表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
459/578

459

夕方になり、寺子屋も終わって。

また医務室の屋根縁に戻ってきて、冷たくなってきた風に当たる。


「ふぅ…。ヒヤヒヤした…」

「何がヒヤヒヤしただよ。セトの毛をむしってただけのくせに。ハゲてたぞ」

「それは…。ちょうどむしりやすいところに毛が生えてたから…」

「風華に怒られても知らないぞ」

「はぁ…」

「ため息をつきたいのはこっちだっての…」


まったく、こいつは今日一日何をしてたんだ。

桐華が連れ出したのはいいが、それ以降何も進展がなかったし。

…私か?

私が悪いのか?


「そうだ。リカルの彼氏はどんなやつなんだ」

「だから、あいつは彼氏なんかじゃないって言ってるだろ。何回言ったら分かるんだ」

「でも、楽しそうにしてたし…」

「一緒に遊んでるんだから、そりゃ楽しそうにもするだろ」

「顔もよかったし…」

「それはなんとも言えないけど」

「何の話をしてるんだ?」

「わっ!蛇!」

「蛇…」

「ちょうどよかった、翡翠。こいつが五月蝿くて仕方ないんだ」

「あ、昼間の」


翡翠は、ゆっくりと旋回しながら屋根縁に降りてきて。

…相変わらず、図体だけはデカいな。

屋根縁がすぐに狭くなってしまう。


「ずっと隠れてたよね?」

「紅葉、なんだ、このデカい蛇は」

「だから、蛇じゃないって!龍だよ、龍!」

「あぁ…。龍か…。そういえば、蛇足も生えてるな」

「蛇足じゃないってば…」

「こいつも座敷わらしらしい。お前の旅団にいるのと同じで」

「ふぅん…。座敷わらしって、龍なのか?子供じゃないのか」

「一般に、非常に強大な力を持つ妖怪のことを座敷わらしって言うんだ。人里の周りには、小さな子供の姿をした座敷わらしが遊びにきたりするから、人間にはそういう姿が定着してしまったというだけで」

「ふぅん…」

「それで、昼間、ずっとセトの陰に隠れて、こっちを見てたよね。なんでなの?」

「お前、もしかして、あのときのリカルの彼氏か?人間に化けてたのか?」

「あぁ…。やっぱり、あのときの寒気は本物だったんだな…」

「どうなんだ!」

「大声を出すなよ…。僕は、リカルちゃんの彼氏じゃないよ。彼女がいないって、半ばバカにされてるけど…」

「リカルの彼氏なんだな!」

「紅葉…。この人、話が通じないんだけど…」

「知ってる」

「お前が、本当にリカルに相応しい男か試してやる!」

「いや、ちょっと、話を聞けよ!」

「問答無用!」

「翡翠、本気を出さないと、たぶん負けるぞ」

「と、止めてくれるんじゃ…」

「はぁ…。まったく、手間の掛かる…」


救難信号が出たので、翡翠に殴り掛かるテスカの腕を掴んで止める。

そしたら、錯乱してたときよりよっぽど暴れて。

本当に面倒くさいやつだな…。


「離せ、紅葉!リカルに付く悪い蛇を退治しておかないと!」

「だから、蛇じゃないって…」

「お前がいたら、リカルは一生結婚出来ないな…。まあ、とりあえず、話を聞け」

「何の話だ」

「翡翠の話だよ…。お前は、さっきまで誰と話をしてたんだ…」

「この蛇と」

「どんな内容だった」

「こいつが、リカルの彼氏だって」

「あのな、相手の言葉を聞いてないんだったら、それは話をしていたとは言わない」

「むぅ…。どんな話をしてたんだ…」

「もう一回言ってやれ」

「はぁ…。僕は、リカルちゃんの彼氏じゃない。今日はたまたまくじ引きで組になって、前から面識があったから、リカルちゃんもああいう軽口を…」

「ふぅん…。なんだ、そうだったのか。安心した」

「なんか、どっと疲れたよ…」

「半日、無駄に悶々してたってわけか。まったく、早く言えよ」

「………」

「まあ、すまなかったな。全部水に流せ」

「なんで命令形…。もういいけど…」

「ははは。なぁんだ、安心した」

「もう、帰っていいかな…」

「ああ。お疲れさま」

「本当だよ…」


翡翠は一度ため息をつくと、そのまま私の部屋まで飛んでいって。

結局、あいつは何しに来たんだろうか。

たまたま来ただけなのか?

