表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
461/578

461

「なんだ、この愛くるしい生き物は」

「葛葉だけど。昨日もいただろ」

「そうだったかな…。昨日は散々転がされたから、よく覚えてない」

「テスカ、今日はいもむししないの?」

「もう簀巻きは御免被りたいな。何の拷問かと思ったよ」

「拷問じゃなくて、罰だけど」

「葛葉は尻尾が九本もあるんだな」

「九尾の狐だからな」

「ふぅん…。ほら、こっちに来い」

「なぁに?」

「…紅葉。こいつは抱き締めてもいいのか?」

「好きにしろよ…」

「そうか」


テスカが手を広げると、葛葉は迷うこともなく飛び込んでいって。

…まあ、なんというか、リカルのときも、こんなとろけきった顔をしてるんだろうか。

してるんだろうな。


「はぁ…。至福の一時だな…。チビっこは、やはり可愛い…」

「テスカ、おちちおっきい」

「ん?ふふふ、そうだろ?あの貧相な胸には帰りたくなくなるだろ」

「ふん。五月蝿い」

「やわらかい」

「あまり揉むな。また大きくなってしまうからな」

「ならないだろ…」

「紅葉は、揉んでもらう人に恵まれなかったんだな」

「じゃあ、お前は、節操もない尻軽女というわけだな」

「私はもとから大きいからな、揉まれずとも。ちなみに、処女だ」

「はいはい、そうかよ…」

「まくら~」

「ふふふ。これ以上ない、極上の枕だな」

「何をバカなことを言ってるんだ…」

「羨ましいのか?」

「乳がでかいだけで、それだけ威張れるバカさ加減が羨ましいよ…」

「胸を張って威張れるからな」

「ふん」


もう慣れたものだけど。

でも、どうして人はこうも不平等なんだろうか。

あいつの乳の半分くらいを私に寄越してくれたなら、ちょうどいい具合になるだろうに。

はぁ…。


「ちょっと、テスカさん!うちの葛葉に何させてるんですか!」

「あ、風華」

「葛葉、ダメだよ。あんな人のお乳なんて揉んだら、バカが伝染るから」

「えぇ…。酷いなぁ…」

「酷いのはテスカさんですよ。ほら、離れて」

「んー…」

「あのこと、まだ根に持ってるの?」

「まだって、セトはまだ禿げてるんですよ?これからしばらく禿げてるんですよ?」

「もう…。だから、セトが鱗龍だったら、あんなことには…」

「お前だったら、鱗でも剥がしそうだけどな」

「えぇ…」

「葛葉に近付かないでください」

「あぁ、私の愛しい葛葉…」

「まったく…。もう診察もお薬も要りませんね。では」

「えっ、あっ、おい!」


風華は、そのまま肩を怒らせて部屋を出ていってしまった。

それを見送ると、テスカはまた葛葉を抱き締めにかかって。


「何しに来たんだろうな、風華は…」

「さあ?」

「しかし、抱き心地が最高だな、葛葉は。リカルに退けを取らないぞ」

「ん~」

「それなら、リカルも早く抱き締めてやれよ」

「それは…。そうしてやりたいけどな…」

「どうしたの、テスカ?」

「…いや、なんでもない。ごめんな」

「……?」


テスカは笑っているけど、その心の中を察知したのか、葛葉は心配そうに頬に触れる。

まあ、子供は、こういう変化に敏感だからな。

…葛葉の心配を払拭しようとしてか、テスカは少し乱暴に頭を撫でているけど。


「ダメだな、私は…。姉として…」

「…思うんだけどな、理想の姉なんて追い求めなくていいんじゃないか?リカルが求めてるのは、ただ単に、姉であるお前なんじゃないのか?」

「………」

「強くて格好いいお姉ちゃんだとは言っていたけど、それだけ歳が離れていれば、そうも見えると思うんだけどな。そりゃ、普通のお姉ちゃんに比べたら、腕は立つかもしれないけど」

