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昼ごはんの時間になり、レオナと一緒に厨房へ食べにいく。
調理当番は進太だったから、今日の朝は、普通に起きていれば、待ったりしないでも食べられたはずだったのに。
まあ、過ぎたことは仕方がない。
…風華は、外回りがあるとかで、出ていってしまったけど。
気を遣わせてしまったかな。
「なぁ、姉ちゃん」
「なんだよ」
「リュカとはどうなん?」
「意味が分からないんだが」
「久しぶりに再会して、焼けぼっくりに火ぃつくとか言うやん」
「火がつく以前に、焼けぼっくりになっていない」
「えぇ、嘘やん」
「あいつは幼馴染みだ。それ以上でも以下でもない」
「そんなん。めっちゃ仲良かったやん」
「仲が良いのと好き合っているのとは違うだろ」
「なんで?よう一緒に逢引とかしてたやん」
「お前とか灯が遊んでる間、暇だから二人で散歩してただけだろ」
「せやん。うちらの面倒見ろゆわれてんのに」
「面倒なんて見ないでも、勝手に遊んでたじゃないか」
「そらせやけど」
「散歩くらい行かせてくれよ」
「散歩行って何してたんよ」
「何もしてない。ただ歩いてただけだ」
「えー。…や、やらしいこととかしてたんちゃうん?」
「興味津々だな、お前」
「全然興味ないし!」
「じゃあいいだろ」
「で、でも、姉ちゃんらが何してたか気になるし!」
「はぁ…。じゃあ、お前の言うやらしいことって何だよ」
「えっ?や、そ、そんなん分からへんし!うち、純潔やし!」
「純潔と言う割には、そういうことを気にするんだな」
「仕方ないですよ。レオナも、お年頃ですし」
「やらしいことなんて気にならんもん!進太も適当なこと言わんとって!」
「ふふふ。…ナナヤも、なんとなく気になるみたいです」
「そうなのか?」
「まあ、たぶん、僕ら男の方が、よっぽどやらしいことを考えてると思いますけどね」
「そういう生き物だろ、男は」
「そうですねぇ」
「し、進太、うちの裸とか想像してんちゃうやろな!」
「ははは。まあ、想像してる人もいるかもしれないな。でも、俺にはナナヤがいるから、レオナの裸にはあんまり興味ないかな」
「うっ…。ナ、ナナヤの裸には興味あんのか?てか、ナナヤて誰?」
「えっ、あ、ナ、ナナヤの…」
「ナナヤはこいつの恋人だ。こいつと同じ獅子で、まあ、優しいやつだよ」
「ふぅん」
「お、俺は、ナナヤの裸なんて…」
「え?まだそんな話してたん?」
「えっ?い、いや…」
「お前が、ついさっき進太に振った話だろ」
「えぇー」
「まあいいけど。それで?お前は、オレとリュカのどんなやらしいことを期待してたんだよ」
「えっ?えぇ…」
「お前が気になるのは何なんだ」
「うぅ…」
顔を真っ赤にして俯く進太のために、少し仕返ししてやる。
まあ、仕返しは別に望んでいなかったとしても、レオナの反応は面白いからよしとしよう。
「そ、そんなん…。そんなん…」
「なんだよ」
「うっ…。チュー…とか…」
「口付けがやらしいことなのか?」
「や、やらしいわ!あっ、姉ちゃん、リュカとチューしてたんやな!」
「していたが」
「……!」
レオナは、また狼化して、全身の毛を逆立てていた。
それから、進太に見られないうちに慌ててもとに戻って、顔を赤くする。
…まあ、純潔…というか、純真なのは間違いないだろう。
まだまだウブなやつだ。
「そ、そんなん、うちかてしたことあるし!」
「誰とだよ」
「だ、誰でもええやろ!」
「というか、なんで対抗する必要があるんだよ。オレとリュカが、お前たちに隠れて口付けをしていた。それが知りたかっただけなんじゃないのか?」
「べ、別にええやん!チューなんて、全然やらしいことちゃうし!」
「じゃあ、何がやらしいんだよ」
