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「いつまで逃げてるんだ、お前は」

「そんなこと言ったって…」

「まったく…。フィルィもリカルも、お前に会いたがってるのに」

「………」

「テスカさん、リカルちゃんにも会ってないのですか?」

「それは…」

「ちょうどいいですっ。今日、リカルちゃんも遊びに来てますから、会いに行きましょう」

「い、いや、その…」

「はぁ…。そんなんじゃ、松風が来た意味はあったのかと疑問に思うな…」

「………」

「逃げてばかりでは、何にもならないぞ。いきなりリカルに会わなくても、まずはフィルィに会って、自信を付けてみたらどうなんだ」

「自信は…付くのか…?」

「それはお前次第だろ。とにかく、このままでは話が全く進まない。何かしら動きを見せないことには、一歩前にすら進めないのは分かっているだろ」

「………」

「まあ、どうするのか、自分で考えることだな」


テスカは、また俯いて。

本当にどうするんだろうな。

…ちゃんと向き合ってくれるとは信じている。

それが今なのか、いつなのかは分からないけど。

テスカ自身も、このままではいけないと分かっているはずだし。

とにかく、リカルはテスカが帰ってきてることを知らないし、フィルィは自分からは会わないと言っている。

テスカが動かないことには、この事案は何も動かないということだ。


「むっ…?」

「えっ?」

「逃げるのか?」

「………」


テスカは何も言わず屋根縁に出て、壁の裏に隠れてしまった。

それからすぐに、廊下から足音が聞こえてきて。


「えじちょーさん!」

「あ、リカルちゃん」

「秋華ちゃんもいる!」

「ちょうどいいところに来てくれました。実は…」

「待て、秋華」

「えっ?し、しかし…」

「あいつ自身の問題だ。自分で解決させろ」

「は、はぁ…」

「どうしたの、秋華ちゃん?」

「い、いえ…。ごめんなさい…」

「……?」


どうやら、テスカはそのまま屋根縁を伝って、下の階に逃げたらしい。

リカルは意味が分からないという風に首を傾げていたが、すぐに笑顔に戻って。


「えじちょーさん、加奈子の伝言板は元気ですか?」

「元気…?まあ、まだ壊れてはないと思うけど」

「そっか。よかった」

「それで、今日はどうした」

「今日は遊びに来たんだよ、えじちょーさんと!」

「なんでオレなんだ」

「えっ?ダメなの?」

「ダメではないけど…」

「リカルちゃん、私とも遊びましょう」

「うん!それで、何して遊ぶの?」

「いや、だから、なんでオレと遊びたいんだ?ほかのやつらと遊んだ方が楽しいと思うぞ」

「んー。ホントはね、えじちょーさんと、お話がしたかったの」

「なんだ、そうなのか…」

「えへへ。えじちょーさんとお喋りしたら、字が上手くなるかなって」

「喋るだけじゃ無理だろ…」

「そっか…。じゃあ、秋華ちゃんは?」

「わ、私は、字は上手くありませんし…」

「上手くないの?」

「全然です、全然!」

「そっか」

「私もまだまだ修行の身ですから、リカルちゃんと同じですね」

「ふぅん」

「一緒に頑張りましょう」

「うん」


二人で、何かよく分からない約束をして。

いや、よく分からないことはないか。

お互いを高め合う間柄になればいいな。


「えじちょーさん」

「ん?」

「えじちょーさんは、字の練習はした?」

「そうだな。かなりやった記憶はある」

「面白かった?」

「面白かったかと聞かれると、キツいものがあるけど、今となっては、あのときに頑張っておいてよかったと思うよ」

「そっかー。じゃあ、リカルも頑張る」

「ああ。しっかり頑張れよ」

「私も頑張りますっ」

「そうだな」

「リカルはね、字が上手くなったら、お姉ちゃんにお手紙を書きたいんだ」

「そうか」

「それは…いい目標ですね。リカルちゃんの綺麗な字を見たら、きっと、テスカさんもすごくビックリしますよ」

「うん!えへへ、お姉ちゃん、喜んでくれるかな」

「喜んでくれると思いますよ」

「えへへ~」


秋華は、複雑な笑みを浮かべていて。

…まあ、これだけ近くにいるのにな。

それを知ってるだけに、リカルの無邪気さも、心に突き刺さってしまうのかもしれない。

この笑顔は、そういったものなんだろう。


「あ、そうだ、えじちょーさん」

「なんだ」

「お手玉出来る?」

「出来るけど、どうしたんだ。教えてほしいのか?」

「うん。こう、片手でやるやつ!」

「片手か」

「リカルちゃん、お手玉は持ってるのですか?」

「二個しかないけど、お姉ちゃんが作ってくれたんだ。はい、これ」

「…かなり(いびつ)だな」

「お姉ちゃん、あんまり手先が器用じゃないからって言ってた。でも、リカルは、このお手玉が一番大好きだよ」

「そうですか…。リカルちゃんは、テスカさんが大好きなんですね」

「うん!大好き!」

「………」


秋華は少し辛そうな顔をしてこっちを見るけど、こればかりはどうにもならない。

酷かもしれないが、今は何もしてやることは出来ない。

…リカルからお手玉を受け取って、何回か片手でお手玉をやってみる。


「わぁ、やっぱりえじちょーさんはすごいね!」

「慣れれば、これくらいは簡単だ。いくつかコツを言ってみるから、ちょっとやってみろ」

「うん」

「あ、あのっ。私もやりたいのですがっ」

「ん?そうだな。じゃあ、お手玉を出してくるか」

「どっか行くの?」

「お前たちもついてくるか?少し埃っぽいかもしれないけど」

「倉庫ですか?」

「まあ、そんなところだな」

「倉庫~」


リカルは素早く立ち上がると、私より先に部屋を出ていってしまう。

倉庫の場所は知ってるんだろうか。

まあ、途中で捕まえればいいだけの話だけど。

…秋華は、まだ思い悩んでいるようだな。

まったく、テスカは、こうやって周りのやつも巻き込んでいるという自覚はあるんだろうか。

今回の事件で受けた心の傷は深いかもしれないが、だからこそ、乗り越えることで得られるものもあるはずだ。

いつまでも逃げ回ってばかりではいられないぞ…。

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