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「大噛みというのは、見た通りの妖怪だ。その大きな顎で、あらゆるものを噛み砕くと言われている。災厄でもなんでもな。まあ、こいつほど力が強くて、普通の人間にも見えるとなれば、人間に影響を及ぼすことも出来るだろうな。それこそ、頭から丸呑みにしてしまったり」

「そんな怖い妖怪に、よくもたれ掛かってるよね…」

「別に何も怖くはないだろ。この毛皮、フカフカで温かいぞ。風華もどうだ」

「嫌だよ…」

「力も持たない間抜けな輩に使役されるのは、私も御免蒙りたいのでな。そういうのは、真名を聞かれる前に喰らってしまったりもするが。紅葉は、喰らってしまうには惜しい人間だ」

「なんで?」

「ここまで力が強くなってしまえば、同じ妖怪の中でさえも、なかなか対等に話し合える者はいない。そういう意味で、私にとって紅葉は貴重な存在だ。また、紅葉を喰らおうと思えば相当骨が折れるだろう。妖力の強い人間は非常に美味ではあるが、支払う代償もそれだけ大きくなる。私でも、紅葉と本気で闘うとなれば、よくて瀕死であろう。まあ、死に土産には充分すぎるだろうが。しかし、余程でない限り、喰らう前に死んでしまうだろうな」

「へぇ…。ますます姉ちゃんが人間離れしたものに見えてきたよ…。ねぇ、本当は、妖怪なんじゃないの?」

「力の強い人間が、そのまま妖怪となることも稀にあるからな。可能性はなきにしもあらず」

「人間だよ、オレは…」

「気付かないうちになってるかもしれないじゃない」

「風華は、よっぽどオレを妖怪に仕立て上げたいらしいな」

「そんなことないけどさぁ」

「けど、なんだよ」

「姉ちゃんが妖怪だったら、いろいろ納得いくなって」

「はぁ…」


風華は、私を何だと思ってるんだろうか。

ごく普通の人間だろうに。


「でもさ、寝込みとかを襲ったら、普通に食べられるんじゃないの?」

「それではつまらんだろう。苦労するからこそ、さらに美味になるというもの。それに、私にも誇りはある。寝込みを襲うなどという下劣な真似は、私自身が許さない。まあ、紅葉はおそらく、寝込みも襲わせてくれないだろうがな」

「もともと戦闘員だもんね、姉ちゃんは…」

「そういえば、そうだったな」

「自分で何言ってるのよ…」

「ははは。まあ、変な気を起こせば、損をするのは私ということだ」

「ふぅん…」

「買いかぶりすぎだと思うがな」

「えー。そうかなぁ」

「言っておくが、オレは怪物じゃないぞ」

「えぇ~」


まったく…。

褒められてるのか貶されているのか、よく分からないな。

いや、オモチャにされている気がする。

…と、廊下の方が騒がしくなってきて。


「師匠、師匠っ!」

「ん?なんだ?」

「秋華だな」

「でも、なんで?」

「さあ?」

「師匠っ!ただいま帰りましたっ!」

「お帰り。どうしたんだ、早いな」

「はい。師匠のことを心配しながら朝の自主稽古をしていたところ、師範代が何かの用事とかで来られなくなって、急遽稽古が取り止めになったんです」

「師範がいるだろ。なんで急に取り止めになるんだよ」

「いえ。今日は師範は忙しいということで、最初から来ないということになっていました」

「ふぅん…」

「だから、今日は師範代に稽古を見てもらう予定だったのですが…」

「師範代って何人かいるんじゃないの、普通は」

「いえ。私たちの道場には一人しかいません」

「えぇ…。不便なんだね」

「はい…。今日のようなときは特に…」

「まあいいじゃないか。ゆっくり休養を取れということだよ」

「そ、そうですか?」

「ああ」

「師匠にそう言っていただいて、少し安心しました」

「そうか」


ほっと胸を撫で下ろす秋華。

そして、何かに気付いたのか、下からゆっくりと視線を上げていく。


「はわわっ!とっても大きな犬さんがいますっ!」

「い、犬…」

「紹介しておこうか。こいつは、式神妖怪の大和だ」

「大和さんですか…?」

「ああ」

「わ、私は秋華といいますっ。や、大和さん、よろしくお願いしますっ」

「よろしく、秋華。…ところで、紅葉」

「なんだ」

「私を封印したというのは、この娘か?」

「そうだな」

「ふ、封印ですか?何の話でしょうか…?」

「ふむ。お前、妖術師になる気はないか?」

「ヨ、ヨウジュツ…?」

「おい。オレの弟子におかしなことを吹き込むな」

「おかしなことではないだろう。これだけの力を野放しにしておくのは勿体ない」

「あ、あの…。ヨウジュツシとは…」

「ふむ。妖術師は、妖術…つまり、妖怪の力を借りて、いろんなことをする者だ」

「は、はぁ…」

「姉ちゃん、話が飛躍しすぎてわけが分からないよ」

「そうか?まあ、私も噂程度でしか聞いたことがないけどな。妖術師は、百鬼夜行を従え、闇を闇へ葬り去っていく…という話だ。簡単に言ってしまえば、仕置人だな。裁けぬ闇を裁く、といったものだ」

「へぇ…」

「か、格好いいですっ!」

「えぇ…。秋華、やめときなよ…。百鬼夜行を従えるってことは、妖怪の親分になっちゃうってことだよ?」

「親分…。心地いい響きですねっ!」

「えぇ…」

「ははは。まあ、百鬼夜行を従えずとも、力の強い妖怪を一人だけ連れているという者も多い。それに、仕置人というよりは万屋だな、今は」

「万屋ですか?」

「困っている人がいたら、相棒である妖怪の力を使って助ける。今は、そういうかんじだな」

「や、やりたいですっ!師匠のお役に立ちたいですっ!」

「えぇ…。即決なの?」

「本当に好かれているな、紅葉は」

「大和さん、妖術師になる方法を教えてくださいっ!」

「まあ慌てるな。そうだな…。何から話そうか…」


大和は、部屋の天井を見つめて何かを考え始めた。

…私としても、秋華におかしなものに手を出してほしくないんだけど。

まあ、そのあたりは大和も充分理解してくれていると思う。

風華は不安そうにしてるけど、今は大和を信じてみよう。

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