛の手紙がないかとか、誰から手紙が来るんだろうかとか、ワクワクしちゃうんです」

「ふぅん…。まあ、そういうのは、旅をしてる者の特権かもしれないな」

「はい、そうですね」


あの郵便屋は、誰の手紙を誰に届けるんだろうか。

私は旅に出たこともないし、遠方の友達もいないから、そういうのは分からないけど。

…でも、国境付近の村に派遣したやつらからの報告とかは、それに近いのかもしれない。

遠くで暮らす相手のことを想いながら、手紙を読み、また返事を書く。

その架け橋として郵便屋がいるんだと考えれば、確かに、何の変哲もないものも、待ち遠しいものになるのかもしれないな。

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