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「旅団はいつからやってたんだ?」

「ほんの二年ほど前からだ。もともとは、私の師匠が立ち上げた旅団で…」

「ふぅん」

「師匠は、ここ一年ほど行方不明なんだ。ちょっと出掛けてくるとか言って…」

「所在も分からないのか?」

「いや…。行く先々で、師匠の話は耳にするんだけど…。師匠は師匠で、神出鬼没だから…」

「そうか」

「はぁ…。師匠、すごく怒るだろうな…」

「裏切ったやつは、いつから旅団に入ってきたんだ?」

「半年ほど前かな…。浪人で雇ってくれる先もないから、使ってくれないかって…」

「怪しいところはなかったのか?」

「怪しいところ…。真面目だったし、仕事熱心だったし…。でも、そういえば、今回の仕事は、あいつらが持ってきた仕事だったな…」

「そうか」


人目の少ない場所を通る仕事を選んできたのか、依頼主もそちら側の人間なのか。

まあ、その依頼主もかなりの大怪我をしているという話だし、前者の可能性が高いかな。


「師匠にいつも言われてたんだ…。私は人を信じすぎるって…。人を信じすぎた結果がこれだ…。師匠にも、会わせる顔がないな…」

「………」

「リカル…。ごめんな…」

「まったく…」


いつも、こんなかんじなんだろうか。

落ち込むときは、とことん落ち込んで。

昨日は、あれだけいろいろと喋っていたのに。

兆候はあったけど…。

一晩考えたせいか?


「師匠…。私は、やっぱり師匠がいないとダメみたいです…」

「お前、今日は卑屈の極みだな」

「師匠…」

「…師匠って誰なんだよ」

「………」

「まったく…」

「私の尊敬する人だ。傭兵として生き残る知恵や、女としての心得なんかを教えてもらって…。感謝してもしきれない」

「師匠は女なのか?」

「いや、男だけど」

「…じゃあ、女としての心得って?」

「紅葉や風華が昨日言っていた、オカマが一番近いかもな。師匠自身は、自分は女だと言っていた。それに、そんじょそこらの女じゃ太刀打ち出来ないくらいの美形でな。女の格好をしていれば、誰も男だとは気付かないくらいだった」

「ふぅん…」

「旋棍が上手くて、私は一度も勝ったことがない」

「お前も旋棍を使うのか?」

「まあ、使うこともあるけど、素手と半々といったところだな」

「ふぅん…」

「紅葉は、旋棍も扱えるのか?」

「ある程度はな。戦闘班は、もともと戦をするために作られた部隊だから、あらゆる武器に対応出来るように訓練されているんだ。今はあんまりやってないけど」

「戦では、何を相手にするか分からないからな…。動物を使う者もいるようだし」

「私は好かないがな、そういうやり方は。飼い慣らして訓練した犬や狼なんかを使うんだろ。あいつらは、人間よりもよっぽど強い」

「ああ。私の旅団にも、狼の群れを率いているやつが一人いるんだけどな。今回の任務は嫌な匂いがすると言って、辞退していた」

「まあ、群れを守るための正しい判断だったというわけだ。ああいうやつらは、こういうときに、一番先に毒を盛られたりするからな」

「ちゃんとあいつの言うことを聞いておけばよかったと、今更ながら思うよ…。群れの狼も、裏切った二人には絶対に懐かなかったし…」

「まあ、そういうことに対しては敏感だからな。あいつらは、群れの中の家族を傷付けようとしているやつの匂いは、きっちりと嗅ぎ分けてる」

「そうだな…。はぁ…」

「ため息をつきたいのはこっちだっての」

「そうか…。そうだな…。すまないな…」


謝りながら、まだいじけている。

だから、そういうのもやめてほしいんだけど。

…まあ、今のこいつに何を言っても無駄なのかもしれない。

いつになったら、こんな陰鬱な状態から回復するんだろうか。


「今日はどんより曇り空だ…」

「お前だけな」

「はぁ…」

「外に出て、少し身体を動かしてみたらどうなんだ。気分もスッキリするかもしれないだろ」

「今は、そういう気分じゃない…」

「そういう気分じゃないからやるんだろ」

「そうかもしれないけど…」

「まったく、いつまでいじけてる気なんだよ」

「何?何してるの?」

「また面倒くさいのが増えた…」


医務室の入口に立っていたのは、いつも通りに巨大な水筒を背負った桐華だった。

私とテスカを交互に見比べながら、中に入ってきて。

「あ、この人ってあれだよね。昨日暴れてた人!」

「そうだけど」

「紅葉、格好よかったなぁ。背負い投げだけで倒しちゃったんだもん」

「…お前、見てたのか」

「うん。お茶を買いにいった帰りに、人混みが…いたっ!な、何するのさぁ…」

「見てないで手伝えよ。何が格好よかったなぁだ」

「だ、だって…。紅葉一人でも倒せそうだったんだもん…。実際倒したし…」

「あのなぁ。だからって、手伝わなくていい理由にはならないぞ」

「いたっ!何回殴るのさ…。頭が悪くなったら、紅葉のせいだからね…」

「これ以上悪くならない」

「うぅ…」


水筒を置いて、付属の湯呑みに、不満そうにお茶を入れ始める。

それから、それを自分で飲んで。


「意地悪紅葉にはあげない」

「要らないけどな」

「うぅ…」

「…お前たち、なんだか仲のいい姉妹みたいだ」

「みたいっていうか、まあ、ほとんど姉妹のようなものだし。いちおう、一般的には幼馴染みって言うのかな」

「腐れ縁だろ」

「ちなみに、ぼくがお姉ちゃんで、紅葉は妹」

「ここまで頼りない姉は、お前以外にはいないだろうな」

「そんなことないよ。ねぇ?」

「………」

「あー。今は、そいつにそういう話題は振るな」

「え?なんで?…って、痛いよ!なんで、また殴るの!」

「お前が面倒くさいからだ」

「むぅ…。お姉ちゃんに逆らっちゃダメなんだよ!」

「そんな規則はない」

「あるよ!」


桐華は不満そうな顔をすると、また湯呑みにお茶を入れて飲む。

いつもこれだけガブ飲みしてるのに、厠に行きたくならないんだろうかと思うんだけど。

こいつが、私たち以上に厠へ通ってるというような様子は全くない。

…あるいは、こいつの膀胱は特別容量が大きいのか?

考えられなくはないが…。

まあ、どちらにせよ、こいつの能天気な空気が、テスカの暗い雰囲気を吹き飛ばしてくれないかと、少し期待してみようか。

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