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「す、すみません、ナナヤちゃん…」

「いいよいいよ。困ったときはお互いさまって言うし」

「で、お前のはどこに行ったんだ?松風が持っていったのか?」

「い、いえ…。近くにいた龍に持っていかれちゃいました…」

「伊織か蓮だな…。まったく…」

「おねーちゃん、おねーちゃん!なんかおちてたぞ!」

「ん?凛か」

「これ」

「あぁっ!」


急いで走ってきたのか、凛の顔は紅潮していた。

それ以上に、フィルィは赤くなっていたけど。

…そして、凛に渡されたのは、誰かの下着だった。

もちろん、その誰かというのは、容易に想像がつくけど。


「わぁ、フィルィって大人っぽい下着を穿くんだね」

「か、かかっ、返してくださいっ!」

「よこのところがひもだ」

「や、やめてください、凛ちゃん!引っ張らないで!」

「ひびきが、これはしょーぶしたぎだっていってた」

「ち、違いますっ!勝負下着なんかじゃありません!」

「響、余計なことを教えるね…」

「それに、なんか、においがする。いいにおいだ」

「や、やめてくださいぃ…」

「って、おねーちゃんのまえでやれと、さくらにいわれた」

「わぁ…。お客さんに対して、えげつないことするねぇ…」

「うぅ…。もうお嫁に行けませぇん…」


凛を選んだのは、こういうことを、言われた通りにちゃんと言うからだろう。

まあ、響や桜に見つかったのが運の尽きというわけか。

フィルィは、凛から下着を奪い返して、しくしくと泣いている。


「まあ、きにするな」

「気にしますよぉ…」

「私も、そんな下着、穿いてみたいなぁ」

「は、穿かなくていいですよぉ…。それに、これは、松風師匠に穿けと言われただけで…」

「いいじゃん、紐。大人の女ってかんじがするよ」

「よ、よくないです…。ぼくは、もっと、普通の下着を穿きたいのにぃ…」

「それしか持ってないの?」

「いえ…。でも、今日はこれしかなくて…。朝起きたら、これ以外、全部濡れてたんです…」

「松風の仕業だな」

「うぅ…。松風師匠のせいで、ぼく、もうお嫁に行けないです…」

「大丈夫大丈夫。そんなことでお嫁に行けないなら、ほとんどの女の人はお嫁に行けないよ」

「いつも、なんで、ぼくばっかり、こんな目に…」

「いつもなんだ」

「はい…。この前、昔、テスカ師匠の弟子になったばかりの頃、迷子になったぼくを探すために、なぜか松風師匠が、ぼくの下着を懐から出して、セルタさんの狼さんたちに匂いを嗅がせていたと、セルタさんから聞いて…」

「下着泥棒じゃん…」

「うぅ…。ナナヤちゃんも、そう思われますよね…。松風師匠は、ぼくの匂いを覚えるために借りていったとか言ってましたが…」

「どっちにしろ、変態じゃん…」

「なんで、ぼくの下着ばっかり盗むんですかぁ…」


またメソメソと泣き出す。

ナナヤは、慰めるように背中を叩いて。

…凛も、ナナヤの真似をして叩いている。


「まあ、松風のことはともかく、ときめきは突然に訪れるものだよ」

「ときめき…ですか…?」

「そう、ときめき。こう、ズキューン!ってかんじの」

「は、はぁ…。あの、何の話を…」

「お嫁に行きたいんでしょ?だから、その前段階の、恋愛の話!」

「れ、れれ、恋愛ですかっ?」

「そうだよ、恋愛。師匠に下着をよく盗まれるフィルィでも好きになってくれる人と、しっぽりムフフな関係になること」

「お前、おっさん臭いぞ」

「うっ…。いいじゃん、どういう表現をしようと…」

「れ、恋愛なんて、ぼくにはまだ早いです…」

「恋愛に遅い早いなんてないでしょ。フィルィは、今は何歳なの?」

「十五ですが…」

「ちょうどいい時期じゃない。今のうちに、恋愛のひとつや二つしとかないと、勿体ないよ」

「えぇ…。でも、ぼくみたいな、ちんちくりんのヘタレを好きになってくれる人なんて…」

「自分でそんなこと言ってちゃダメだって。それに、全然ちんちくりんじゃないし。さあ、出会いはすぐそこに!」

「あ、怪しい社交会みたいな響きです…」

「いいのいいの、そんなことは。ほら、いい男を捕獲しにいくよ」

「え、あ、あの、というか、ぼくは、テスカ師匠に会いにきただけで…」

「そんなの、ここにいる限り、いつだって会えるんだし。それに、今日は下で寺子屋もやってるから、選り取り見取りだよ!」

「よ、選り取り見取りなんて…」


でも、満更でもなさそうな顔をしている。

やはり、恋愛には興味があるのだろうか。

…あるいは、さっきのような妄想のネタを探しているのだろうか。

それは、是非ともやめてほしいものだけど。


「早く来ないと、フィルィの荷物を開けて、もっと恥ずかしい下着を探すからね」

「や、やめてください…」

「入ってるの?」

「は、入って…ます…。松風師匠からいただいたものが…」

「へぇ。並べて見てみようよ。点数付けたりしてさ」

「お前、やっぱり思考回路がおっさんだな」

「う、五月蝿いなぁ…」

「ダ、ダメですよ…。恥ずかしいです…」

「じゃあ、ほら、早く」

「あ、ま、待ってください…」


下着を荷物の中に押し込むと、フィルィはナナヤについて走っていってしまった。

あとに残された私と凛で、ぼんやりとそれを見送る。


「おねーちゃん」

「なんだ」

「凛たちはいかないのか?」

「行きたいなら行けばいい」

「おねーちゃんはいかないのか?」

「ついていってほしいのか?」

「うん」

「なら、一緒に行こうか」

「それがいい」


よっこらせと立ち上がると、すぐに凛が手を繋いできて。

そして、ずんずんと引っ張って進んでいく。


「お前も、あやとりだけじゃなくて、何か勉強してみたらどうだ?」

「ん?」

「習字とか、算盤とか」

「よくわからん」

「勉強しないと、分からないままだぞ」

「べんきょーはたのしくない」

「そうか?じゃあ、六兵衛の家で、龍の話を聞いたのはどうだった?」

「りゅうはかっこいいからな」

「面白かったか?」

「うん」

「そうか。でもな、あれも一種の勉強だぞ。知らないことを知る、知ってることをさらによく知る。それが勉強というものだ」

「おねーちゃんのいってることは、よくわからん」

「そうかもな。…嫌な勉強は、今はしなくていい。算術だって、習字だって、もう少し分かるようになってから始めても遅くはない。今、大切なのは、やりたいことをやる、ということだ。ただし、ちゃんと規則には従わないといけない。その規則を、失敗を交えつつ学ぶのも、一種の勉強かもしれないけど」

「……?」

「まあ、今日は、お前みたいな子のための講義もあるようだから、それに参加してみようか」

「よくわからないけど、わかった」

「ああ」


凛の頭を撫でると、ニッコリと笑ってくれた。

そして、余計に張り切って、私の手を引いていく。

…フィルィとナナヤの様子も見れて、ちょうどいいな。

講義の内容は分からないけど、私も楽しみだ。

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