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「美味いな、これも!灯が作ったのか?」

「あいつは非番だから、夕飯は作ってない。昼ごはんだけ、特別だ」

「へぇ。いい板前を揃えてるんだな」

「そりゃどうも。おい、その稲荷はあんまり食べるなよ。子供たちの分だ」

「ん、そうか。あまりに美味しいんで、つい」

「しかし、美味いと言いながら、それほど食べないんだな」

「小食だから。そんなに食べられないんだよ」

「ふぅん…。身体はあんなに大きいのに」

「大和だって、そうじゃないの?あんまり食べないでしょ?」

「一日に鹿一頭とか言ってたが」

「あの大きさで、でしょ。成長期とかは別としてさ、僕らはそこまで食べないでもいいんだよ。妖力さえあればね」

「ふぅん…。でも、食い意地は張ってるんだな」

「こんな美味しいもの、食べないと損だし。…ちょっと苦しいけど」

「まったく…」


撫子の方を見ると、りるにも負けないくらい、何かいろいろと食べてるみたいだった。

まあ、歳から考えれば、りるの食べる量の方がかなり多いんだろうけど。


「大和は、力も持たずに式だけ強力なのを持って自分を封印した者は、即座に食べてしまうと言っていたけど」

「んー。まあ、小食とは言っても、僕だって気に入らない人間がいたら食べることもあるしね。よく川にゴミを捨てに来るやつとか。その辺は臨機応変にだよ」

「ふぅん…」

「いつの間にか行方不明になってる人間とかがいたら、僕たち誰かのお腹の中にいるかもね」

「はぁ…。そういうことにならないように努めるよ…」

「川掃除とかしてくれたら嬉しいかな」

「人間の姿を取れるなら、自分でゴミを拾って綺麗にすればいいだろ」

「まあ、川掃除が必要なほど汚れてないけどね。このあたりの人は、水もちゃんと綺麗に使ってくれてるよ」

「…そうか。でも、お前が流れてるのはこのあたりだけじゃないだろ?」

「降龍川っていうのは、このルクレィの国内だけの呼び方なんだ。隣の国に行けば名前が変わって、そしたら、僕の管轄外になってしまう。妖怪ってのは、名前に縛られるからね」

「ふぅん…」

「まあ、だから、水源から上流と中流の境目あたりまでの、一番綺麗にしておかないといけないところが僕の管轄だね」


そう言って、唐揚げを口に入れる。

それでご馳走さまのようだった。

…名前に縛られる、か。

ということは、三人の名前を教えてもらったが、これもあいつらを縛るものなのか?

真名を知られるのを嫌がって、仮名を付けているわけだしな。


「じゃあ、お風呂に入ってくるよ」

「ん?あぁ、それならオレも行く」

「えっ」

「なんだ」

「ぼ、僕は、男なんだよ、いちおう」

「知ってるけど。恥ずかしいのか?」

「………」

「分かったよ。お前とは別に入るとしよう。しかし、お前みたいな妖怪でも、異性と入るのは恥ずかしいものなのか?しかも、オレは人間だし」

「あ、当たり前だろ!人間も妖怪も関係ないし…。紅葉こそ、なんでそんな自然に、一緒に行くとか言えるんだよ!」

「オレは別に恥ずかしくないからな。でも、そうか。そのあたりは、人間と同じなんだな。お前、好きな子と目を合わせたり出来ないだろ」

「で、出来るよ…」


出来ないんだな。

…まあ、翡翠の恋愛事情にまでは深く突っ込まないことにしよう。



風呂から上がって部屋に戻ってみると、屋根縁で翡翠とツカサが何か話しているようだった。

すでに布団はちゃんと敷かれていて、先に秋華と撫子は寝てしまっている。


「何を話してるんだ、あいつらは」

「さあな。他人の話を盗み聞きするような趣味は持っていないのでな」

「その大きさでは盗み聞きなんて出来ないだろ」

「…それもそうだな」

「部屋に入るときくらいの大きさを保ってられたらいいのに」

「無理を言うな。変化はかなり力を使うのだぞ」

「分かってるよ…」

「皆がいるときには、なるべく外にいるようにする。それで我慢してくれ」

「それはいいんだけどな、別に」

「まったく、この身体は、人と交わって生活していくのには不便だな…」

「撫子や翡翠は、あの姿でも平気みたいだけど」

「撫子は、もうあの姿の方が普通なのだろう。随分と長い間、人里で暮らしてきたらしい。まあ、もとから力が強いというのもあるだろうが。翡翠は、今は真ん中といったところか。もとの姿の方が楽は楽だが、人間の姿になるのも私ほど苦ではない」

「ふぅん」

「私は山に籠ったきりで、人間と交流を持つこともなかったからな」

「だから、変化するときも、あんな半端だったのか?」

「あれは私の趣味だ」

「そうかよ…」

「いいではないか」

「悪いとは言ってない」

「ふむ」


まあ、あの姿では、人里には下りてこれないな。

大和も分かってるだろうけど。


「それで、どうだったのだ、寺子屋は」

「上々だったみたいだな。オレはチビたちの面倒を見てただけだし、翡翠の方が、授業も受けてたから、感想を聞くには打ってつけだと思うけど」

「あいつはどうも、まだ私に遠慮をしているようなのでな」

「そうか?まあ、大和の方が力が強いというようなことは言っていた気はするが」

「差など僅かだよ。あいつの方がずっと若いし、伸び代もある。それに、種族から見ても、妖力では座敷わらしに大噛みは勝てないよ」

「力の強さだけが、本当の強さではないということだろ」

「そうかもしれないな」


屋根縁で楽しそうに話している二人。

年齢が似たもの同士、会話も弾むのだろうか。

実際の年齢は、だいぶ違うようだけど。


「…ところで、あいつ、ここに泊まっていく気かな」

「さあな。しかし、寝支度もして、布団も出していたようだし、少なくとも今日は泊まる気なのかもしれないな」

「美味い料理が食べられるからって、ここに住み着く気じゃないだろうな…」

「まあ、川はすぐ裏だし、ここを拠点にしたとしても、特に問題はないだろう」

「別にいいけどな…」


ツカサの友達が増えたのは嬉しいことだ。

またパクリとやられないかが心配だけど。

…ツカサは、楽しんでた風があったからな。

大和や翡翠なら大丈夫だというのは分かってはいるが…。


「変わった性癖というのは、誰しも持ち得るものだ。まあ、私か降龍川、あとは、広場にいる龍の誰かであれば大丈夫だ。穏便にツカサの欲求を満たしてやることが出来るだろう」

「それは分かってるけどな…。でも、被食願望というのはどうなんだ?」

「特殊ではあるが、珍しくはないと聞く」

「ふぅん…」

「お前も、一度喰われてみれば、目覚めるやもしれんな。腹の中は、胃酸が出ている以外は、案外居心地のいい場所とも聞くぞ」

「また今度にしとくよ…」

「そうか」


私は、そんな性癖に目覚めたくない。

ツカサがやってほしいと言うなら、止める気はないが。

…ただ、そうだとしても、子供たちが安易に真似しないようにだけ、注意深く見張っておかないといけないけどな。

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