「そ、それは…。うーん…。し、進太!」
「えぇ!俺に投げるなよ!」
「乙女が困ってるんやから、助けんのが男やろ!」
「いや…。自爆したことを丸投げするような乙女はいないと思うけど…」
「う、うっさいわ!やらしいことってなんやねん!」
「無茶苦茶だなぁ…」
「お前も、最初は純潔だとか言ってたくせに、今はやらしいことに興味全開だな」
「そ、そんなことないわ!やらしいことになんか興味ない!姉ちゃんとリュカがチューしてても知らんし!」
また狼化しながら、そっぽを向く。
今度は、バッチリ進太に見られてるけど。
でも、進太には何も話していなかったんだけど、大して驚く様子もなくて。
「ホ、ホンマ、誰のせいや、こんな話になったん!」
「だから、お前が始めた話だろ。あと、進太。焦げ臭いぞ」
「えっ、あ、わっ!」
「まったく…」
「うちは、やらしいことになんか、全然興味ないし!」
「分かったから、大声を出すな。あと、ちゃんと戻れ」
「あっ…」
「はぁ…」
「し、進太…。うちの姿、見た…?」
「えっ?何?」
「み、見てへんねやったらええねんけど…」
「狼になってたやつ?何?何かあるのか?」
「えっ…?な、なんでビックリせえへんの?」
「なんでビックリするんだよ。姿は狼でも、レオナはレオナだし。変身するのだって、ナナヤも一緒だから」
「なんだ。ナナヤ、見せてたのか」
「あ、はい。ついこの前ですけど…」
「そうか」
「何…?ナナヤがなんて…?」
「ナナヤも、レオナみたいに変身出来るんだよ。まあ、ナナヤは獅子だけど。なんか、不思議な力が使えるんだってな」
「う、うちら家族以外にもおるん…?こんな力使えるんが…」
「ナナヤの場合は、お前らと違って、道具に頼らないといけないみたいだけどな」
「あ、レオナは使ってないんだ」
「ああ」
「そ、そんなん…」
「まあ、世界には俺たちの知らないことがたくさんあるんだ。俺は、昔に旅をしてて、それがよく分かった。だから、ナナヤが本物の獅子になるのだって、あれだけ旅をしてきたのに、俺の知らない世界はまだまだ広がってるんだなって思えたんだ」
「………」
「レオナのもそうだよ」
黒焦げになった魚を横によけながら、進太はニッコリと笑う。
それを見て、レオナの方が戸惑いを隠せないでいて。
「そんなん…。そんなん、うち、今までずっと隠してきたのに…。そんなすぐに受け入れられてしもたら、立つ瀬ないわ…」
「なんでだよ。いいじゃないか、そんなの。…まあ、不思議な力を使えるからって、気持ち悪がる人もいるかもしれないけど。でも、みんながみんな、そうじゃないと思う。だってさ、レオナの個性だろ?狼に変身出来るのって。みんな一人一人違うんだから。狼に変身出来る女の子だって、絶対どこかにいるよ」
「どこにおるん…?」
「ここに」
「……!」
「俺は、レオナのことも、ちゃんと受け入れるから。だから、もう泣くなよ」
「泣いて…へんもん…」
そう言いながらも流れる涙を拭いて。
それから、進太はレオナの頭を撫でる。
レオナは、最初は驚いたような顔をしてたけど、少し俯いて狼化していた。
「ずるいわぁ、自分…」
「そうかもな」
「………」
「まあ、俺に惚れちゃダメだけどな」
「それはないから安心し」
「即答されると、結構傷付くな…」
「………。惚れたりせんから…な。だから、もうちょい撫でてくれん…?進太兄ちゃん…?」
「…ずるいな、お前も」
「えへへ…。これでお互いさまやね…」
「まったく…」
それから、進太はまたレオナの頭を撫でる。
レオナは嬉しそうに尻尾を振って。
…レオナの、こういう、誰かに甘える姿というのは、なかなか見れないかもしれない。
私に甘えてくることもたまにあるけど。
でも、こうやって、誰かに甘えている姿を見るのは、ほとんど初めてかもしれないな。