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城の裏に回ると、大和がいて。

伊織と蓮と、何かを話しているようだった。


「お前たちは、少し考えが足りないんじゃないか?」

「………」

「お前たちの年頃ならば、そういうこともあるかもしれない。しかし、そのあとの対応はどうだ?分からなければ、それでいいとでも思ったのか?」

「ォオ…」

「何を怒ってるんだ、お前は」

「む、紅葉か。いや、伊織が、私が用意していた水晶を食ってしまったようでな」

「水晶?」

「ああ」

「食ったって、吐き出させればいいんじゃないのか?」

「いや。どうやら、もう吐き出せない位置にあるらしい」

「ふぅん…。ていうか、なんで水晶なんて食べるんだ?」

「飴だと思ったらしいな」

「飴?甘くもないのに?だいたい、なんでお前が飴なんて食べるんだよ…」

「子供たちにでも貰ったのだろう。それで味を占めたんじゃないのか」

「まあ、そうかもしれないな…。でも、それで、なんですぐに出さなかったんだ。飴じゃないなんて、すぐに分かるだろ」

「………」

「蓮が余所見をしていて、伊織とぶつかったらしい。それで、弾みで飲み込んでしまったようだ。まあ、それはそれで、事故として片付けられるが、何回試しても吐き出せなかったからといって、私が最初に聞いたときに、知らないと嘘をついたんだ」

「ふぅん…」

「どうして嘘をつくんだ。嘘をつかなければ、水晶を飲み込んだ程度で、私はここまで怒らない。分かるか?底の浅い嘘をついたところで、すぐにそれと分かるんだ」

「………」

「反省してるみたいだし、もういいんじゃないか?水晶も、こいつの尻から出てくるのを待つしかないようだし」

「いや。こういうのは、そのときにきっちり叱っておかないといけない」

「そうかよ…。まあ、澪の修行の妨げにならない程度にな」

「分かっている」


まったく、熱心なことで。

それだけ、こいつらのことを考えているということだろうけど。

…澪が来ていることにも気付かないほど、一所懸命になっている。


「私はどうすればいいんだ?」

「とりあえず、りると遊んでおいたらどうだ」

「澪、おっきくならないの?」

「いや、今はもとの姿に戻る必要もないし…」

「なんで?」

「この姿は、割と私に馴染んでいるみたいだ。本来の力は出せないけど、それでもそれなりの力は出せるからな」

「よく分かんない」

「むぅ…。そうか…」

「りるは、おっきい澪が好きだよ。格好いいもん!」

「そ、そうか?えへへ…。なんか照れくさいな…」

「澪。調子に乗れば、それだけ空回りし、出せる力も出せなくなると何回言えば分かるのだ」

「うっ…。大和…。終わってたんだ…」

「まったく、まだまだ修行が足りないようだな。…とりあえず、伊織が飲んだ水晶の代わりを取ってくるから、少し頭を冷やして待っていろ」

「はい…」


伊織と蓮のとばっちりを受けたかんじは否めないが、確かに調子に乗るのはあまりよくないことだし、仕方ないと言えば仕方ない。

そして、大和はそのまま一跳びで塀の上に乗り、もう一跳びでどこかへ見えなくなった。


「…それで、水晶なんて何に使うんだ?」

「水晶は一番簡単に力の増幅を図ることが出来るもののひとつだ。人間の姿で少し弱くなった力を、水晶で少し補っていたんだけど」

「ふぅん…」

「もしかしたら、伊織の力も増幅されてるかもな」

「……?」

「何か術は使えないのか?赤龍なら…火とか」

「ォオ…」

「なんだ、使えないのか…」

「伊織、あれやってよ!」

「……?」

「あれって何だよ、りる」

「伊織がね、蓮と一緒に、この前練習してたんだ。人間になる練習!」

「……!」

「そんな術の練習をしてたのか?」

「ウゥ…」

「いや、風華は、今はお前たちの言葉も分かるんだし、人間の言葉を話す必要もないだろ…」

「………」

「まあ、そうかもしれないけど」

「ォオン」

「分かった分かった…。で、その術って何なんだ?」

「変化の術式とかじゃないかな?でも、属性は土だから、出来ないことはないだろうけど、結構難しいんじゃ…」

「まあ…属性とかは分からないが、出来ないことはないんだったら、出来るかもしれないじゃないか。それで、どれくらい化けられるようになったんだ?」

「りるが見たときはね、なんか伊織たちが人間みたいに立ってるところくらいまでだった!」

「うーん…。いまいち想像がつきにくいな…。というか、それくらいは化けなくても出来るんじゃないのか?」

「普段四足歩行なのに、急に二足歩行に移ることは出来ない。二足歩行の人間が、四足歩行では活動しにくいようにな」

「まあ、それはそうだろうけど…。じゃあ、化けても二足歩行は難しいんじゃないのか?」

「身体の作りが二足歩行用になるからな。慣れれば、割と簡単だ」

「そうか」

「とりあえず、伊織。試してみたらどうだ?」

「………」


澪に言われて、精神を集中させるためか目を瞑る。

しかし、水晶は腹の中にあっても効果はあるんだろうか。

というか、普段はどういう使い方をしてるんだ?

…なんて考えてるうちに、伊織の姿がどんどん変わっていく。

最終的には、澪と似たような、龍人の姿で止まって。


「上手くいったじゃないか!」

「あ、あぅ?」

「…言葉は上手く話せないみたいだな」

「そんなの、練習すればいいんだよ。でも、水晶を使っただけでここまでいけるってことは、使わなくても、もう少し練習したら同じくらい術を操れるようになるってことだよ!」

「ふぅん…。オレにはよく分からないが…」

「うぅ…」

「ん?どうした?」

「あぅ…」

「あぁ、そうか」


よく見ると、小さく震えている。

裸だから寒いんだろう。

とりあえず、私の羽織だけでも着せてやっておく。

…それで少し温かくなったのか、伊織はこっちを見上げてニッコリと笑って。


「それで、効き目はどれくらい保つんだ?」

「さあ?伊織がどれだけ維持出来る力を持ってるかによると思う」

「そうか…」

「ォオ…」

「蓮も水晶が欲しいのか?」

「………」

「まあ、大和に頼めばいいんじゃないか?オレからも頼んでやるし」

「……?」

「不純な動機ではないからな。それなら、オレも協力してやるよ」

「ォオン!」

「わっ、こら、重たいから!」


蓮は嬉しそうに私の顔を舐めて。

まあ、それくらいなら手伝ってやるさ。

…それより、伊織がどれだけこの姿を維持出来るのかは分からないけど、まずは服を取りにいってやらないとな。

いや、先に風呂にでも入れておくか?

今なら、夜勤組がちょうど入る頃だろうし。

よし、風呂だな。

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