「リカルはきっと、今の私を見れば幻滅してしまう…。弱くて、格好悪くて…。あいつの失望した顔なんて見たくないんだ…」

「まったく…」


一貫してこれだからな。

姉として気負っていたというのもあるかもしれないが。

…いや、今のテスカの姿に幻滅しているのは、もしかすると、テスカ自身なのかもしれない。

まあ、どちらにせよ、可哀想なのはリカルだな。

テスカも、気付いていないはずはないと思うんだけど…。


「んー…」

「あっ…。葛葉…」


葛葉が、何か嫌がるようにして、私の方にやってきて。

そして、胡座の上に座ると、難しい顔をしてテスカを見つめる。


「………」

「リカルも、こうやって逃げていくんだろうな…」

「…あのな。葛葉は、お前のそのウジウジとした態度が気に入らないんだろうよ。誰だって、好き好んでそんなやつの傍にいようとは思わない。まあ、そういう意味では、リカルもそうだろうな。その態度を改善しないと、いつまで経っても、お前が考える、リカルの理想の姉にはなれないんじゃないか?」

「そんなこと言っても…」

「あれ、紅葉。加奈子と一緒に行ったんじゃなかったんだ」

「…翡翠。なんでここにいるんだ?」

「なんでって…」

「翡翠~」

「わっ、葛葉」


部屋に入ってきた翡翠は、早速飛び付いてきた葛葉を抱き上げて。

それから、テスカを避けるように大きく迂回して、こちらまで来る。


「加奈子、伝言板を取りに行ったよ」

「そうか。…一人でか?」

「いや、望と。てっきり、紅葉も一緒に行ってるんだと思ってたけど」

「望と行ったならいい」

「えぇ…」

「それより、お前はなんでここにいるんだ。昨日もそうだったけど」

「えっ?何が?」

「仕事はどうしたんだって聞いてるんだ」

「あぁ、仕事。仕事は休みだよ」

「休み?」

「うん。まあ、いろいろあってね」

「いろいろって何だよ」

「ほら、どうしても調子が悪いときってあるだろ?月に一回くらい」

「お前は男だろ。ふざけてないで、ちゃんと答えろ」

「はいはい。昨日のは仕事のうちだよ。子供たちの見張り役。あの先生のお手伝いってことで、依頼されたんだ。それで、今日は本当に休み。ツカサもリュカも働きすぎなんだけど、月に一日か二日くらいは休みを取らされるんだよ」

「取らされる?」

「うん。商店の集まりみたいなのがあって、そこの規則で、僕たちみたいな遊撃手は負担が掛かりやすいから、休養日を設けることっていう風になってるらしいんだ」

「まあ、仕事内容が決まってない分、負担は大きいかもしれないな」

「そうなんだよ。力仕事も多いしさ」

「でも、お前は一ヶ月も働いてないだろ」

「来月が割と立て込むから、休めるうちに休んどけってさ。まあ、ツカサは相変わらず働いてるけど。あの仕事が好きなんだろうねぇ」

「そうだろうな」

「いくら好きな仕事でも、休める日くらいは休んでおいた方がいい気はするけど…」

「前に休まされたことがあったな、そういえば」

「そうなの?」

「あのときは、たしか昼までの休みだったかな。昼からは、涼の食堂で」

「あぁ、そうなんだ」

「…まあ、事情はだいたい分かった」

「そっか。ということで、僕は今日は休みです」


そう言いながら、葛葉の尻尾を手櫛で鋤いている。

美希が付けたのか、甘い香油の匂いも一緒に広がって。


「今日は、葛葉とゆっくり遊んであげられるね」

「えへへ~」

「よしよし」

「………」

「よしよし…」

「………」

「翡翠?どうしたの?」

「…紅葉。あれ、どうにかしてくれよ」

「テスカ。いじけるのはやめろ」

「そんなこと言ったって…」

「まったく…」


どうすればいいんだろうな。

結局、昨日桐華が連れ出したのも、効果がなくなってしまってるし。

…いや、昨日のは無理矢理だったから、もっと根本から解決しないといけないだろう。

こいつの怯えをどうにか取り去って、リカルと向き合わせてやらないことには…。

そのためには、どうすればいいんだろうか…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