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「こ、こんにちは…」

「こんにちは」

「………」

「ほら、充分見ただろ。さっさと行け」

「えぇ…。まだ授業は始まってないし…」

「師匠。この方は?お知り合いですか?」

「まあな」

「どうも。キミは秋華かな」

「は、はいっ。あの、どうして、私の名前を?」

「紅葉に教えてもらったんだよ。優秀な弟子がいるってね」

「ゆ、優秀ですか…?」

「ふぅん…。潜在能力は紅葉よりも上なのかな…」

「そうらしいな、大和によると」

「えっ?何か仰いましたか?」

「いや、なんでもないよ」

「そ、そうですか…」

「秋華は、さっきはどこにいたの?」

「えっ、あ、あの…。算数に…」

「へぇ、そうなんだ」

「で、でも、間違いばっかりで、隣の望の方がずっと速く正確に計算出来てましたし…」

「最初は誰でも間違うものだよ。間違いから何を学ぶかってのが大事なんだ」

「それはそうかもしれませんが…」

「僕は算数はからっきしだから何も言えないけど、諦めずに頑張りなよ」

「はい…」


翡翠に頭を撫でてもらって、幾分かは笑ってみせるけど。

…まあ、算数は理解出来るようになったら、ちゃんと解けるようになるからな。

翡翠の言う通り、諦めないのが重要だ。


「それで、リュウは習字だったっけ?」

「………」

「あ、あれ?」

「お前の顔が厳ついから警戒してるんじゃないのか?」

「そ、そんなに厳ついかな…」

「いえ。私は、優しいお顔だと思いますよ」

「そう?ありがと…」

「………」


それでも、リュウは黙ったきりで。

少し困ったような顔をしている。

…本当に、何なんだろうか。


「キミ。民族学の授業、もうすぐ始めるよ」

「あ、教授」

「一番前の席で特に熱心に聞いていてくれたね。嬉しかったよ」

「あ、ありがとうございます」

「ふふふ。まあ、一通り声を掛けたら始めるから、席に着いていなさい」

「はい」

「では、衛士長さん。失礼いたします」

「ああ。ご苦労さま」

「いえいえ。年寄りの数少ない楽しみですから」

「そうか」

「はい。では」


教授は軽くお辞儀をすると、背中を真っ直ぐに伸ばして、まだ昼休みの騒がしさが残る広間の真ん中へ歩いていった。

…何歳くらいなんだろうか。

噂によれば、八十も近いとのことだったけど、そんな様子は全く見られないな。


「じゃあ、紅葉。行ってくるよ」

「ああ」

「またね、秋華、リュウ」

「はい。またあとで」

「………」


そして、そのまま翡翠は民族学の区画の方へ歩いていった。

途中で少し振り返ると、手を振ったりなんかして。


「…リュウ」

「………」

「どうしたんだ、急に?」

「…あの人、なんだか、変なかんじがしたの」

「変なかんじ、ですか?私は何も感じませんでしたが…」

「あいつは妖怪だ。大和とか撫子と同じな」

「えっ、そうなのですか?全然分かりませんでした…」

「そっか。そういえば、あれは、大和と同じ気配だったの」

「気配、ですか…。私は相変わらず何も…」

「まあ、個人差があるんだろうよ。とりあえず、次は何か話してやれよ」

「うん」

「それで、お前らは、午後はどうなってるんだ?」

「算数は午後はありません。代わりに、算盤の授業があるのですが」

「習字はあるの」

「そうか。出るのか?」

「はい、もちろん」

「わたしも、早く字が上手くなりたいの」

「そうだな。まあ、オレは引き続きチビたちの相手をしてるから。何かあったら言いにこい」

「はいっ」「うん」

「それで、いつからだ?」

「私はもうすぐです」

「わたしもなの」

「そうか。じゃあ、行ってこい」

「はいっ。行ってまいりますっ!」

「行ってくるの」

「ああ」


行ってくると言っても、結局は同じ部屋の中なんだけどな。

秋華は、ここからでも見えるし。

…キョロキョロしているな。


「…紅葉姉ちゃん」

「ん?なんだ、撫子。もう起きてきて大丈夫なのか?」

「紅葉姉ちゃんの傍にいる方が回復が早いだろうって、大和が。まだジンジン痛むけどさ…」

「ふぅん…。溢れてる妖力がどうとかいうやつか」

「うん。紅葉姉ちゃんのは、治癒の力が強いみたいだ」

「へぇ…。よく分からないが…」

「私自身もよく分からない。ただ、妖力の強いやつの近くにいたら気分がいいってくらいだ」

「だから、昨日もあんな突っ掛かるようなことを言ったのか?」

「うっ…。い、いいじゃん、なんでも…。私が下だってことは、もうよく分かったから…」

「お前が挑み掛かって来なければ、上下を決めることもなかったんだ。オレは、お前と秋華のような、対等な関係でいいと思っていたのに、だ」

「………」

「でも、お前は、上下を決めないと、言うことすら聞かないんだろ。それじゃ仕方ないよな」

「…ごめんなさい」

「謝ってほしいなんて思ってない。どうしてこうなったのか、きちんと反省してほしいんだ」

「………」


撫子は黙ったまま、俯いてしまって。

まあ、少しは反省してるということだろうか。


「…ごめんなさい」

「………」

「………」


固く握った手の甲に、雫が落ち始める。

何の涙かは分からないけど。

反省の涙なんだと信じたい。

…肋骨のヒビを刺激しないようにそっと腕を回して、頭を撫でてやる。


「あっ!凛も!凛もなでて!」

「お前なぁ…」

「おねーちゃん!」

「分かった分かった…。こいつは怪我人なんだ。丁重に扱ってやれ」

「けがにん?にんじゃのなかまか」

「怪我忍とは、また役に立たなさそうな忍者だな…」

「そんなことは、どうでもいい!」


お前が言い始めたことだろ…と突っ込んでおきたかったが、撫子が心配なので、凛も一緒に撫でておいてやる。

しかし、雰囲気はぶち壊しだな。

まあ、この騒がしい広間で雰囲気も何もあったものじゃないけど。

…とりあえず、もうそろそろ始まりそうだから、チビたちを集めに掛からないとな。

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