…まあ、またあとで聞いておこう。

とりあえず、今は、この面倒くさいやつに何か罰則を加えてやりたい気分だ。



夕飯も終わって、風呂にも入り。

簀巻きにされたテスカがいる以外は、いつも通りの就寝直前の時間。


「おい、紅葉。いつになったら、解放してくれるんだよ」

「今晩はそれでいいんじゃないか?」

「別にいいけど…。じゃなくて、これ、解いてくれよ!」


こっちにゴロゴロと転がってきて、体当たりを仕掛けてきた。

…とりあえず、蹴り返しておく。


「うぅ…。気持ち悪い」

「バカなんだな、お前」

「紅葉が解かないからだろ…」

「ふん」

「…なぁ、紅葉。本当に、こっちで寝かせるのか?」

「いいじゃないか。どうせ、お前はそっちの屋根縁で寝てるんだろ?」

「それはそうだけど…」


まあ、さっきまで目の敵のように扱われていたからな。

翡翠にとっては、さぞかし居心地の悪いことだろう。

「でも、やっぱり、いつ殴り掛かってくるか分からないし…」

「私を何だと思ってるんだ」

「話の通じない、面倒な人…」

「強ち間違いではないな」

「はぁ…」

「わっ、何これ、簑虫?」

「どっちかって言うと、芋虫?」

「簀巻きになったテスカだ」


いつの間にやら、部屋の入口に風華とナナヤがいて。

風呂上がりなのか、二人とも髪がまだ濡れていて、ナナヤは首に手拭いを掛けている。

…どこのおっさんだよ。

私もよくやるけど…。


「あぁっ!テスカさん!」

「おぉ、風華。酷いんだ、紅葉が。病人に…」

「酷いのはテスカさんですよ!なんで、セトの毛をむしったりしたんですか!」

「えっ?いや、それは、翡翠がだな…」

「僕の方に飛ばさないでくれよ…」

「翡翠だって、関係あるだろ」

「テスカが勝手に勘違いしてたんじゃないか。僕は、むしろ被害者だよ」

「被害者は私だ!見ろ、この簀巻きを!」

「一生簀巻きでいいんじゃないですかね」

「あーあ、風華を怒らせちゃったね、テスカ」

「なんでだよ…。セトに毛が生えてるのが悪いんだろ」

「滅茶苦茶だな、お前」

「なぁ、風華でもナナヤでもいいから、これ、解いてくれないかな…」

「嫌です」

「私も、風華が怖いから嫌だなぁ」

「えぇ…。って、蹴るな、風華!想像以上に気持ち悪いんだからな!」

「知らないです、そんなこと」


風華は、簀巻きのテスカを蹴り転がして、セトの仇討ちをしている。

まあ、今は風華だけだからまだマシだけど、チビたちが帰ってきたらどうなるだろうか。

…リカルの前でも、かつてはこんなお姉ちゃんだったんだろうか。

お世辞にも、強くて格好いいとは言えないけど。

でも、このテスカなら、リカルが大好きになるのも分かる気がする。


「やめろ、お前、本当に!」

「知らないです、テスカさんなんて」


分かるからこそ、なおさらリカルの前に出てやるべきだとも思う。

たとえ、理想の姉でなかったとしても。

…まあ、それはテスカの考えるところだ。

テスカが出たくないなら、それはそれで仕方ない。

でも、それでも、と思う。

どうにかならないのかな…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