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「まあ座ってくれ」
「失礼します…」
「何も出せないけど…」
「あ…お構い無く…」
定型の挨拶には風華が答えていく。
知らない人の家ということで、おどおどしているみたいだけど。
「名前は?」
「美希だよ。キミたちは?」
「紅葉」「風華だよ」
「紅葉に風華ね」
「美希は、ここに住んでるの?」
「ううん。留守を預かってるだけ」
「どこかに定住してるのか?」
「へぇ。よく分かるね」
「土地には土地の匂いがあるけど、美希からは一定の匂いがしない」
「ふぅん。鼻が良いんだな」
「美希お姉ちゃんは、いろんなところを旅してるんだ!」
「ほぅ。旅人か」
「そんなたいそうなものじゃないよ。骨を埋める場所を探してるんだ」
「その歳でか?」
「まあね」
見たところ、風華とそんなに変わらない。
それでいて、自分の死に場所を探してるのか…?
「美希お姉ちゃん!お城で一緒に住も!」
「お城?あそこの?」
「うん!」
「へぇ。ってことは、どっちかが衛士さん?」
「どっちもだ。それに、望も衛士だ」
「はぇ~。望、衛士になったんだ」
「えへへ。今日なったばっかりだよ」
「響は?」
「わたしはまだだよ」
「響も、望に負けてちゃダメだぞ」
「うん!」
望も響も、すっかり美希に懐いているようだけど、一緒に旅でもしてたのか?
「ところで、美希はなんで留守番をしてるの?」
「ん?まあ、ちょっとした小遣い稼ぎだ」
「小遣い稼ぎ?」
「ああ。やっぱり、市場に並んでるものは魅力的だからな…。美味そうな肉…美味そうな野菜…美味そうなお菓子…」
「…食べるものばっかりだね」
「そうか?」
道中では、野草とか、その辺の動物しかないもんな。
きちんとしたものを食べたいと思うのは、至極当然のことだろう。
「そうだ。留守番の仕事はいつまでだ?」
「今日の夕方」
「じゃあ、一緒に夕飯、食べられるね!」
「ん?でも、城だろ?一般人が入っいってもいいのか?」
「門番の許可はいるが、門はいつでも開いている」
「ふぅん。まあ、考えとくよ」
「絶対来てね!」
「うーん、どうしようかな」
美希が考えるフリをすると、望と響は哀しそうな顔をする。
「ふふふ、分かった分かった。ちゃんと行くから、な?そんな顔をするな」
「「うん!」」
こうして、夕飯合戦の参加者がまた一人増えた。
正午を知らせる鐘が鳴る。
待ってましたと言わんばかりに、勢いよく立ち上がる望。
「ごはん!」
「そうだな」
「美希お姉ちゃんも一緒に行こ!」
「私はダメだ。留守番、だからな。ここを出るわけにはいかないんだ」
「むぅ…」
「夕飯は一緒だから、な?それで我慢してくれ」
「…うん」
「よしよし。いい子だ」
「えへへ…」
撫でてもらった嬉しさと、昼ごはんを一緒に食べられない残念さが入り混じったような顔をする二人。
すると、美希は懐から何かを取り出して、それぞれに渡す。
「約束の石だ。覚えてるか?」
「うん…」「覚えてる…」
「私は必ず、望と響、紅葉と風華と一緒に夕飯を食べます。この石に誓って」
「「ヤゥ、エル、ダウタ、カムナイル」」
「ヤゥ、ナム、ロウツ、カムナイル」
神々よ、約束せし者に力を。
神々よ、約束を受けし者に加護を。
だったかな。
さすが、いろんなところを旅してるだけはある。
たしか、ずっと北の民族のおまじないだ。
「これで大丈夫だな」
「うん」「大丈夫」
「じゃあ、行ってこい」
「うん!」「またね」
そして軽く別れを告げ、長屋を出た。
ふふ、今から夕飯が楽しみだな。
何か短い気もしますが。
きっと気のせいでしょう。