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「師匠、おはようございます」

「ふぁ…。おはよう…」

「今日は、道場の日です」

「そういえば、そうだったな…」

「昨日は、ミケちゃんにいろいろ教えてもらったのですよ」

「そうか。よかったな」

「はいっ。撫子は、やはり、あまり乗り気ではなかったようですが…」

「ふぅん…」

「でも、楽しかったですよ。呪術も、なかなか面白いのですね」

「そうなのか?」

「はい。奥が深いのですよ。とりあえず、最初は妖力の制御を上手く出来るようにですね」

「…お前、道場はいいのか?」

「あぁ、そうでしたっ。すみません、師匠。報告は、また後日ということで」

「そうだな」

「では、失礼いたしますっ」

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」


秋華はお辞儀をしてニッコリと笑うと、そのまま部屋を出ていく。

…テスカには気付いていたんだろうか。

まあ、どっちでもいいことだけど。


「………」


風華もテスカも、秋華が来たことにも気付かずにぐっすりと眠っているし。

私も、もう一眠りするかな…。



目が覚める。

ちょうど太陽が昇り始めたあたりらしく、空が明るくなり始めていた。


「おはよう、紅葉」

「おはよう。もう起きてたのか」

「傭兵は、雇用主よりも早く起きて、雇用主よりも遅く寝る。新妻のようなものなんだよ」

「ふん。まあ、まだゆっくり寝ていてもいいんだぞ」

「うん…。でも、別に怪我とかはしてないんだし、動けるなら動いておきたい」

「外傷はないかもしれないが、筋を傷めていたりするかもしれないだろ。風華に止められている間は、大人しくしてろ」

「大丈夫だって。ほら、この通りだ」


少し腕を回してみるが、すぐに苦悶の表情を浮かべて。

それでも、なんとか取り繕って、引きつった笑顔を見せる。


「傭兵には痩せ我慢も必要かもしれないが、今のお前は傭兵じゃない。大人しく寝てろ」

「でも…」

「でもじゃないだろ。それでまた身体を壊して、復帰が遅れたりしたら、何も意味がないじゃないか。そんなことも分からないのか?」

「紅葉は、なんだか、母さんみたいだな…」

「そりゃどうも。複雑な気持ちだけど」

「あ、いや、老けてるとか、そういう意味じゃないぞ」

「そうかよ…」

「はぁ…。母さん、怒ってるかな…」

「…様子を見に行ったらどうなんだ。風華の許可が下りたら、だけど。家は近いんだろ?」

「そうだけど…。会わせる顔がない…。家出して、勝手に旅団作って、裏切りで壊滅しかけて…。呆れられてるに違いない…」

「なんで呆れられてるんだよ。会ってみないと分からないだろ」

「分かるよ、会わなくても…」


テスカは痛みを堪えながらまた布団に戻ると、掛け布団を深く被ってしまって。

…今回の一件は、テスカの心にかなり響いているらしいな。


「私は、これからどうしたらいいんだろうか…」

「朝から、そんな雰囲気を醸し出さないでくれないか」

「少しずつ積み上げてきた信用も、もう失墜してしまっているだろうし…。やっと軌道に乗り始めた傭兵稼業も…」

「やめてくれ。こっちまで気が滅入ってしまうだろ」

「はぁ…。今日は、なんだか憂鬱な気分だ…」

「まったく…」

「うちみたいな弱小旅団は、信用がなければ仕事も来ない。仕事が来なくなれば、経営も立ち行かなくなって、潰れるしかない…。そうなれば、みんなの給料も払えなくなる…。奥さんや子供がいるやつもいるのに…」

「お前は、仲間が第一なんだな」

「当たり前だろ。仲間がいなければ、今の私はいない。みんな、家族なんだ。昨日も言ったかもしれないけど」

「家族、ねぇ」

「そうだ。家族だ」

「じゃあ、リカルはどうなんだよ」

「リカル…」

「会いにいってやれよ。お姉ちゃんの帰りを、ずっと待っているんだから」

「…やっぱりダメだ。私は、リカルのために、最強のお姉ちゃんでいてあげないとならないんだ。最強の、誰にも負けない」

「まあ、今のお前とは全く正反対かもしれないな。今のお前は、弱くて脆い」

「ああ、反論出来ないよ…」

「だけど、だからと言って逃げるのか?ずっと、お姉ちゃんが帰ってくるのを待ってるリカルから。リカルは、お前にとっての何なんだよ」

「………」


テスカは、さらに布団を深く被って、小さく丸まってしまう。

これでは、最強のお姉ちゃん、などというものからは遠く掛け離れているな。

今のテスカは、むしろ、リカルよりも小さな存在になってしまっている。


「私は…どうすればいいんだ…」

「それは、お前自身で考えることだろ」

「………」

「ふぁ…。あれ、姉ちゃん、起きてたんだ…」

「おはよう、風華」

「おはよ…。テスカさんは…?」

「今は、考えることがたくさんあるようだな」

「……?」

「まあ、そっとしておいてやれ」

「テスカさん、起きてるの?」

「いや…。まだ寝てるのかもしれないな」

「何?朝からとんち?」

「そんなかんじだ」

「はぁ…。そっか…」


風華はため息をつくと、テスカの布団の方を見て。

まだ寝てると判断したのか、そのまま部屋の隅の水場へ行って、顔を洗い始める。

…朝から重い雰囲気だけど、テスカの心の傷はそれだけ大きいということなのかもしれない。

きちんと、そのあたりも治療していかないといけないんだけど…。

なかなか難しいかもしれないな。

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