表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
463/578

463

厨房に着くと、美希が葱を刻んでいた。

味噌汁にでも入れるんだろうか。

葛葉が席に着いたところでようやく気付いたのか、手を止めてこちらを向く。


「昼ごはんか?」

「ああ」

「もう少し待ってくれ。今、味噌汁を温め始めたところだから」

「じゃあ、待たせてもらおうかな」

「そうだね」


翡翠と、葛葉を挟むようにして座る。

葛葉は待ち切れないのか、もう箸入れに手を伸ばしていて。


「んー…」

「ほらほら、倒すだろ。…はい、これ」

「ん~」

「翡翠、葛葉の好きな箸が分かってるんだな」

「まあね」

「そんなのがあるのか?」

「紅葉は、もう少し注意を払うべきだな」

「そうかもしれないな…」

「葛葉は、こうやって、ここに梟の模様を彫ってある箸が好きなんだ。その次が花の模様」

「ふぅん…。なんで梟なんだ?」

「福を呼ぶからじゃないの?」

「目が真ん丸で大きくて、可愛いからだろ。ほら、意匠で彫られてる梟は特徴付けがされてるからな。な、葛葉」

「うん」

「へぇ、さすが美希だね」

「これくらい、調理班なら知ってて当然だ」

「でもさ、女の子だったら、花とか兎とかの方が好きそうだけど」

「葛葉にとっては、あんまり可愛くないからだろ。兎は、可愛いというか、むしろ遊び相手だろうしな。花とか兎が好きな子もいるけど、葛葉はそうじゃないってだけだ」

「ふぅん…」

「他の子はどうなんだ?たとえば…りるとか」

「おかーさん!」


ちょうど、りるが厨房にやってきて、私に飛び付いてきた。

とりあえず、隣に席を移動して、私のいた席に座らせる。


「りるは、大人用の長い箸が好きだな。色は黒。意匠は少ない方がいいが、真っ黒はダメ」

「注文が多いな、お前は…」

「んー?」


とりあえず、私の箸がそれに近かったから、渡しておく。

すると、早速箸を持って、食べる体勢は万全のようだった。


「うーん…。あんまり箸は関係ないみたいだけど…」

「じゃあ、それを取り上げて、別の箸を持たせてみろよ」

「えぇ…。可哀想だし、いいよ…」

「なら、真相は謎のままだな。…よし、とりあえず、おかずだけ」

「肉じゃがか、今日は」

「夕飯にも出るからな。早々に飽きないようにだけしておけ」

「肉じゃが~」

「紅葉、ご飯をよそってやってくれ。私は味噌汁をよそうから」

「はいはい…」


立ち上がって、ご飯釜の方へ。

しゃもじを取って、茶碗とどんぶりを前にしたところで、そういえば、葛葉もりるもよく食べるよなと思い出して。

どうしたものか、翡翠か美希に聞こうと振り向くと、サンがいつの間にか増えていて、私の肉じゃがを食べていた。


「葛葉とりるは、どんぶりに入れてやれ。サンは、茶碗に気持ち多めで。それは、どれを使っても大丈夫だから」

「そうか…」

「あとな、サン。それは紅葉のだ。新しく入れてやるから、ちょっと待ってろ」

「えぇー…」

「ちょっとの間も我慢出来ない子なのか、お前は」

「むぅ…」

「よしよし、いい子だ」


とりあえず、どんぶり二杯と、茶碗に気持ち多めが一杯、普通のが二杯。

二つずつ持っていって、それぞれの前に置く。

…しかし、箸を選んだり、ご飯をよそったりするだけでも、こんなにも私は何も知らなかったのかと思ってしまう。

サンに食べられて、肉がほとんどない肉じゃがを突つきながら、そんなことを考えて。


「サン。肉ばっかり食べてたらダメだって、いつも言ってるだろ」

「だって、美味しいんだもん…」

「それはそうかもしれないけどな」

「りるもお肉欲しい!」

「ダメだ。みんな同じ分だけだ」

「うぅ…」

「唸るやつの肉は取り上げるぞ」

「唸ってない!唸ってないもん!」

「じゃあ、静かに食べることだな」

「はぁい…」

「まったく…」

「…美希は、みんなのこと、いろいろ知ってるんだな」

「ん?あぁ、いや、ごはんに関しては、そりゃ紅葉よりは知ってるだろ。いつも見てるし」

「オレは、みんなの箸の選び方も知らなかった」

「箸の好き嫌いなんて、本当に細かいことだろ。私は、もっと大事なことを、紅葉は知ってると思うけどな」

「もっと大事なことねぇ…」

「一人で全部を知ってやる必要はないと思うけどな。私が知ってること、翡翠が知ってること、紅葉が知ってること。全部足し合わせて、こいつらが知ってほしいと思ってることを網羅出来たら、それでいいと思う」

「私が知ってることって何なんだろうな…」

「さあな。それは、そのときにならないと、自分でもなかなか思い出せないことだと思うし、表に出てこない限りは他の人にも分かりっこない。まあ、だから、考え込むことでもないんだろうな。そのときになったら分かるのなら、それまでは考えなくてもいいってことだろ」

「そうなのかな…」

「どっちにしても、私はこの子の何をどれだけ知ってる、とひけらかすものでもないし。それに、紅葉は、この子たちのことをよく知ってやってると思うよ。箸の選び方とか、何にご飯をよそえばいいのかとか、そんなことは知らなくても」

「ふむ…。でも…」

「だから、それはそのときにならないと分からないんだって。今は、ごはんが冷めないうちに、早く食事を済ませることだけを考えていればいい」

「はぁ…。そうかもしれないな…」

「…羨ましいよ、私は。紅葉ほどのやつが、まだ、これ以上こいつらを愛するためには…なんて考えてるっていうのが。前にも言った気がするけどな」

「ふん…。私なんて、まだまだだよ…」

「ふふふ、そうか」


美希はニッコリと笑うと、また葱を刻みに戻っていった。

隣を見ると、サンが、小さな花が描かれた白塗りの箸で、ジャガイモを取ろうと四苦八苦しているところで。

…仕方ないな。

小さく切り分けてやると、サンは嬉しそうに笑って。


「お母さん、ありがと」

「大きいものは、小さく切り分けてから取るんだ。そしたら、取りやすいだろ?」

「うん」

「まあ、ジャガイモは固いからな。切れなかったら、私が切ってやるから」

「分かった」

「…お前は、糸こんが好きなのか?」

「糸こんも好きー」

「そうか。ほら、私のをやるよ」

「でも、サン、お肉食べちゃったから…」

「いいよ、そんなの。私は、お前たちがたくさん食べて喜んでくれるのが、一番嬉しいから」

「んー…」

「たくさん食べないと、大きくなれないぞ」

「うん…」


糸こんにゃくをサンの器に移すと、少し複雑な顔をしていたけど。

頭を撫でてやると最後には笑ってくれて。

うん、これだな、やっぱり。

…でも、美希はああ言うけど、私はそうは思えない。

さっきのを見るだけでも、美希や翡翠の方が、よっぽどこいつらのことを知っていて。

羨ましいのは私の方だ…。

愛し足りないとは言わないが、もっと愛してやれるんじゃないかと思う。

もっと、こいつらを…。

もっと…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