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城に戻ると、少し騒がしいみたいだった。
「何かあったのかな?」
「さあ?緊急の伝令はなかったし、大したことでもないんじゃないか?」
「ふぅん」
「それよりこいつらだ」
「うん」
望と響は、お腹がいっぱいになったからか、おやつを食べたあとすぐに眠ってしまった。
風華と私で一人ずつ背負って帰ってきたんだけど。
灯は市場を回ってから帰ってくるらしい。
と、曲がり角でバッタリ衛士の一人と出会った。
「あ、隊長」
「何かあったのか?」
「はい。各村の代表が来たんです」
「ほぅ。またあとで挨拶しにいかないとな」
「夕飯のときにするらしいですよ。まだ着いてないところもあるから、ということで」
「分かった」
「はい。では」
そう言って、忙しく走っていった。
「大変そうだね」
「ああ」
「…部屋に戻ろっか」
「そうだな」
部屋に戻ると、大きく広げられた布団に、光、葛葉に加え、何人か知らない子供も寝ていた。
「…どこの子だろ」
「村の子じゃないか?」
「うーん…うちの村の子はいないみたい」
「そりゃ、小さい子は連れて来てないからね」
「ひゃぅ!」
「びっくりしすぎだよ、風華」
「だって…」
「んぅ…」
「ほら」
空は響を抱き上げ、布団に寝かせる。
私も、そっと望を下ろす。
「それにしても、空姉ちゃん、どうしたの?」
「どうしたの、はないでしょ。見なさいよ、これ」
空は、白地に黒い糸で刺繍されたタスキを見せる。
「ヤゥト…代表?えぇっ!?空姉ちゃん、代表になったの!?」
「そうだよん」
「すごーい!」
「利家には負けるよ。なんたって、一国の王なんだからね」
「そ、そうかな」
「なんで風華が照れてるんだ」
「風華は、利家のこと大好きだもんね~」
「そ、そんなことないもん!」
風華は、顔を真っ赤にさせて否定するが、そうすればするほど、本当に利家のことが好きなんだってことが伝わってくる。
「…何話してるんだ?」
「あ、利家。ちょうど良いところに」
「全然良くない!」
「……?」
「利家は風華のこと、好き?」
「ん?好きだけど、それがどうかしたか?」
「じゃあ、紅葉は?」
「「はぁっ!?」」
唐突に、何の脈絡もなしに、いきなり、意表を突くような質問が利家に投げ掛けられる。
「そ、それは…」
「な~に~?全然聞こえな~い」
ニヤニヤとして、わざと大きな声を出す。
これはもう、私にとっても拷問だよ…。
ジッと利家の答えを待っていると、意を決したように私の方を見て、手を取って強く引く。
そして、そのまま…。
「……!」
「おぉ~」
「僕は紅葉を愛してる。…これが答えだ」
「よく言ったね。あの利家が、こんな大胆になるとは思わなかったけど」
すると、ハッとしたように離れる利家。
「ご、ごめん!」
「………」
「怒ったか…?」
「ああ」
「ごめん!」
「オレが怒ってるのは、お前がそうやって謝ってることにだ」
「え…?」
きょとんとして顔を上げる利家に、さっきのお返しをしてやる。
「はぁ…。もうちょっと、人目をはばかったらどうなのさ。ほら。風華なんて、卒倒寸前だよ」
「あ…え…?な、何?どうしたの?」
「ね?」
そう言われると、恥ずかしさが一気に溢れてきた。
よく考えてみたら、なんで風華も空も見てる前であんなことをしたんだろ…。
誰が来るとも分からない、廊下のど真ん中で。
うわぁ…。
は、恥ずかしい…。
「って、そもそも空が変なことを聞いてくるからだろうが。なんで、紅葉が好きか、なんてことを聞いてくるんだよ…」
「良いじゃない。たまには。お互いの気持ちも分かったんだし。終わり良ければ全て良し」
「お前なぁ…」
「それよりさ。何か用があったんじゃないの?」
「あぁ、そうだった。…忘れるところだったじゃないか」
「思い出せて良かったね~」
「はぁ…まったく…。まあ、とにかく来てくれ」
「はいはい。代表も思ったより大変ね」
「当たり前だろ。ほら、遅れてるから早く」
「そうね。早く終わらせて紅葉との逢瀬を楽しまないといけないし」
「空!」
「あはは。じゃあ、またあとでね」
お、逢瀬なんて…。
利家も忙しいし…。
それに、はっきりと知られていたら、逢瀬とは言わないんじゃ…。
細かいことは気にしないの、という風に手を振って、空は利家と一緒にどこかへ行ってしまった。
…利家に言ってもらったのは二回目。
私の気持ちをはっきりと表したのは初めてだ。
そういう意味では、空は良いことをしてくれたのかもしれない。
けど、やっぱり納得がいかない。
あそこは、次に風華の気持ちを聞くところだろ!
なんで私のことを…。
「あー!もう!」
「わわっ!?」
「私は寝る!」
「え…あ…。じゃあ、私も…」
恥ずかしさが、また込み上げてきた。
布団に潜り込んで、それを堪えるのに必死になっていた。
誰にも…見られてなかったよな…?
ふぅ…。
何なんでしょうかね、この展開は。
自分で書いてて疑問に思います。