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「あ、あれは何なんですか?」

「龍だろ」

「いや、それは見たら分かりますけどね…」


良い匂いがするからか、セトは興味津々といった風に厨房を覗き込んでいた。


「ゥルル…」

「襲ったりしませんよね…?」

「さあな」

「えぇ…」

「それより、早く朝ごはん、作ってくれないか」

「わ、分かってますけどぉ…」


セトの方をチラチラ見て、料理に集中出来ないみたいだった。


「おい、セト。こいつがビビってるから、ちょっと向こうに行っててくれないか?」

「ウゥ…」

「よしよし、良い子だ」

「はふぅ…」

「さあ、早く作ってくれ」

「はい…」


厨房に来る前、試しにいつもの方法で話し掛けると、意外とあっさり応えてくれた。

そして、ずっと向こうの山から来たということ、なぜここに留まったのかは分からないということを教えてくれた。


「はい、どうぞ」

「いただきます」

「うわっ!」

「なんだ…騒がしいな…」

「だ、だってぇ…」


またセトが覗き込んでいた。

次は、私の食べているものに興味があるようだった。


「そらっ」


比較的大きな魚の切り身を寄越す。

それを器用に口で受け止め、その巨体に対してあまりにも小さなものをムグムグと味わう。


「オォン!」

「そうか。美味いか」

「え、えぇ…ホントにそんなこと言ってるんですかぁ?」

「ああ」


バサバサと翼をはためかせて興奮してる様子を見れば、分かりそうなものだけど。


「グルル…」

「ダメだ。オレの分がなくなるだろ」

「………」

「他のやつに貰え」

「ウゥ…」


貰えないと分かると、翼を折り畳んで、どこかへ行ってしまった。

まあ、そのうちみんなが慣れてくれば、いろいろ貰えるだろう。

とにかく今は、私の分がなくなるのだけは避けないと…。



洗濯場に行くと、すでに何人か洗濯を始めていた。


「あ、隊長。おはようございます」

「おはよう」

「あの銀龍は何なんですか?」

「セトだ」

「セト?名前ですか?」

「ああ」

「いつの間に広場に住み着いたんですか?」

「昨日」

「へぇ…」


何か腑に落ちないというような顔をして、また洗濯に戻る。

まあそうだろうな。

知らない間にあんな龍が住み着いていて、私は平然としている。

疑問は解決するどころか、さらなる疑問を呼んで。

私はもう考えることを放棄しただけなんだけど。


「わぁっ!?」

「なんだ」

「い、いや…いつの間にか龍が来てたので…」

「龍じゃなくてセトだ」

「ゥルル…」

「はぁ…びっくりさせないでくださいよ…。しかし、そんなに大きいのに、よく足音も立てずに歩けますね…」

「……?」

「まあ、あれだ。大きさは関係ないってことだな」


それに、足音はしなくても気配はだだ漏れなんだから。

戦闘班なら説教してやるところだが、あいにく医務班だ。

今回は見逃してやろう。


「それより隊長。手伝ってくださいよ~」

「あぁ、そうだった」


そろそろみんな集まってくる頃だな。

さあ、洗濯の時間だ。



各村の代表とその子供を交えた初めての洗濯だったわけだが、さすがと言うべきか、誰も賑やかなこの時間に動じていなかった。

たぶん、慣れているんだろう。


「こぉら!何しとんねん!ちょっとは手伝い!」

「イヤやもーん」

「手伝わな、あとでどつきまわすで!」

「へーんだ」


…うん。

慣れてるというか、逞しい、だな。


「葛葉!待ちなさい!」

「いや~」

「葛葉!」


向こうに比べると、こっちは迫力に欠けるな。

やはり、方言の力なんだろうか。

それとも…威厳?


「はぁ…なんで手伝わないのかな…」

「子供は遊ぶのが仕事やし、しゃーないっちゃあしゃーないんやけどね」

「うーん…」

「ほっといても大人になるんやから。風華ちゃんも怒れるうちに怒っとかなあかんな!」


おばちゃんは、大笑いしながら風華の背中を叩く。

風華は、痛いような、哀しいような、そんな顔をしていて。

そして、セトはそれを不思議そうに眺めていた。


「さ、口より手ぇ動かさんと!」

「おばちゃんの口が、一番よく動いてるみたいだけど?」

「まあ、確かにそうかもしれんな!」


また大笑い。

本当に賑やかな人だな。


「お姉ちゃんっ」

「あ、望。どうしたの?」

「えへへ。手伝いに来たの!」

「え?」


ニコニコ笑って、洗濯桶の前に座る。

風華は、突然のことに全く頭が追いついていないようだった。

…子供の成長は早い。

たぶん、衛士になったことが望の意識を変えたんだと思うけど、子供はみんな、大人が知らない間に大きくなっているものだ。


「桜!今日という今日は許さないからね!」

「大成功~」


…まあ、童心を忘れないのも大切なことだ。

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