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やっとの思いで、六兵衛の屋敷に着く。

思った通り、凛と撫子は真っ直ぐに歩くことがなく、ユカラや望たちから遅れるばかりで。

そして、澪も澪でいろいろなものを見て回ったり、お菓子なんかがあるとねだってみたり。

…そのあたりは、子供らしくなくてもいいと思うんだけど。

お菓子をねだられても、今日はお金も持ってきてないし。

しかし、やっぱりこれは澪の地なのか?


「やあ、いらっしゃい。待っていましたよ。たくさんで来てくれたんだね」

「すまないな、連絡もしないで。迷惑だったか?」

「いえいえ、とんでもない。嬉しいですよ。さ、中にどうぞ」

「お邪魔しまーす」


凛は、もう中に入ってたけど。

姿もすでに見えない。

…まあ、それは置いといて、みんなでぞろぞろと門をくぐって。

そして、玄関から上がり、庭の見える廊下を歩いていく。


「あれはなんだ?」

「庭石だろ」

「ニワイシ?」

「庭に置く石」

「ふぅん。あんなものを置いて、楽しいのか?」

「楽しいかどうかは知らないが、個人の趣味だろう」

「ふむ。では、あれはなんだ?」

「鹿威しだ」

「……?」

「水が溜まるとあの竹の先が下に傾いて水を出す。空になると、またもとに戻り、石を打って音を鳴らすんだ」


と、ちょうどいっぱいになって、音を鳴らした。

澪は興奮したように手を引っ張って。


「鳴ったぞ、紅葉!」

「そうだな」

「いい音だったな」

「ははは。その歳で鹿威しのよさが分かるとは、なかなか有望な子ですな、衛士長さん」

「ん?あぁ、そうだな…」

「お前はたしか、六兵衛だったか」

「そうだよ。鹿威しが気に入ったのならね、水琴窟なんかもきっと気に入ると思うよ」

「スイキンクツ?」

「この庭に水琴窟まで作ってるのか。もはや酔狂ものだな」

「ははは。最高の褒め言葉ですな」

「まあ、褒めたつもりだったからな」

「紅葉、スイキンクツって何だ?」

「地面の下に空洞を作り、入口の穴は小さくして、中にある程度水が溜まるようにしておくと、雨なんかが降ったときに水の滴り落ちる音が空洞内で反響して、綺麗な音になるんだ。まあ、ただ穴を掘るだけでは出来ないし、人為的に作るのはなかなか難しいんだけど」

「ふぅん…。どこにあるんだ?」

「それは、雨が降ってからのお楽しみだね。まあ、今日は降りそうにはないけど」

「むぅ…」

「また雨が降ったらここに来なさい。いつでも歓迎するよ」

「うむ。ありがとう」

「いえいえ」

「紅葉、楽しみだな!」

「ん?オレも行くのか?」

「…行かないのか?」

「はぁ…。分かった分かった…。行けばいいんだろ…」

「うむ。行こう」


甘える仔犬のような顔をされても困る。

まあ、私も水琴窟に興味があるのは確かだが。

…正体を知っているから、余計に澪の実態を掴み難い。

この姿だけを知っていたとしたら、六兵衛のように触れ合えるだろうに。

でも、この笑顔が演技なんだとしたら、いい役者になれるだろう。


「さあ、こちらへどうぞ」

「わっ、おっきい部屋」

「応接間です。今、お茶を持ってこさせますので、掛けてお待ちください」

「あ、お構い無く」


と言いながら、ユカラは大きな椅子に腰掛けて。

いつもの社交辞令だな。

私も椅子に座る。

そしたら、手を繋いでる澪も自動的に座ることになる。


「いつまで手を繋いでいるんだ?」

「嫌なのか…?」

「そういうわけじゃないけど…」

「ふふふ。いいじゃないか。嬉しいんだ、新しい主に仕えることが出来て」

「仕える…?」

「うむ」


オレから言わせてみれば、新しいチビっこが増えたような印象しかない。

えらく身体の大きいチビっこが。

これが、澪の地であろうとなかろうと。


「我ら龍の本分は、力の強さにあらず。心から信頼する主の傍にお仕えしてこそ、一人前なのだとお師匠さまが言っておられた。私も、その言葉を胸に、前の主に仕えていたのだ」

「そいつが一人目なのか?」

「うむ。紅葉が二人目だ」

「…ずっと気になっていたんだがな。お前は、人間に換算すると何歳くらいなんだ?」

「ん?そんなことは考えたこともないが、せいぜい十五から二十といったところだろう。私もまだまだ未熟者だな」

「ふぅん…」


大きさや話し方は、本当に妖怪に関しては全くあてにならないな…。

こいつに限っては、変化をしたあとの姿もあてにならない。

そもそも、澪は男だと銀太郎が言っていたし。

今のこいつは女の子だ。


「お待たせ致しました。お茶です。どうぞ、召し上がってください」

「あ、わざわざすみません」


社交辞令の返答は、すっかりユカラの役になってしまっているな。

と言うか、ユカラ、望、澪、私以外のやつらは、応接間の物珍しい調度品を見たりなんかして、椅子にも座っていない。

…まあ、こんなものだろうな。

あとでちゃんと社交辞令くらいは教えておかないと…。


「おい、お前ら、集まれ。話が始まるぞ」

「はぁい」

「すまないな、ジッと出来なくて」

「この年頃の子はみんな、そういうものでしょう。壊されて困るものもありませんし、自由に見させてあげてやってください」

「まあ、それはいいとして、今日は話を聞きに来たんだ。珍しい調度品は、そのあとだよ」

「それもそうですか。ありがとうございます」

「紅葉、何の話を聞きに来たんだ?」

「お前、聞いてなかったのか?龍の話を聞きに来たんだよ」

「龍?」

「そうだ」

「ふむ」

「もしかしたら、キミのご先祖さまの話かもしれないね」

「私の?」

「そう。龍の起源について」

「……?」

「まあ、それはあとで聞くことにしよう」

「そうですな」

「何にしても、私は紅葉がいれば幸せだ」

「そうかよ…」

「ははは。やはり衛士長さんには、人望がありますな」

「はぁ…。そうだな…」


澪はニコニコとして、ピッタリとくっついてくる。

まあ、別にいいけど…。

…そして、どこかに行ってしまった凛を除き、みんながきちんと揃って、いよいよ六兵衛の龍の話を聞く段になった。

どんな話になるのか、あと、澪がどう思って聞いているのか。

楽しみだ。

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