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「なんか、二日に一回くらい来てるよね」
「そうか?」
「うん」
風華の笛を買いに、市場へ繰り出した。
そんな頻繁に来てる気はしないんだけど、やっぱり来てるのかもしれない。
「お前らは、何か欲しいものはないのか?」
「わたしも、望お姉ちゃんみたいな笛が欲しい~」
「望は?」
「別に何もいらないよ」
「そうか」
笛は響の分も追加、と。
「お昼ごはんは~?」
「まだ早いでしょ」
「またこの前のところで食べようか」
「やった!」
それにしても、今日は大人しいな。
なんて思ってると
「あ、響!」
「な、何!?」
「あ!待ちなさい!」
やっぱり、こういうことになるんだな。
望は響の手を引っ張って、どこかに行ってしまった。
風華も早々に諦めて。
「もう…大丈夫かな…」
「笛も持ってるんだ。何かあったら吹くだろ」
「そうだといいけど…」
「それより、目的地、すぎたけど」
「えぇっ!?なんで言わないのよ!」
「いや。風華、望を追いかけてたし」
「店の前で立ち止まるなりなんなりしてよ!」
「次からはそうしよう」
「もう…」
少し引き返して、目的の店へ入る。
「よう。隊長さん」
「笛、ふたつ」
「…待ってな」
そう言って、奥へ行く。
「知り合い?」
「ああ。昔に衛士だったんだ」
「ふぅん」
「余計な話はするなよ。ほら、笛だ」
「ああ」
笛を受け取り、代金を払おうとすると。
「あー、いいよ。口止め料だ」
「そうか?悪いな」
「ふん…。ほら、散った散った」
「またな」
「…ああ」
軽く手を振り、店を出る。
「不思議な人だったね」
「そうか?」
「うん。なんというか、姉ちゃんに似た空気があったよね」
「まあ、そうだろうな」
「え?」
「あれは、オレの父さんだ。城に来てからのな」
「えぇっ!?」
「紅葉!余計なこと喋ってんじゃねえよ!」
さすが地獄耳。
店の中から怒鳴り声が聞こえた。
さっさと店から離れて、続きを話す。
「灯、いただろ?あいつは、父さんと母さんの実の子供だ」
「へぇ~」
「灯は、オレの人間で一番最初の友達であり、良き姉だ」
「でも、ずっと敬語だったよね?」
「いいって言ってるんだけどな。勤務中だから…って」
「じゃあ、私も敬語の方がいいですか?」
「やめてくれ。気持ち悪いから」
「あはは、そうだよね」
みんなも、こうやって気楽に話してくれたっていいのにな。
「あ、そうだ。望たち、どこに行ったのかな?」
「笛を吹いてみたらどうだ?ほら、風華の分」
「うん」
そして、笛をくわえて息を吹き込む。
甲高い音が鳴り響いた。
「…鳴ってるの?」
「ちゃんと鳴ってるぞ」
「ふぅん…」
すると、返答があった。
住宅地の方から聞こえてくるな…。
「どうしたの?」
「こっちだ」
「え?」
路地のひとつに入り、市場を抜ける。
「ど、どこに行くの?」
右に折れ、左に折れ。
………。
望と響の匂いを捕らえた
よし、これで。
「はぁ…はぁ…。何…?普通の長屋じゃない…」
でも、匂いはここに留まっている。
「お邪魔します」
「あ!ちょっと!」
「今日は客が多いな」
「あ、お母さん、お姉ちゃん」
望と響と、もう一人。
赤狼の女の子がいた。
誰なんでしょうね。
気になるような、ならないような。